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小さな草と太陽

时间: 2022-11-23    进入日语论坛
核心提示:小さな草と太陽小川未明垣根かきねの内側うちがわに、小ちいさな一本ぽんの草くさが芽めを出だしました。ちょうど、そのときは、
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小さな草と太陽

小川未明


垣根かきねの内側うちがわに、小ちいさな一本ぽんの草くさが芽めを出だしました。ちょうど、そのときは、春はるの初はじめのころでありました。いろいろの花はなが、日ひにまし、つぼみがふくらんできて、咲さきかけていた時分じぶんであります。
垣根かきねの際きわは、長ながい冬ふゆの間あいだは、ほとんど毎朝まいあさのように霜柱しもばしらが立たって、そこの地ちは凍こおっていました。寒さむい、寒さむい天気てんきの日ひなどは、朝あさから晩ばんまで、その霜柱しもばしらが解とけずに、ちょうど六方ぽう石せきのように、また塩しおの結晶けっしょうしたように、美うつくしく光ひかっていることがありました。そのそばに生はえている青木あおきの葉はが黒くろずんで、やはり霜柱しもばしらのために傷いたんで葉ははだらりと垂たれて、力ちからなく下したを向むいているのでありました。
けれど、春はるになりますと、いつしか霜柱しもばしらが立たたなくなりました。そして、一時じは、ふくれあがって、痛々いたいたしそうに見みえた土つちまでが、しっとり湿しめっておちついていました。元気げんきのなかった、憂欝ゆううつな青木あおきの葉はも青あおい空そらをながめるように、頭あたまをもたげました。赤あかい実みまでがいきいきして、ちょうど、さんごの珠たまのように、つやつやしく輝かがやいて見みえたのです。
そのころのことでありました。垣根かきねの内側うちがわに、小ちいさな一本ぽんの草くさが芽めを出だしました。草くさは、この世よに生うまれたけれど、まだ時節じせつが早はやかったものか、寒さむくて、寒さむくて、毎日まいにち震ふるえていなければなりませんでした。
そのはずで、いくら、木々きぎのつぼみはふくらんできましても、この垣根かきねの内側うちがわには、暖あたたかな太陽たいようが終日しゅうじつ照てらすことがなかったからであります。
「ああ、いつになったら、お日ひさまが私わたしを暖あたためてくださるだろう。」と、草くさはつぶやいていました。
すると、この言葉ことばを聞ききつけた青木あおきは、
「我慢がまんをしろ、我慢がまんをしろ、俺おれなどは去年きょねんの秋あきから、日ひに当あたらずにいるのだ。それでも黙だまって不平ふへいをいわないじゃないか、我慢がまんをしろ、我慢がまんをしろ。」といいました。
草くさはこういわれると、小ちいさな頭あたまを上あげました。
「だって、おまえさんは大おおきいじゃないか、だから我慢がまんもされようが、私わたしはこんなに小ちいさいのだ。」と、うらめしそうにいいました。
けれど、もう青木あおきの木きはなんとも答こたえませんでした。そして、黙だまっていました。
草くさは、昼間ひるまは、まだ我慢がまんもできましたけれど、夜中よなかになりますと、寒さむくて、寒さむくて、震ふるえていました。そして、自分じぶんながら枯かれてしまわないかと、心配しんぱいしたほどでありました。
そのうちに、日ひはたちました。小鳥ことりがさえずって、頭あたまの上うえの高たかい空そらを飛とんでゆくのを、たびたび聞ききました。
「いつになったらお日ひさまは、私わたしを照てらしてくださるだろう。」と、草くさはつぶやいていました。
ある朝あさ、草くさは、まぶしい光ひかりが、青木あおきの葉はにさしているのを見みつけました。なんという美うつくしい光ひかりだろう。草くさは驚おどろいて、その黄金こがねの溶とけて流ながれたような光線こうせんを見みていますと、やがてその光ひかりは、赤あかい青木あおきの実みに燃もえつきました。すると、さんごの珠たまのような実みは、すきとおって見みえるように、美うつくしかったのです。草くさは、ただ、あ、あ、とため息いきをもらしているばかりでした。
