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はちとばらの花

时间: 2022-12-04    进入日语论坛
核心提示:はちとばらの花小川未明はちは、人間にんげんの邪魔じゃまにならぬところに、また、あんまり子供こどもたちから気きづかれないよ
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はちとばらの花

小川未明


はちは、人間にんげんの邪魔じゃまにならぬところに、また、あんまり子供こどもたちから気きづかれないようなところに、巣すをつくりはじめました。
仲間なかまたちといっしょに、朝あさは早はやく、まだ太陽たいようの上のぼらないうちから、晩方ばんがたはまたおそく、まったく日ひの沈しずんでしまうころまで、せっせと働はたらいたのであります。
彼かれらが、こうして働はたらいているときに、この世よの中なかでは、いろいろなおもしろいことや、またおもしろくないことなどが起おこっても、けっして、それに目めもとまらなければ、また心こころのひかれるようなことがなかったほど、いっしょうけんめいであったのでした。
ひまなとんぼが遊あそんでいたり、おしゃべりなせみが鳴ないていたりする間あいだに、はちはせっせと働はたらいていました。
一ぴきのはちは、巣すを離はなれて、外そとへいっていて、すこし暇ひまがとれたのでした。
「ああおそくなった。早はやく帰かえっておてつだいをしなければならぬ。」と思おもって、急いそいで、青あおい空そらの下したを、自分じぶんたちの巣すの方ほうに向むかって、一直線ちょくせんに走はしってきました。
すると、どうでしょう。留守るすの間まにたいへんなことが起おこりました。せっかく、幾日いくにちとなく、日ひも夜よも精せいを出だして、やっと半分はんぶんも造つくった巣すは、たたき落おとされてめちゃめちゃに砕くだかれ、そのうえに、仲間なかままでが幾いくひきとなく殺ころされていたからです。これを見みて、はちは、気きが遠とおくなるほど驚おどろきました。そして、悲かなしみました。
「だれが、こんなことをしたのだろう?」と考かんがえましたが、すぐそれは、人間にんげんのいたずら子こがしたということがわかりました。
そこへ、外そとへ出でた仲間なかまが、つぎつぎともどってきました。そして、みんなが、この有あり様さまを見みておどろき、腹はらをたてぬものはなかったのです。
砕くだかれた、巣すのまわりを飛とびまわり、どうしたらいいものかと思案しあんに暮くれました。憎にくいいたずら子こを針はりで刺さしてやりたいと思おもいましたが、どこへ逃にげたか、その子供こどもらの、影かげも、形かたちもあたりには見みえませんでした。
「どうしたら、いいものだろうか。」
「また、巣すを造つくり直なおそう。」
「そんな元気げんきが、私わたしたちにあるものか。」
はちたちは、たがいに、思おもい思おもいの話はなしをしましたが、すぐには、とても仕事しごとが手てにつきませんので、いつかまたいっしょに働はたらくこともあろうが、この悲かなしみの癒いえるまでは、みんなが別わかれようということになりました。
一ぴきのはちは、あてもなく、そこから立たち去さりました。そのときの気持きもちはどんなにさびしかったでしょう。空そらを飛とんでくると、下したに花園はなぞのがあって、美うつくしいばらが、いまを盛さかりに咲さいているのを見みました。
はちは、つい降おりる気きになって、そのばらの上うえへとまり、いい香においを思おもう存分ぞんぶん吸すうことにしました。クリーム色いろの美うつくしい花はなは、なんの心配しんぱいもなさそうに、愉快ゆかいげに見みえます。これにくらべて、はちは、心こころに悲かなしみがあったので、ひたすらばらの身みの上うえをうらやまずにはいられませんでした。花はなは、その明あかるい顔かおを向むけて、「あなたは、どうなさいましたのですか。」と、はちに向むかってたずねた。
はちは、やさしく花はなに聞きかれたので、なにから物語ものがたったらいいかと思おもっていましたやさきへ、また、人間にんげんのいたずら子こが、あちらから、のこのこと花園はなぞのの方ほうにやってきました。
