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とうげの茶屋(2)

时间: 2022-11-27    进入日语论坛
核心提示:しかし、このきつねの話はなしは、よほど誠まことしやかに、伝つたえられたものとみえ、その翌日よくじつだったか、村むらの助役
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しかし、このきつねの話はなしは、よほど誠まことしやかに、伝つたえられたものとみえ、その翌日よくじつだったか、村むらの助役じょやくが、茶屋ちゃやへ入はいってくると、
「おじいさん、わるいきつねが出でて、人ひとを騒さわがすそうだが、ここでは、なにも変かわったことはないかね。」と、問といました。
おじいさんは、にこにこしながら、
「あめ屋やさんが、ばかされたといいますが。」
「村むらの女おんなどもも、町まちからの帰かえりに、ぶらさげてきた塩しおざけをとられたといっている。なんでも、後あとからついてきて、さらったものらしい。」
「それは、いつのことですか。」
「つい、二、三日前にちまえのことで、まだうす暗ぐらくなったばかりのころだそうだ。」
そうきくと、おじいさんの目めへ、二、三人にんの若わかい女おんなれんが、ぺちゃくちゃとしゃべりながら、この家いえの前まえを通とおった、姿すがたが浮うかびました。その中なかの一人ひとりは、背せにさけをぶらさげていたが、からだをゆすって笑わらうたびに、さけが、右みぎへ、左ひだりへ、ぶらぶらと、振ふり子このようにうごいて、途中とちゅうで落おちなければいいがと、こちらから見みていて、思おもったのを記憶きおくに呼よびもどしました。
「これから、寒さむくなって、えさがなくなると、どんないたずらをするかしれない。」
助役じょやくは、こういって、たばこに、火ひをつけました。
「どこか、道みちで落おとしたのでありませんか。」と、おじいさんは、いいました。
「なに、逃にげていくきつねのうしろ姿すがたを見みたというから、ほんとうのことだろう。」と、助役じょやくは、そう信しんじていました。
「おじいさん、きつねなんか、まあどうでもいいがね、それより、来年らいねんはこの前まえをバスが通とおるというじゃないか。」と、助役じょやくは、あらたまって、さもおおげさに、いいました。
「バスがで、ございますか。」
「まだ、知しらないとみえるな。そうしたら、いままでのように、歩あるくものがなくなるだろう。」
「歩あるくものが、なくなりましょうな。そうすれば、もう、この商売しょうばいもどうなりますか。」
おじいさんは、力ちからなくいいました。
「世よの中なかが、便利べんりになれば、一方ぽうに、いいこともあるし、一方ぽうには、わるいこともある。しかし、そこは頭あたまの働はたらかせようだ。考かんがえてみさっしゃい。近ちかい他たの村むらから、みんなこの道みちへ出でてくるだろう。バスの停留場ていりゅうじょうが、この家いえの前まえにでも着つくことに決きまったものなら、この店みせはいくら繁昌はんじょうするかしれないぜ。」
「そうでございましょうか。」と、おじいさんは、白髪頭しらがあたまをかしげて、あたらしくいれた茶ちゃを助役じょやくの前まえへ出だしました。助役じょやくは茶ちゃわんをとり上あげながら、
「それも、運動うんどうするのはいまのうち、早はやいほうがいいぜ。」といいました。
「運動うんどうするといいましても、なにぶん、この年寄としよりひとりではどこへも出でられません。」と、おじいさんは、かしこまってすわり、ひざの上うえで、しなびた手てをこすっていました。
「なに、おまえさんがその気きなら、代かわって運動うんどうをしてやってもいい。」と、若わかい助役じょやくは、相手あいての心持こころもちを読よみとろうと、鋭するどく、おじいさんの顔かおを見みました。
おじいさんは、心こころで、どうせそれには金かねがいるんだろう。いったい、いくらばかりあったら、その望のぞみがかなえられるのかと、もじもじやっていました。
「いま、話はなしをきいて、すぐといっても、分別ふんべつもつくまいから、おじいさん、よく考かんがえておかっしゃい。」
そう、いいのこすと、助役じょやくは店みせを出でていきました。
おじいさんは、このころから、なにか新あたらしい問題もんだいが、身みに起おこると、しきりに心細こころぼそさを感かんじました。それは、年としのせいかもしれません。そして、遠とおくはなれている一人ひとりの息子むすこのことを思おもうのでした。いよいよ、いっしょになって、頼たよろうかとも考かんがえるのであります。
おじいさんは、客きゃくがいなくなって、ひとりになると、このあいだ、せがれがよこした、手紙てがみを出だして、見みていました。それにはそちらは、じき寒さむくなって雪ゆきが降ふりますが、こちらは冬ふゆもあたたかです。父上ちちうえも、どうかこちらへいらして、親子おやこいっしょにお暮くらしくださいませんか。私わたしどもも、まだ子供こどものないうちに孝行こうこうしたいと思おもいます、というようなことが書かいてありました。たぶん、せがれが、工場こうじょうの休やすみ時間じかんに書かいたものとみえ、工場こうじょうの用箋ようせんが使つかってありました。おじいさんは、それらの文字もじににじむ、親思おやおもいの情じょうをうれしく、ありがたく感かんじ、手紙てがみをいただくようにして、また仏壇ぶつだんのひきだしへしまいました。長年ながねん苦楽くらくを共ともにした女房にょうぼうが、また、せがれにはやさしかった母ははが、いまは霊れいとなって、ここにはいり、なにもかもじっと見みている気きがして、おじいさんは花生はないけの水みずをかえ、かねをたたいて、つつましく手てを合あわせました。
このとき、人ひとのきたけはいがしました。
「このごろは、めっきり、早はやく日ひが暮くれるのう。」
そういいながら入はいったのは、年としとった百姓しょうでありました。
「いま、町まちのもどりかの。」と、おじいさんは、親したしげに迎むかえました。
百姓しょうは、おじいさんのそばへ寄よって、腰こしを下おろしました。おじいさんのおし出だす火鉢ひばちにあたって、昔風むかしふうの太ふといきせるに火ひをつけました。
二人ふたりは、小学校時代しょうがっこうじだいからの友ともだちでありました。ほかにも仲なかのよかったものもあったが、早はやく死しんだり、あるいは、この土地とちにいなくなったりして、この年としとなるまでつき合あいをし、たがいに身みの上話うえばなしを打うち明あけるのは、わずかこの二人ふたりぐらいのものであります。
「一本ぽんつけるかの。」
「それを、たのしみに、町まちで飲のみたいのを我慢がまんしてきたわい。」
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