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初夏の空で笑う女(1)

时间: 2022-12-05    进入日语论坛
核心提示:初夏の空で笑う女小川未明あるところに、踊おどることの好すきな娘むすめがありました。家いえのうちにいてはもとよりのこと、外
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初夏の空で笑う女

小川未明


あるところに、踊おどることの好すきな娘むすめがありました。家いえのうちにいてはもとよりのこと、外そとへ出でても、草くさの葉はが風かぜに吹ふかれて動うごくのを見みては、自分じぶんもそれと調子ちょうしを合あわせて、手てや足あしを動うごかしたり、体からだをしなやかに曲まげるのでした。
また、日ひの輝かがやく下したの花園はなぞので、花はなびらがなよなよとそよ風かぜにひらめくのを見みると、たまらなくなって、彼女かのじょは、いっしょになってダンスをしたのであります。
両親りょうしんは、自分じぶんの娘むすめをもてあましてしまいました。母親ははおやは、ダンスなどというものは、きらいでありましたから、
「もう、これほどまでいって、それでも聞きかないで、踊おどりたいなら、おまえは家うちにいないほうがいいから、かってにゆきたいところへいって、踊おどりたいだけ、踊おどったらいい。」と、母親ははおやはいいました。
母親ははおやは、娘むすめに裁縫さいほうを教おしえたり、また行儀ぎょうぎを習ならわしたりしたいと思おもったからです。けれど娘むすめは、それよりか、自分じぶんかってに踊おどりたかったのであります。
「お母かあさん、私わたしは、もっと旅たびへいって、踊おどりのけいこをいたします。そして、それで身みをたてたいと思おもいますから、どうぞ、お暇ひまをください。」と頼たのみました。
両親りょうしんは、いつか、娘むすめが自身じしんで気きがつくときがあるであろうと思おもって、涙なみだながらに、それを許ゆるしました。
娘むすめは、あるときは、雲くもの流ながれる方ほうへ向むかって歩あるいていきました。また、あるときは、水みずの流ながれる方ほうへ向むかって、旅たびを続つづけました。そして、白壁しらかべや、赤あかい煉瓦れんがなどの見みえる、気持きもちのいい町まちへ着つきました。
彼女かのじょは、町まちの中なかを歩あるいていますと、小ちいさな劇場げきじょうのようなところがあって、そこには美うつくしい花はなの飾かざりがしてあり、旗はたなどが立たててありました。そして、看板かんばんに、「どなたでも、踊おどりたいと思おもう人ひとは、踊おどりなさい。歌うたいたいと思おもわれる人ひとは、歌うたいなさい。そのかわり、上手じょうずでなければ、人々ひとびとが笑わらいます。」と、書かいてありました。
彼女かのじょは、この劇場げきじょうの前まえに立たって考かんがえました。
「踊おどりたいには、踊おどりたいが、上手じょうずに踊おどれるだろうか? 下手へたに踊おどって、人々ひとびとから笑わらわれやしないだろうか?」
しかし、彼女かのじょは、べつに頼たよっていくところのきまった身みでもありませんから、上手じょうず、下手へたはそのときの運命うんめいと思おもって、とにかく出でて踊おどることにしました。
彼女かのじょは、みんなの前まえで踊おどりました。
「草くさの葉はの踊おどり」
「赤あかい花はなのダンス」
こうした、二つの踊おどりは、みんなに不思議ふしぎな感かんじを与あたえました。みんなは、喜よろこびました。拍手はくしゅしました。彼女かのじょは、あたかも、なよなよと草くさの葉はが風かぜにもまれるように、柔やわらかに体からだを波打なみうたせて踊おどりました。また、真紅まっかに咲さき乱みだれた花はなが、風かぜに吹ふかれて、いまにも散ちりそうなようすを、手てを振ふり、足あしを動うごかし、体からだをひねって、してみせたのであります。
「なんというおもしろい踊おどりだろう……。」と、みんなは口々くちぐちにいいはやしました。