けれど、それから、草くさに日ひの当あたるまでには、また幾日いくにちか間あいだがありました。ある日ひ、草くさは、今日きょうはばかに夜よが早はやく明あけたなと思おもって、目めを開ひらきますと、長ながい間あいだ待まちこがれた太陽たいようの光ひかりが、はや幾分いくぶんか自分じぶんの体からだに当あたっているのに気きづきました。
草くさはこおどりをして喜よろこびました。そのうちに太陽たいようは、にこやかな円まるい顔かおで、頭あたまの上うえをのぞきました。
「お日ひさま、私わたしはどれほど、あなたをお待まちしたかしれません。」と、草くさはいいました。
「ああ、そうだろう。俺おれは、休やすまずにやってきたのだが、それでもどんなにおまえに、待まち遠どおしかったかしれない。」と、太陽たいようは、やさしく、草くさをなぐさめました。
その日ひから、草くさは太陽たいようの光ひかりを受うけて、めきめきと成長せいちょういたしました。一月ひとつきばかりの間あいだに、どんなに草くさは大おおきくなったでしょう。そして、枝えだものびて、つぼみもつけて、いまにも花はなを咲さこうとしたのであります。
そのとき、太陽たいようは、ふたたび屋根やねのあちらに隠かくれようとしました。草くさは、日ひのかげったのに驚おどろいて、太陽たいようを仰あおいで、
「お日ひさま、また、どこへかいってしまわれるのでございますか。」と、目めをみはっていいました。
すると、太陽たいようはいつに変かわらぬ、にこやかな顔かおをして、
「もうおまえは、それでだいじょうぶだ。りっぱに花はなが咲さいて、実みを結むすぶことができる。まだ北きたの方ほうに、俺おれを待まっているものがたくさんいる。」と、太陽たいようはいいました。
「だが私わたしは、あなたにお別わかれするのが悲かなしくてなりません。」と、草くさはいいました。
「そんなに悲かなしまなくてもいい。俺おれは南みなみに帰かえるときに、もう一度どおまえを見みるだろう。」と、太陽たいようは答こたえました。
その後ご、草くさははたして、りっぱな花はなを咲さきました。脊せも、もっと高たかくのびて、青木あおきよりも高たかくなりました。そして、葉はもたくさんにしげりました。草くさは、内心ないしん大おおいに安堵あんどしていたのであります。もう、このくらい大おおきくなれば、太陽たいようにすがらなくともいい、青木あおきが冬ふゆの間あいだ我慢がまんをしていたように、私わたしも我慢がまんのできないことはないと思おもいました。
「青木あおきの木きさん、あなたはどんな花はなをお咲さきなのですか。」と、草くさは、黙だまっている青木あおきの木きに問といました。しかし、憂鬱ゆううつな青木あおきは、やはり黙だまっていました。
こんなに陰気いんきな生活せいかつをして、なにがおもしろいのだろうと、草くさは青木あおきのことを思おもいました。青木あおきには、みつばちもあぶも、ちょうも訪たずねてきませんでした。それにひきかえて、草くさには、朝あさから晩ばんまで、ちょうや、あぶや、みつばちが訪たずねてきました。
「ほんとうに、あなたはお美うつくしい。」といって、彼かれらは草くさをほめたたえていました。
草くさは昔むかしのことをすっかり忘わすれてしまって、夢ゆめを見みるような気持きもちでその日ひを送おくっていました。やがて、夏なつも末すえに近ちかづくと、太陽たいようはふたたび草くさの上うえに現あらわれました。
「もう俺おれは南みなみへ帰かえる。おまえともこれがお名残なごりだ。」と、太陽たいようは、いつになく悲かなしそうな顔かおをしていいました。
けれど草くさは、そんなに悲かなしいとも思おもいませんでした。青木あおきの木きより、俺おれは高たかいと心こころの中うちで誇ほこっていたからです。しかし、太陽たいようが南みなみへ去さってしまうと、まもなく、草くさは枯かれてしまいました。
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