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ちょうと三つの石(1)

时间: 2022-11-26    进入日语论坛
核心提示:ちょうと三つの石小川未明あるところに、まことにやさしい女おんながありました。女おんなは年としごろになると、水車屋すいしゃ
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ちょうと三つの石

小川未明

あるところに、まことにやさしい女おんながありました。女おんなは年としごろになると、水車屋すいしゃやの主人しゅじんと結婚けっこんをしました。
村むらはずれの、小川おがわにかかっている水車すいしゃは、朝あさから晩ばんまで、唄うたをうたいながらまわっていました。女おんなも主人しゅじんも、水車すいしゃといっしょに働はたらきました。
「なんでも働はたらいて、この村むらの地主じぬしさまのように金持かねもちにならなければだめだ。」と、主人しゅじんは頭あたまを振ふりながら、妻つまをはげますようにいいました。
妻つまも、そうだと思おもいました。そして、それよりほかのことをば、考かんがえませんでした。春はるになると、緑色みどりいろの空そらはかすんで見みえました。木々きぎには、いろいろの花はなが咲さきました。小鳥ことりは、おもしろそうにこずえにとまってさえずりました。
夏なつになると、真まっ白しろな雲くもが屋根やねの上うえを流ながれました。女おんなは、ときどき、それらのうつりかわる自然しぜんに対たいして、ぼんやりながめましたが、
「ぐずぐずしていると、じきに日ひが暮くれてしまう。せっせと働はたらかなけりゃならん。」
と、そばから主人しゅじんに促うながされると、気きづいたように、また、せっせと働はたらきました。
女おんなは、一日にち、頭あたまから真まっ白しろに粉こなを浴あびて、働はたらいていました。二人ふたりは、まだ、楽らくな日ひを送おくらないうちに、主人しゅじんは、病気びょうきにかかりました。そして、その病気びょうきは、日ひに日ひに、重おもくなるばかりでした。
医者いしゃは、ついに恢復かいふくの見込みこみがないと、見放みはなしました。そのとき、主人しゅじんは、この世よを見捨みすててゆかなければならぬのを、なげきましたばかりでなく、女おんなは、夫おっとに別わかれなければならぬのを、たいへんに悲かなしみました。
「俺おれは、おまえを残のこして、独ひとりあの世よへゆくのを悲かなしく思おもう。けれど、もうこうなってはしかたがない。先さきにあの世よへいって、おまえのくるのを待まっているから、おまえは、この世よを幸福こうふくに暮くらしてからやってくるがいい。」
と、主人しゅじんは、涙なみだながらにいいました。
女おんなは、泣ないて聞きいていましたが、
「どうか、わたしのゆくのを待まっていてください。あの世よへゆくには、山やまを上のぼるといいますから、峠とうげのところで、わたしのゆくのを待まっていてください。」と、女おんなはいいました。
主人しゅじんは、安心あんしんしてうなずきました。そして、ついにこの世よから立たってしまったのであります。
女おんなは、泣なき悲かなしみました。しかし、どうすることもできませんでした。その日ひから、一人ひとりとなって働はたらいていました。
水車すいしゃの音おとは昔むかしのように、唄うたをうたってまわっていましたけれど、女おんなはけっして、昔むかしの日ひのように幸福こうふくでなかった。
女おんなは、一人ひとりで生活せいかつすることは困難こんなんでありました。それを知しった村むらの人ひとは、気きの毒どくに思おもいました。
「おまえさんは、まだ若わかく、美うつくしいのだから、お嫁よめにゆきなさるがいい、ゆくならお世話せわをしてあげます。」と、女おんなに向むかって、しんせつにいってくれるものもあった。
女おんなは、夫おっとが死しぬときに、先さきへいって待まっているという、約束やくそくをしたことを思おもい出だすと、そんな気きにはなれませんでした。