ここに、金持かねもちのお嬢じょうさまがありました。お父とうさんや、お母かあさんは、たくさんのお金かねを残のこして、この世よの中なかから去さられたので、お嬢じょうさまはりっぱな、大おおきな家いえになに不自由ふじゆうなく、独ひとりで暮くらしていられました。
このお嬢じょうさまが、ちょうど劇場げきじょうにきて、娘むすめの踊おどりを見みていられましたが、踊おどりばかりでなく、この娘むすめがたいそう気きにいられました。
「おまえさんは、わたしの家うちへきませんか。」と、お嬢じょうさまは、踊おどりが終おえると、娘むすめにあって話はなされました。娘むすめはお嬢じょうさまに向むかって、
「私わたしは、ただ踊おどりたいのです。私わたしを自由じゆうに踊おどらせてくださればまいります。」といいました。
「わたしは、おまえさんから、その踊おどりを習ならいたいのですから、そんな、気兼きがねはすこしもいりません。」と、お嬢さまさまは答こたえられました。
娘むすめは、その日ひから、お嬢じょうさまの家いえへ住すむことになりました。
お嬢じょうさまの家いえは、りっぱなお家うちでした。そして、青あおい着物きものをきた、もう一人ひとり美うつくしい娘むすめがいました。その娘むすめは、いい声こえで一日にち唄うたを歌うたっているのでした。
「この娘むすめさんは、おまえさんと異ちがって歌うたうことが好すきなんです。それで、こうして、好すきな唄うたをうたっているのですよ。おまえさんは、今日きょうからかってに、この家うちで踊おどりなさるがいい。」と、お嬢じょうさまは、いわれました。
娘むすめは、自由じゆうなところだと思おもいました。そして、はじめて、長ながい間あいだの望のぞみがかなったように思おもいました。いい声こえで、歌うたっていた少女しょうじょは、ぶどうのような、うるんだ目めでじっと、新あたらしく、ここへきた娘むすめを見みながら、
「あなたは、草くさの葉はや、赤あかい花はなから、踊おどりを教おそわったとお姉ねえさまから聞ききましたが、私わたしは、また唄うたを小鳥ことりから、あのみみずから……風かぜから、いろいろなものから習ならいましたの。私わたしは青あおい着物きものを着きて、こうして歌うたっていると、ちょうど自分じぶんが小鳥ことりのような気きがして、それは、うれしいんですよ……。」
青あおい着物きものの少女しょうじょが、お嬢じょうさまを姉ねえさんといいますので、彼女かのじょもまた、お嬢じょうさまのことを姉ねえさんということにしました。
この唄うたを歌うたうことの好すきな少女しょうじょは、やはり自分じぶんの家うちにいる時分じぶん、朝晩あさばん、歌うたっていましたので、唄うたをきらいな、気きむずかしいお父とうさんは、娘むすめをしかって、どこへでもいってしまえといいました。それで少女しょうじょは、泣なく泣なく家いえを出でて、やはり、この町まちにやってきました。そして、劇場げきじょうの前まえを通とおりますと、
「歌うたいたいものは、だれでも、はいって遠慮えんりょなくうたいなさい。まずければ、人ひとに笑わらわれます。」と、このときも、看板かんばんに書かいてありました。
少女しょうじょは、こずえに止とまって、小鳥ことりが自由じゆうにさえずるときの姿すがたを思おもい出だしました。また、夏なつの晩方ばんがた、眠ねむそうに、唄うたを歌うたっているみみずの節ふしを思おもい出だしました。それが、みんなの喝采かっさいを博はくしました。このときも、お嬢じょうさまは、ここにきていて、この少女しょうじょの唄うたを聞きかれました。そして、少女しょうじょをお家うちへつれて帰かえられたのでした。
「花はなの踊おどりには、赤あかい着物きものを着きるといい。」と、お嬢じょうさまはいって、この踊おどりの好すきな娘むすめには、美うつくしい花弁はなびらのような着物きものを、造つくってくださいました。
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