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銅像と老人(1)

时间: 2022-11-27    进入日语论坛
核心提示:銅像と老人小川未明田舎いなかに住すんでいる人々ひとびとは、遠とおい都みやこのことをいろいろに想像そうぞうするのでした。そ
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銅像と老人

小川未明


田舎いなかに住すんでいる人々ひとびとは、遠とおい都みやこのことをいろいろに想像そうぞうするのでした。そして、ぜひ一度どいってみたいと、思おもわないものはないのであります。
「ああ私わたしも、足あし・腰こしのじょうぶなうちに、東京見物とうきょうけんぶつをしてきたいものだが、なかなかそう思おもってもいざ出でかけるということは、できないものだ。」と、おじいさんは、いいました。
「おじいさん、また、秋あきになると忙いそがしくなりますが、いまは、ちょうど暇ひまのときですから、すこし暑あついが、東京見物とうきょうけんぶつにいっておいでなさいませんか……。」と、せがれがいいました。
おじいさんは、うれしそうに笑わらいながら、
「なに、いまいかなくとも、また、そのうちに、いいおりがあるにちがいないから、そのときやってもらおう。」と、答こたえました。
若わかいものたちは、平常へいぜい、おじいさんが、この年としになるまで働はたらいているのを、感謝かんしゃしていましたから、みんなが、口くちをそろえて、
「おじいさん、いっておいでなさいまし。」といいました。
「しかし、おじいさん、一人ひとりでゆかれますか。それが、心配しんぱいです。東京とうきょうは、電車でんしゃや、自動車じどうしゃが通とおったりしますから、それが心配しんぱいです。」と、せがれが、いいました。
おじいさんは、まだ、きかぬ気きの、がんこそうな体からだを揺ゆすって、日ひに焼やけた顔かおで、笑わらいながら、
「なに、かえって、一人ひとりというものは、いいものだ、気楽きらくでな。まだ、年としを取とっても、手足てあしはきくし、目めも見みえれば、耳みみもよく聞きこえる。そんな、心配しんぱいはいらない。私わたしは、いっても、じきに帰かえってくるから……。」といいました。
「じきに、お帰かえりなさらんでも、留守るすはだいじょうぶです。おじいさんがいられなくても、私わたしたちだけで精せいを出だせば、田たや畑はたけのことはできます。ゆっくりと、いろいろなところを見物けんぶつして、おいでなさい。」
「おじいさん、ほんとうに、ごゆっくりしておいでなさいまし。」と、せがれの女房にょうぼうがいいました。
「おじいさん、僕ぼくもつれていっておくれよ。」と、そばで、この話はなしを聞きいていた、孫まごの正吉しょうきちがいいました。
おじいさんは、正吉しょうきちの頭あたまをなでて、
「おまえなどは、大おおきくなれば、いくらでもいって見みられる。私わたしが東京見物とうきょうけんぶつにいったら、なにを土産みやげに買かってきてやったらいいものかのう……。」
「ねえ、おじいさん、僕ぼくも、つれていっておくれよ……。」
「ばか、おじいさんは、幾日いくにちも泊とまってきなさるんだ。」
このとき、おじいさんは、東京とうきょうのにぎやかさを、ちょっと頭あたまの中なかで想像そうぞうしました。そして、もう、その人ひとたちの雑踏ざっとうしている中なかを分わけて、公園こうえんや、名所めいしょや、方々ほうぼうの建物たてものを見物けんぶつに歩あるいている、自みずからの姿すがたを目めに描えがいていたのです。
「西郷さいごうさんの銅像どうぞうも、いったらぜひ見みてきたいものだ。」と思おもいました。
おじいさんは、若わかい時代じだいから、この英雄えいゆうの物語ものがたりを聞きいて、深ふかく崇拝すうはいしていました。そして、上野うえのの公園こうえんへいったら、かならず、この銅像どうぞうを見みてこなければならぬということも知しっていました。
「そういってくれるなら、一週間しゅうかんばかり、田たや畑はたけの暇ひまのうちに、見物けんぶつしてこようか……。」と、おじいさんはいいました。
「そう、なさいまし。」
それで、家うちじゅうのものは、みんな、おじいさんの仕度したくをてつだいました。いよいよ仕度したくもできて、おじいさんは、東京見物とうきょうけんぶつに出でかけることになりました。
「正坊しょうぼうや、いってくるぞ。帰かえりには、たくさん土産みやげを持もってきてやるから、おとなしくして待まっているのだぞ。」と、おじいさんは、正吉しょうきちの頭あたまをなでました。そして、おじいさんは、自分じぶんの故郷こきょうに別わかれを告つげたのです。
汽車きしゃは、おじいさんを東京とうきょうへつれてきました。田舎いなかにいて、思おもったより、都会とかいのにぎやかなこと、人間にんげんや、自動車じどうしゃの往来おうらいのはげしいことに目めをみはりました。それからというもの、毎日まいにち、宿屋やどやから出でては、巡査じゅんさに道みちを聞きいたり、人ひとにたずねたりして、あちら、こちらと見物けんぶつして歩あるきました。ある夜よ、横よこになって、疲つかれた足あしをたたきながら、
「遊あそんで歩あるくのも、なかなか骨ほねのおれることだ。田圃たんぼへ出でて働はたらくのと変かわりはない。明日あすは、上野うえのの山やまへいって、西郷さいごうさんの銅像どうぞうを見みてこよう……。」と、おじいさんは、独ひとりごとをいって床とこにはいって休やすみました。
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