「死しんだ主人しゅじんに対たいしてすまない。」と、女おんなは答こたえました。
しかし、村むらの人ひとは、女おんなのいうことをかえって笑わらいました。
「人間にんげんというものは、死しんでしまえば、ろうそくの火ひの消きえたようなものだ。それよりも、生いきているうちがたいせつなのだから。」と申もうしました。
女おんなは、そうかと思おもいました。急きゅうに、心細こころぼそいような感かんじがして、ついに、お嫁よめにゆく気きになってしまいました。
女おんなは、機織はたおりの家いえに、二度どめに嫁とついだのであります。そして、今度こんどは、一日にちじゅう機はたを織おって、夫おっとの仕事しごとを助たすけました。夫おっとは、また、妻つまをかわいがりました。女おんなは、前まえに水車場すいしゃばの男おとこに嫁とついだ日ひのことを忘わすれて、いまの夫おっとを、なによりもたいせつに思おもうようになりました。
女おんなは、織物おりものの入はいった、大おおぶろしきの包つつみをしょって、街道かいどうを歩あるいて、町まちへ出でることもありました。頭あたまの上うえの青空あおぞらは、いつになっても変かわりがなかったけれど、また、その空そらを流ながれる白しろい雲くもにも変かわりがなかったけれど、女おんなのようすは変かわっていました。
水車場すいしゃばには、知しらぬ人ひとが入はいって住すまうようになりました。
「若わかいうちに、うんと働はたらいて、年としをとってから楽らくな暮くらしをしたいものだ。」と、二番ばんめの夫おっとはいいました。
彼女かのじょも、また、そう思おもいました。
「ほんとうに、そうでございます。」と、女おんなは答こたえた。
そして、夫婦ふうふは、いっしょうけんめいに、家業かぎょうに精せいを出だしたのであります。四、五年ねんたちました。
すると、夫おっとが病気びょうきにかかりました。病気びょうきはだんだんと重おもくなって、医者いしゃにみてもらうと、とても助たすからないということでありました。
夫おっとは、死しんでゆく自分じぶんの身みの上うえを悲かなしみました。女おんなは、また、夫おっとに別わかれなければならぬのをなげきました。
「私わたしが死しんでしまったら、後あとでどんなにおまえは困こまるだろう、しかし正直しょうじきにさえ働はたらいていれば、この世よの中なかにそう鬼おにはない、あまり心配しんぱいしないほうがいい。」と、夫おっとは、悲かなしみに沈しずんでいる妻つまをなぐさめていいました。
「わたしは、自分じぶんのことを思おもって、悲かなしんでいるのでありません。あなたにお別わかれしなければならぬのが悲かなしいのです。」と、女おんなは答こたえました。
「なに、私わたしは、あの世よへいって、おまえのくるのを待まっている。おまえは、できるだけ、この世よの中なかを幸福こうふくに送おくってくるがいい。」と、夫おっとはいった。
「あの世よへいくときには、なんでも高たかい山やまを上のぼるそうです。どうか、その峠とうげのところで待まっていてください。」と、女おんなはいいました。
夫おっとは、うなずいて、なんの心残こころのこりもなく、ついにこの世よを去さってしまったのです。
女おんなは、また一人ひとりになりました。そして、たよりない日ひを送おくらなければならなくなりました。村むらの人ひとは、この不ふしあわせの女おんなに同情どうじょうをしました。
「まだ若わかいんだから、いいところがあったら、お嫁よめにいったがいい、お世話せわをしてあげます。」と、村むらの人ひとはいった。
「そんなことをしては、死しんだ夫おっとにすみません。」と、女おんなは涙なみだながらに答こたえました。
「すむも、すまないもない。死しんでしまった人ひとは、消きえたも同おなじものだ。あの世よなどというものは、まったくないものです。」と、村むらの人ひとはいいました。
女おんなは、ほんとうにそうかと思おもいました。そして、人ひとにすすめられるままに、三みたびお嫁よめにゆきました。
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