はちはあわてて飛とび立たって、すこし離はなれたところにとまって、ながめていました。子供こどもは、しばらくそこに立たって、花はなを見みていました。はちは、何事なにごとも起おこらなければいいがと、花はなの身みの上うえが案あんじられて、胸むねがどきどきしていました。
そのとき、子供こどもは、手てを伸のばして花はなに触ふれようとしました。すると、ばらは、刺とげでちくりと子供こどもの指ゆびさきをさしました。子供こどもは、まだ小ちいさかったから、すぐに泣なき出だして家いえの方ほうへ駆かけてゆきました。はちは美うつくしい花はなが、思おもいきったことをするものだとたまげて見みていますと、家いえの中なかから、お母かあさんが出でてきました。
「こんどは、花はながひどいめにあわされるだろう。」と、はちは、だまって、小ちいさくなって、ようすをうかがっていると、お母かあさんは、花はなに対たいしては、なんともいわずに、かえって、子供こどもが、花はなを折おろうとしたのは悪わるいことだといって、子供こどもをしかったのであります。
「なんという、あなたは幸福こうふくな方かたですか。私わたしたちが針はりでさしてごらんなさい、人間にんげんはどんなに怒おこることかしれません。私わたしたちは、なにもしないのに、巣すを取とられたり、殺ころされたりします。いったいこれはどうしたことでしょうか……。」と、人間にんげんの姿すがたが見みえなくなると、ふたたびばらの花はなの上うえにとまって、はちはいいました。
クリーム色いろのばらの花はなは、すこぶる傲慢ごうまんそうな顔かおつきに見みえました。
「はちさん、それは、あたりまえです。自分じぶんのことをいうのは、おかしいが、あなたは方々ほうぼうを飛とびまわりなさいますが、もし、わたしより、きれいな花はなをごらんなさったら、教おしえてください。そして、あなたご自身じしんの顔かおは、どんなであるか、ちょっと水みずの面おもてへ映うつしてごらんなされば、すべてわかることと思おもいます。」と、ばらの花はなはいいました。
はちは、なんとなく恥はずかしさを感かんじました。
「いえ、私わたしは、まだあなたほど美うつくしい花はなを見みたことがありません。」といって、はちはすぐに飛とび立たって、水みずたまりへやってきました。そこで、自分じぶんの顔かおを映うつしてみました。
「あっ!」といって、はちは、うしろへひっくり返かえりそうになりました。どうして、自分じぶんたちは、こんなに怖おそろしく、また醜みにくい顔かおに生うまれてきたのであろう?
水みずたまりの中なかを、いつも変かわらぬ円まるい顔かおをして、太陽たいようがのぞいていました。太陽たいようは、にこにことはちのおかしそうなようすを見みて、笑わらっていました。
「お日ひさま、どうして、私わたしたちばかり、こんなに不ふしあわせでなければならぬのでしょうか。そして、あのばらの花はなは、なにをしたって、しかられもせず、かえって幸福こうふくに暮くらされるというのは、どうしたことなんでしょうか。」と、うらめしそうに訴うったえました。
なんといっても太陽たいようは、ただにこにこと笑わらって、黙だまって聞きいていたばかりであります。
はちは、その夜よは、歎なげきながら、この水みずたまりのほとりで過すごしました。そして、明あくる朝あさ、ばらの花はなのいい香においを嗅かごうと思おもってやってきました。すると、意外いがいにも、いつのまにか、その花はなは、枝えだの中なかほどから切きり取とられたとみえて、もう、その花園はなぞのにはなかったのであります。
はちは、すべてのものの上うえに、平等びょうどうである運命うんめいについて考かんがえさせられたのであります。切きり取とられたばらから見みれば、いま自分じぶんたちは、どんなに幸福こうふくであろうか? はちはふたたび働はたらくべく、そして仲間なかまを呼よび集あつめて、もう一度ど、巣すを作つくるために勇いさんでかなたへ飛とんでゆきました。
――一九二六・五――
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