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だまされた娘とちょうの話(2)

时间: 2022-11-19    进入日语论坛
核心提示:ある日ひのこと、古ふるくから、この病院びょういんへ出入でいりして、炊事婦すいじふや看護婦かんごふと、顔見知かおみしりとい
(单词翻译:双击或拖选)
 
ある日ひのこと、古ふるくから、この病院びょういんへ出入でいりして、炊事婦すいじふや看護婦かんごふと、顔見知かおみしりという老婆ろうばが、ふいに、お竹たけのもとへやってきて、前まえに約束やくそくがあるのだから、少年しょうねんの付つき添そいを代かわってもらいたいといいました。
「だしぬけで、お気きの毒どくですけれど、ほんとをいうと、あんたのような、若わかい、きれいな方かたは、こんなところにいるものでありませんよ。どんないいお屋敷やしきでも、また、キャバレーでも、おもしろくて、お金かねになるところがいくらもあるではありませんか。私わたしのような、おいぼれは、いくところがないから、しかたなしにこんな薬くすりくさい、陰気いんきなところにいるけれど、私わたしだって、若わかければ、一日にちだってがまんできやしない。」と、老婆ろうばは、もっともらしくまくしたてました。
けれど、お竹たけは、少年しょうねんがなんというだろうかと、その方ほうを見みましたが、老婆ろうばとは、かねて知しり合あいとみえて、だまっていたので、いまさらこの病院びょういんに未練みれんのあるはずがなし、その日ひのうちに、暇ひまをとって出でることにしました。
かの女じょは、老婆ろうばが、自分じぶんを美うつくしいといったのが、いつまでも頭あたまにあって、けっして、わるい気きがしませんでした。また口入くちいれ屋やへいくにしても、髪形かみかたちがきれいであれば、いっそう、いいところへ世話せわをしてくれるにちがいないと考かんがえて、かねて、一度ど入はいってみたいと思おもった、美容院びよういんを歩あるきながらさがしました。
たまたまあった、美容院びよういんの扉とびらを押おして内うちへ入はいると、室内しつないは、いい香かおりがただよい、花はなの乱みだれるように、美うつくしい娘むすめたちが、あふれるばかり集あつまっていました。かの女じょは、顔かおがぼうっとしたが、だんだん、おちつくと、ひとりひとりの、美うつくしい顔かおを見みたのでありました。そして、心こころひそかに、
「さっきまでいた病院びょういんと、こことのありさまは、なんというちがいだろう。」と、つぶやかずにいられませんでした。
そのとき、季節きせつはずれの、大おおきな黒くろいちょうが、どこから迷まよいこんだものか、ガラス窓まどにつき当あたって、しきりと、出口でぐちをさがしていました。
「かわいそうに、花園はなぞのと思おもって、香水こうすいや、電気でんきにだまされたんだわ。」
かの女じょは、まだ自分じぶんが、ちょうど、そのちょうであることに気きがつきませんでした。
思おもいのほか、電髪パーマネントに手間てまどられて、外そとへ出でたときは、いつしか西にしの方ほうの空そらが、わずかに淡紅色たんこうしょくをして、日ひが暮くれていました。平常へいじょう、むだづかいをせずにためていた金かねがあるので、これから、宿屋やどやで泊とまろうと、すでに顔かおなじみの口入くちいれ屋やへいこうと、その心配しんぱいはないけれど、さすがに心細こころぼそく思おもいました。病院びょういんで、少年しょうねんに田舎いなかの話はなしをしたら、
「ぼくは、そんなほたるが飛とんでいたり、魚さかなの釣つれる川かわのあるところが大好だいすきだ。なぜ、おねえちゃんは、こんなやかましい町まちの中なかが好すきなの。」と、ふしぎそうにいったことなど、思おもい出だされました。やがて、大通おおどおりへ出でようとすると、路地ろじの片かたすみに、ちょうちんをつけた、易者えきしゃのいるのが、目めに入はいりました。
そのちょうちんには、手相てそう、身みの上うえ判断はんだんと書かいてありました。かの女じょは、それを見みると、同おなじ道みちを往来おうらいして、いくたびかためらったが、ついに、そのほうへと近ちかづきました。
手相てそうを見みてくれるのは、まだ若者わかものだったが、若者わかものは、一目ひとめで、かの女じょを田舎いなかから出でて、まだ間まのないものだと知しりました。さながら、あひるが、化粧けしょうしたような歩あるきつきや、ただ、流行りゅうこうをまねさえすれば、美うつくしく見みえるとでも思おもっている、けばけばしくて、あかぬけのしないようすが、若者わかものにはかえってあわれみをそそったのでした。
「身みの上うえご相談そうだんですか。右みぎのほうの手てをお出だしください。」
はずかしそうにして出だす、お竹たけの手てを、掌てのひらから、つまさきまで、若者わかものは、うす暗ぐらい提燈ちょうちんに照てらしながら、虫眼鏡むしめがねでこまかにながめていたが、やがて、顔かおを上あげると、
「あなたは、正直しょうじきですから、ひとにだまされやすい。よく、よく、用心ようじんしなければなりません。」
お竹たけは、心こころの中なかで、これと同おなじようなことを田舎いなかで、近所きんじょのおじいさんがいったが、あのときは、正直しょうじきだから、おまえは人ひとにかわいがられるといった。都会とかいでは、どうして、反対はんたいなのだろうか、と、考かんがえながら、その後あとを聞きくと、
「年としまわりがわるいので、これから先さきに大損おおぞんをなさることがある。お金かねばかりでなく、身みの上うえにも、よくよく気きをつけなければなりませんぞ。いま、お国くにのほうでは、あなたに結婚けっこんの話はなしが持もち上あがっています。だが、あなたは、あとではたいへんしあわせになられます。」
かの女じょは、顔かおを赤あかくして、幾いくたびも頭あたまを下さげて、その前まえをはなれました。
若わかい易者えきしゃは、彼かれの先生せんせいから、いかなるばあいでも、相手あいてに希望きぼうを持もたせることを忘わすれてはならぬといましめられた、その教おしえを実行じっこうしたまでです。
自分じぶんは、田舎いなかへ帰かえれば、また、みんなから、やさしい、正直しょうじきな子こだといって、ほめられるだろうと、お竹たけは道みちを歩あるきながら、思おもいました。
ちょうど、このとき、一時じも早はやくかの女じょに出発しゅっぱつをすすめるように、どこかの駅えきで鳴ならす汽車きしゃの汽笛きてきの音おとが、青あおざめた夜空よぞらに、遠とおくひびいたのでした。
 
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