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月とあざらし(1)

时间: 2022-11-26    进入日语论坛
核心提示:月とあざらし小川未明北方ほっぽうの海うみは、銀色ぎんいろに凍こおっていました。長ながい冬ふゆの間あいだ、太陽たいようはめ
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月とあざらし

小川未明


北方ほっぽうの海うみは、銀色ぎんいろに凍こおっていました。長ながい冬ふゆの間あいだ、太陽たいようはめったにそこへは顔かおを見みせなかったのです。なぜなら、太陽たいようは、陰気いんきなところは、好すかなかったからでありました。そして、海うみは、ちょうど死しんだ魚うおの目めのように、どんよりと曇くもって、毎日まいにち、毎日まいにち、雪ゆきが降ふっていました。
一ぴきの親おやのあざらしが、氷山ひょうざんのいただきにうずくまって、ぼんやりとあたりを見みまわしていました。そのあざらしは、やさしい心こころをもったあざらしでありました。秋あきのはじめに、どこへか、姿すがたの見みえなくなった、自分じぶんのいとしい子供こどものことを忘わすれずに、こうして、毎日まいにちあたりを見みまわしているのであります。
「どこへいったものだろう……今日きょうも、まだ姿すがたは見みえない。」
あざらしは、こう思おもっていたのでありました。
寒さむい風かぜは、頻しきりなしに吹ふいていました。子供こどもを失うしなった、あざらしは、なにを見みても悲かなしくてなりませんでした。その時分じぶんは、青あおかった海うみの色いろが、いま銀色ぎんいろになっているのを見みても、また、体からだに降ふりかかる白雪しらゆきを見みても、悲かなしみが心こころをそそったのであります。
風かぜは、ヒュー、ヒューと音おとをたてて吹ふいていました。あざらしは、この風かぜに向むかっても、訴うったえずにはいられなかったのです。
「どこかで、私わたしのかわいい子供こどもの姿すがたをお見みになりませんでしたか。」と、哀あわれなあざらしは、声こえを曇くもらして、たずねました。
いままで、傍若無人ぼうじゃくぶじんに吹ふいていた暴風あらしは、こうあざらしに問といかけられると、ちょっとその叫さけびをとめました。
「あざらしさん、あなたは、いなくなった子供こどものことを思おもって、毎日まいにちそこに、そうしてうずくまっていなさるのですか。私わたしは、なんのために、いつまでも、あなたがじっとしていなさるのかわからなかったのです。私わたしは、いま雪ゆきと戦たたかっているのです。この海うみを雪ゆきが占領せんりょうするか、私わたしが占領せんりょうするか、ここしばらくは、命いのちがけの競争きょうそうをしているのですよ。さあ、私わたしは、たいていこのあたりの海うみの上うえは、一通ひととおりくまなく馳かけてみたのですが、あざらしの子供こどもを見みませんでした。氷こおりの蔭かげにでも隠かくれて泣ないているのかもしれませんが……。こんど、よく注意ちゅういをして見みてきてあげましょう。」
「あなたは、ごしんせつな方かたです。いくら、あなたたちが、寒さむく、冷つめたくても、私わたしは、ここに我慢がまんをして待まっていますから、どうか、この海うみを馳かけめぐりなさるときに、私わたしの子供こどもが、親おやを探さがして泣ないていたら、どうか私わたしに知しらせてください。私わたしは、どんなところであろうと、氷こおりの山やまを飛とび越こして迎むかえにゆきますから……。」と、あざらしは、目めに涙なみだをためていいました。
風かぜは、行いく先さきを急いそぎながらも、顧かえりみて、
「しかし、あざらしさん、秋あきごろ、猟船りょうせんが、このあたりまで見みえましたから、そのとき、人間にんげんに捕とられたなら、もはや帰かえりっこはありませんよ。もし、こんど、私わたしがよく探さがしてきて見みつからなかったら、あきらめなさい。」と、風かぜはいい残のこして、馳かけてゆきました。
その後あとで、あざらしは、悲かなしそうな声こえをたててないたのです。
あざらしは、毎日まいにち、風かぜの便たよりを待まっていました。しかし、一度ど、約束やくそくをしていった風かぜは、いくら待まってももどってはこなかったのでした。
「あの風かぜは、どうしたろう……。」
あざらしは、こんどその風かぜのことも気きにかけずにはいられませんでした。後あとからも、後あとからも、頻しきりなしに、風かぜは吹ふいていました。けれど同おなじ風かぜが、ふたたび自分じぶんを吹ふくのをあざらしは見みませんでした。
「もし、もし、あなたは、これから、どちらへおゆきになるのですか……。」と、あざらしは、このとき、自分じぶんの前まえを過すぎる風かぜに向むかって問といかけたのです。
「さあ、どこということはできません。仲間なかまが先さきへゆく後あとを私わたしたちは、ついてゆくばかりなのですから……。」と、その風かぜは答こたえました。
「ずっと先さきへいった風かぜに、私わたしは頼たのんだことがあるのです。その返事へんじを聞ききたいと思おもっているのですが……。」と、あざらしは、悲かなしそうにいいました。
「そんなら、あなたとお約束やくそくをした風かぜは、まだもどってはこないのでしょう。私わたしが、その風かぜにあうかどうかわからないが、あったら、言伝ことづてをいたしましょう。」といって、その風かぜも、どこへとなく去さってしまいました。
海うみは、灰色はいいろに、静しずかに眠ねむっていました。そして、雪ゆきは、風かぜと戦たたかって、砕くだけたり、飛とんだりしていました。
こうして、じっとしているうちに、あざらしはいつであったか、月つきが、自分じぶんの体からだを照てらして、
「さびしいか?」といってくれたことを思おもい出だしました。そのとき、自分じぶんは、空そらを仰あおいで、
「さびしくて、しかたがない!」といって、月つきに訴うったえたのでした。
すると、月つきは、物思ものおもい顔がおに、じっと自分じぶんを見みていたが、そのまま、黒くろい雲くものうしろに隠かくれてしまったことをあざらしは思おもい出だしたのであります。
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