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谷にうたう女(2)

时间: 2022-11-19    进入日语论坛
核心提示:くりの木きのこずえで、海うみの方ほうを見みながら、歌うたをうたっていた枯かれ葉はも、いつか地ちに落おちて朽くちてしまえば
(单词翻译:双击或拖选)
 
くりの木きのこずえで、海うみの方ほうを見みながら、歌うたをうたっていた枯かれ葉はも、いつか地ちに落おちて朽くちてしまえば、村むらを出でたおかよは、もう二年ねんもたって、すっかり都みやこのふうにそまったころです。
ある日ひおかよは、お嬢じょうさまのおへやへ入はいると、ストーブの火ひが燃もえて、フリージアの花はなが香かおり、そのうちは、さながら春はるのようでした。そして、蓄音機ちくおんきは、静しずかに、鳴なりひびいていました。しばらく、うっとりとして、彼女かのじょはお嬢じょうさまのそばで、その音おとにききとれていると、目めの前まえに広々ひろびろとした海うみが開ひらけ、緑色みどりいろの波なみがうねり、白馬はくばは、島しまの空そらをめがけて飛とんでいる、なごやかな景色けしきが浮うかんで見みえたのであります。
お嬢じょうさまは、窓まどのところへ歩あゆみ寄よると、はるかに建物たてものの頭あたまをきれいに並ならべている街まちの方ほうをごらんになりました。そして、自分じぶんでも、その歌うたの一節せつを口くちずさみなさいました。
「ねえ、おかよや、おまえ、この子守唄こもりうたをきいたことがあって?」といって、箱はこの中なかから一枚まいのレコードを抜ぬいて、盤ばんにかけながら、
「私わたしは、この唄うたをきくと悲かなしくなるの、東京とうきょうに生うまれて、田舎いなかの景色けしきを知しらないけれど、白壁しらかべのお倉くらが見みえて、青あおい梅うめの実みのなっている林はやしに、しめっぽい五月がつの風かぜが吹ふく、景色けしきを見みるような気きがするのよ。」といわれました。
やがて、蓄音機ちくおんきのうたい出だしたのは、
「ねんねん、ころころ、ねんねしな。
坊ぼうやは、いい子こだ、ねんねしな。
…………」
という、子守唄こもりうたでありました。
おかよは目めに涙なみだをうかべて、きいていました。哀あわれな、子供こどもを失うしなって気きの狂くるった、おきぬのことを思おもい出だしたからです。
「どう? あんたが泣なくくらいだから、やはりいいんだわ。この声楽家せいがくかは、有名ゆうめいな方かたなのよ。」
「いえ、お嬢じょうさま、どうか、今年ことしの夏なつ、私わたしの生うまれた村むらへいらしてください。谷たににはべにゆりが咲さいていますし、あの悲かなしい子守唄こもりうたをおきかせしたいのでございますから。」
おかよは哀あわれなおきぬの話はなしをしてきかせたのでした。
都会とかいで、はなやかな生活せいかつを送おくっていらっしゃるお嬢じょうさまは、高たかい窓まどからかなたの空そらをながめて、遠とおい、知しらぬ海うみの向むこうの国々くにぐにのことなどを、さまざまに想像そうぞうして、悲かなしんだり、あこがれたりしていられたのですが、いま、おかよの話はなしをきくと、このところへは、ほんとうにいってみる気きになりました。朝あさ、汽車きしゃに身みを委まかせればその日ひの中うちにもおかよの村むらへ着つくのだから。
また、月日つきひは、足音あしおとをたてずに、とっとと過すぎてしまいました。
地球ちきゅうの上うえは、やわらかな風かぜと緑みどりの葉はに被おおわれています。うぐいすは林はやしに鳴ないて、がけの上うえには、らんの花はなが香かおっていました。
気きの狂くるったおきぬは、その後ご、すこしおちついたけれど、もうこの村むらには用ようのない人ひととされて、山やま一つ越こした、あちらの漁村ぎょそんの実家じっかへ帰かえってしまったそうです。
「お嬢じょうさま、せっかくおつれもうして、あの女おんなのうたう子守唄こもりうたをおきかせすることができません。」と、おかよは、なげきました。それをききたいばかりに、わざわざここまで旅行たびをしたお嬢じょうさまの失望しつぼうを思おもったからです。
しかし、お嬢じょうさまは、都みやこにいらしたときのように、ここへきても笑わらっていらっしゃいました。
「だけど、いいわ。ここへやってきたかいがあってよ。山やまも谷たにも、私わたしが、夢ゆめで見みたよりか美うつくしいんですもの。」
このとき、谷たにで鳴なくうぐいすの声こえが、かすかにきこえてきました。そして、がけの上うえでは、らんの花はなが咲さいて、今朝けさから、金色こんじきの羽はねを輝かがやかしながら、小ちいさなはちが、幾いくたびもそのまわりを飛とんでいたのでした。
「まだ、あちらの山やまには、雪ゆきが光ひかっていること。」と、おかよが、ぼんやりと、その方ほうに見みとれていたときでした。
「ねんねん、ころころ、ねんねしな――。」
彼女かのじょは、たちまち谷たにに起おこる、きき覚おぼえのある、おきぬの声こえをきいたので、びっくりしたのです。
しかし、それは、そうでなかった。なにか美うつくしい花はなを見みつけて草くさのしげった、細ほそい道みちを下おりていった、お嬢じょうさまが、高たからかにうたった歌うたの声こえだったのであります。
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