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銅像と老人(2)

时间: 2022-11-27    进入日语论坛
核心提示:その晩ばん、おじいさんは、家うちにいて、正坊しょうぼうを相手あいてにして、話はなしをしている夢ゆめを見みました。夜よが明
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その晩ばん、おじいさんは、家うちにいて、正坊しょうぼうを相手あいてにして、話はなしをしている夢ゆめを見みました。
夜よが明あけると、いい天気てんきでした。そして、暑あつくなりそうでした。しかし、おじいさんは、電車でんしゃにも乗のらず、街まちの中なかを見物けんぶつして、上野うえのの方ほうを指さしてきたのです。高たかくつづいた石段いしだんを踏ふんで、上野うえのの山やまに登のぼると、東京とうきょうの街まちが、はてしなく、目めの下したに、見みおろされました。しばらく、そこでおじいさんは、あたりをながめていました。
「西郷さいごうさんの銅像どうぞうは、どちらでございますか?」と、おじいさんは人ひとにたずねました。
「あれですよ。」と、その人ひとは、笑わらって、あちらの方ほうを指ゆびさしました。その人ひとは、田舎いなかから、見物けんぶつに出でてきたのだなとうなずいて、おじいさんのようすをながめて去さりました。
「なるほど。」と、おじいさんは、銅像どうぞうを目めあてに歩あるいてゆきました。そして、心こころの中なかで、
「これが、偉えらいお方かたの銅像どうぞうかな……。」と、つぶやいたのです。
ちょうどこのとき、銅像どうぞうの下したのところで、人ひとだかりがしてわいわいといっていました。田舎いなかの静しずかなところに生活せいかつしたおじいさんには、何事なにごとも珍めずらしかったのでした。
おじいさんは、目めを銅像どうぞうから放はなすと、その人ひとだかりの方ほうへ寄よって、肩かたと肩かたの間あいだを分わけるようにして、のぞいてみたのでした。すると、小ちいさな男おとこの子こが、迷子まいごになったとみえて、悲かなしそうに、声こえをあげて泣ないている。それを巡査じゅんさがすかしたり、なだめたりしていたのでありました。
これを見みると、おじいさんは、びっくりして、「正坊しょうぼうじゃないか……。」といって、もうすこしで飛とび出だそうとしたのです。

清水良雄しみずよしお・絵え[#「清水良雄しみずよしお・絵え」はキャプション]

「しかし、孫まごが、どうして一人ひとりで、こんなところへきているはずがあろう……。」と、おじいさんは、すぐに思おもい返かえした。けれど、見みれば見みるほど、かわいい正吉しょうきちに、年としごろから、頭あたまかっこうまでよく似にていたのでした。
「かわいそうに、どうしたということだろう……。」
おじいさんは、故郷こきょうにいる孫まごの姿すがたを目めに描えがきました。すると、いつのまにか、その目めには熱あつい涙なみだが、いっぱいたまっていました。
迷子まいごは、お巡まわりさんにつれられて、あちらへゆきました。その後あとから、ぞろぞろと人々ひとびとがついてゆきます。
「どこへゆくのだろう?」
おじいさんは、まだ、なんとなく、その子供こどもに心こころが惹ひかれたので、自分じぶんもみんなといっしょに後あとからついてゆきました。
いつしか、石段いしだんを降おりて、電車でんしゃの通とおっている方ほうへまごついてゆきました。おじいさんの頭あたまの中なかは、
「どこの子こだろう……かわいそうに。そして、親おやたちは、また、なんという不注意ふちゅういなんだろう……。うちの正坊しょうぼうは、いまごろどうしているかしらん……。」ということで、いっぱいでありました。
おじいさんは、どこまで、自分じぶんは、ついてゆくのだ? ということに気きがつきました。そのときは、街まちの真まん中なかにきていたのです。ふたたび、上野うえのの山やまへ上のぼる気きにもなれず、宿やどへ帰かえってまいりました。
「天気てんきぐあいはいいようだが、圃たんぼのものは、いまごろどんなになったろう?」と、故郷こきょうのことが考かんがえられました。おじいさんは、土産物みやげものなどを買かって、帰かえりを急いそいだのでありました。
やがて、おじいさんは、村むらに帰かえってみんなとくつろいで、話はなしをしていました。
「おじいさん、西郷さいごうさんの銅像どうぞうをごらんになりましたか。」と、せがれがたずねた。
「おお見みてきたとも……。」と、おじいさんは答こたえた。
「犬いぬをつれていられるといいますが。」
「犬いぬか……。」
「小ちいさな犬いぬですか?」
おじいさんは、それを見みなかったのでした。西郷さいごうさんの顔かおも、ちょっと見みたばかりで、迷子まいごのほうに気きをとられたのでした。子供こどものようすが、孫まごの正吉しょうきちに、あまりよく似にていたので……銅像どうぞうのことなど忘わすれてしまった。そして、もう一度どよく、銅像どうぞうを見みようと思おもっているうちに、街まちへ出でてしまって、それきりになってしまったのです。
「犬いぬは、見みなかったな……。」
「そんなに、小ちいさな犬いぬですか?」
こんな話はなしをしていると、遊あそびにきていた、近所きんじょの男おとこは、二、三年ねん前まえ、東京とうきょうへいって、よく西郷さいごうの銅像どうぞうを見みてきたので、
「なに、あれが目めに入はいらないはずがないのだがなあ……。」と、そばであきれた顔かおをしました。
「おじいさんは、なにを見みてきなすったのだろう……。」と、せがれの女房にょうぼうはいって、おかしがりました。
おじいさんは、さすがにきまりの悪わるい思おもいをしました。これを見みた、せがれは、いくら達者たっしゃのように見みえても、年としをとられて、もうろくなされたのかしらんと、老父ろうふの身みの上うえを案あんじて、なんとなくそれから話はなしもはずまず、物悲ものがなしくなったのです。
その後のち、おじいさんが、上野うえのの公園こうえんで、迷子まいごを見みて、それが孫まごに似にていたということを物語ものがたったとき、家内かないのものははじめて、銅像どうぞうをよく見みなかった理由りゆうがわかって、それほどまでに、孫まごを思おもっていてくださるかということと、おじいさんは、まだもうろくされたのでないということを知しって、大おおいに喜よろこんだのであります。
 
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