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月夜と眼鏡(1)

时间: 2022-11-26    进入日语论坛
核心提示:月夜と眼鏡小川未明町まちも、野のも、いたるところ、緑みどりの葉はに包つつまれているころでありました。おだやかな、月つきの
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月夜と眼鏡

小川未明


町まちも、野のも、いたるところ、緑みどりの葉はに包つつまれているころでありました。
おだやかな、月つきのいい晩ばんのことであります。静しずかな町まちのはずれにおばあさんは住すんでいましたが、おばあさんは、ただ一人ひとり、窓まどの下したにすわって、針仕事はりしごとをしていました。
ランプの灯ひが、あたりを平和へいわに照てらしていました。おばあさんは、もういい年としでありましたから、目めがかすんで、針はりのめどによく糸いとが通とおらないので、ランプの灯ひに、いくたびも、すかしてながめたり、また、しわのよった指ゆびさきで、細ほそい糸いとをよったりしていました。
月つきの光ひかりは、うす青あおく、この世界せかいを照てらしていました。なまあたたかな水みずの中なかに、木立こだちも、家いえも、丘おかも、みんな浸ひたされたようであります。おばあさんは、こうして仕事しごとをしながら、自分じぶんの若わかい時分じぶんのことや、また、遠方えんぽうの親戚しんせきのことや、離はなれて暮くらしている孫娘まごむすめのことなどを、空想くうそうしていたのであります。
目めざまし時計どけいの音おとが、カタ、コト、カタ、コトとたなの上うえで刻きざんでいる音おとがするばかりで、あたりはしんと静しずまっていました。ときどき町まちの人通ひとどおりのたくさんな、にぎやかな巷ちまたの方ほうから、なにか物売ものうりの声こえや、また、汽車きしゃのゆく音おとのような、かすかなとどろきが聞きこえてくるばかりであります。
おばあさんは、いま自分じぶんはどこにどうしているのすら、思おもい出だせないように、ぼんやりとして、夢ゆめを見みるような穏おだやかな気持きもちですわっていました。
このとき、外そとの戸とをコト、コトたたく音おとがしました。おばあさんは、だいぶ遠とおくなった耳みみを、その音おとのする方ほうにかたむけました。いま時分じぶん、だれもたずねてくるはずがないからです。きっとこれは、風かぜの音おとだろうと思おもいました。風かぜは、こうして、あてもなく野原のはらや、町まちを通とおるのであります。
すると、今度こんど、すぐ窓まどの下したに、小ちいさな足音あしおとがしました。おばあさんは、いつもに似にず、それをききつけました。
「おばあさん、おばあさん。」と、だれか呼よぶのであります。
おばあさんは、最初さいしょは、自分じぶんの耳みみのせいでないかと思おもいました。そして、手てを動うごかすのをやめていました。
「おばあさん、窓まどを開あけてください。」と、また、だれかいいました。
おばあさんは、だれが、そういうのだろうと思おもって、立たって、窓まどの戸とを開あけました。外そとは、青白あおじろい月つきの光ひかりが、あたりを昼間ひるまのように、明あかるく照てらしているのであります。
窓まどの下したには、脊せのあまり高たかくない男おとこが立たって、上うえを向むいていました。男おとこは、黒くろい眼鏡めがねをかけて、ひげがありました。
「私わたしは、おまえさんを知しらないが、だれですか?」と、おばあさんはいいました。
おばあさんは、見知みしらない男おとこの顔かおを見みて、この人ひとはどこか家いえをまちがえてたずねてきたのではないかと思おもいました。
「私わたしは、眼鏡売めがねうりです。いろいろな眼鏡めがねをたくさん持もっています。この町まちへは、はじめてですが、じつに気持きもちのいいきれいな町まちです。今夜こんやは月つきがいいから、こうして売うって歩あるくのです。」と、その男おとこはいいました。
おばあさんは、目めがかすんでよく針はりのめどに、糸いとが通とおらないで困こまっていたやさきでありましたから、
「私わたしの目めに合あうような、よく見みえる眼鏡めがねはありますかい。」と、おばあさんはたずねました。
男おとこは手てにぶらさげていた箱はこのふたを開ひらきました。そして、その中なかから、おばあさんに向むくような眼鏡めがねをよっていましたが、やがて、一つのべっこうぶちの大おおきな眼鏡めがねを取とり出だして、これを窓まどから顔かおを出だしたおばあさんの手てに渡わたしました。
「これなら、なんでもよく見みえること請うけ合あいです。」と、男おとこはいいました。
窓まどの下したの男おとこが立たっている足あしもとの地面じめんには、白しろや、紅あかや、青あおや、いろいろの草花くさばなが、月つきの光ひかりを受うけてくろずんで咲さいて、香におっていました。
おばあさんは、この眼鏡めがねをかけてみました。そして、あちらの目めざまし時計どけいの数字すうじや、暦こよみの字じなどを読よんでみましたが、一字じ、一字じがはっきりとわかるのでした。それは、ちょうど幾いく十年前ねんまえの娘むすめの時分じぶんには、おそらく、こんなになんでも、はっきりと目めに映うつったのであろうと、おばあさんに思おもわれたほどです。
おばあさんは、大喜おおよろこびでありました。
「あ、これをおくれ。」といって、さっそく、おばあさんは、この眼鏡めがねを買かいました。
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