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台風の子(3)

时间: 2022-11-18    进入日语论坛
核心提示: こう考かんがえるのは、当然とうぜんのことでした。しかし若わかいものは、元気げんきよく見みられました。男おとこも、女おん
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 こう考かんがえるのは、当然とうぜんのことでした。しかし若わかいものは、元気げんきよく見みられました。男おとこも、女おんなも、なんの屈託くったくもなさそうな顔かおつきをしています。むしろ、たまには、これくらいの苦くるしい経験けいけんをするほうが身みの薬くすりだと喜よろこぶようにさえいきいきとしていました。なかにも小ちいさな子供こどもたちは、世よの中なかがたちまち変かわったような気きがして、はだしで飛とび出だして、ざぶざぶと小川おがわとなった往来おうらいをふみわけていました。
「いつも、こんなように、ここへ川かわが流ながれているといいんだね。」
また一人ひとりの子こは、赤あかい糸いとを濁にごった水みずの中なかに流ながして、炎ほのおのごとく、へびのように、ちらちらするのをおもしろがって見みていました。ふだんなら、ここを自転車じてんしゃや、自動車じどうしゃが通とおって、夢ゆめにもこんな遊あそびがされるとは思おもわれなかったのです。まったく台風たいふうのおかげでした。なんでも新あたらしく、珍めずらしく、元気げんきのいいことが、子供こどもにとってうれしかったのでした。
夕刻ゆうこくのラジオは、いよいよ夜よるになると、風速ふうそく三十メートルに達たっするであろうというのです。
「兄にいさん、いま原はらっぱに建たてかけている家いえが、飛とぶかもしれないね。」
源吉げんきちは、風かぜの音おとをききながら、新聞しんぶんを見みていた兄あにに話はなしかけました。
「そんな家いえは飛とんでしまうだろう。この家いえの屋根やねだって飛とぶかもしれないぞ。」
「風速ふうそく三十メートルって、どんなかな。」
「白瀬大尉しらせたいいや、アムンゼンや、シャツルトンらの探検たんけんした南極なんきょくや、北極ほっきょくには、いつも三十メートル以上いじょうの暴風ぼうふうが吹ふいているそうだ。その氷原ひょうげんへ探検隊たんけんたいは、自分じぶんたちの国旗こっきをたてたんだ。すると旗はたが、すぐにちぎれたというから、それだけでも風かぜの烈はげしさがわかるのだ。」
オーロラの怪光かいこうが彩いろどる北極ほっきょく、ペンギン鳥ちょうのいる南極なんきょく、そこは、ふだん人間にんげんの住すむ影かげを見みない。ただ真まっ白しろな荒寥こうりょうとした鉛色なまりいろに光ひかる氷こおりの波濤はとうが起伏きふくしていて昼夜ちゅうやの区別くべつなく、春夏秋冬はるなつあきふゆなく、ひっきりなしに暴風ぼうふうの吹ふいている光景こうけいが目めに浮うかぶのでした。
「生いきているのは、台風たいふうだけでない。この世界せかいが生いきているのだ!」と、源吉げんきちは、心こころで叫さけびました。
果はたして、真夜中まよなかのこと、ぶつかる風かぜのために、家いえがぐらぐらと地震じしんのように揺ゆれるのでした。風かぜは東南とうなんから、吹ふきつけるのでした。電燈でんとうは二、三度ど明滅めいめつしたが、線せんが切断せつだんされたとみえて、まったく消きえてしまった。裏うらの大おおきな桜さくらと、かしの木きのほえる音おとが、闇やみのうちで死しにもの狂ぐるいに戦たたかっている獣けもののうなり声ごえを想像そうぞうさせました。
「いま台風たいふうは、僕ぼくの家いえの上うえを通とおりかけるのだ。龍夫たつおくんがくるだろう。」
源吉げんきちは、風かぜの比較的ひかくてき当あたらない、北窓きたまどの戸とを開あけて空そらを仰あおぐと、地球ちきゅうが動うごくように、黒雲くろくもがぐんぐんと流ながれている。けれど、またところどころに雲切くもぎれがしていて、そこからは、ほの白じろく光ひかりがもれるのでありました。
「龍夫たつおちゃん!」
源吉げんきちは、出でるだけの声こえを張はりあげて叫さけんだ。その声こえも、暴風ぼうふうに消けされて、ほかの人間にんげんの耳みみには入はいらなかった。そして、窓まどから差さし出だした紙かみの旗はたは、たちまち雨あめに破やぶり飛とばされて、竹たけの棒ぼうだけが手てに残のこったのでした。
「きっと龍夫たつおちゃんが、持もっていったんだ。」
そう思おもうと、不思議ふしぎや暗くらい空そらに大おおきな穴あなが開あいて、星ほしの光ひかりが、幾いくつか、ダイヤモンドのごとくかがやきました。
「龍夫たつおちゃん。」
もう一度ど、彼かれは、星ほしに向むかって叫さけんだのでした。
風かぜばかりでなく、星ほしも、雲くもも、ことごとく生いきていました。そして、ひとすじの細ほそい光線こうせんが、空そらから胸むねへ突つきさしたごとく感かんじて、真心まごころさえあれば、龍夫たつおが死しんだお父とうさんにあえたであろうように、源吉げんきちはいつでも台風たいふうの日ひには龍夫たつおにあえると信しんじたのでした。
台風たいふうの過すぎた、翌日よくじつの朝あさの空色そらいろは、いつもよりかもっと、もっときれいでした。源吉げんきちは、茫然ぼうぜんと台風たいふうの去さっていった跡あとの、はるかの地平線ちへいせんをながめていると、緑色みどりいろの空そらから、龍夫たつおが、にっこりと笑わらって、
「これから、僕ぼくは、お父とうさんと地球ちきゅうを一周しゅうして、さんご樹じゅのしげった南みなみの島しまへ帰かえるのだ。源げんちゃん、僕ぼくたちの住すんでいる、南みなみの方ほうへ、君きみもやっておいでよ。」
こういっているごとく、思おもわれたのでした。
 
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