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花と少女(2)

时间: 2022-12-05    进入日语论坛
核心提示:さち子こは、どんなに、惜おしい思おもいをしたでしょう。せっかく、買かってきたものを、名残なごりもなく散ちらしてしまっては
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さち子こは、どんなに、惜おしい思おもいをしたでしょう。せっかく、買かってきたものを、名残なごりもなく散ちらしてしまっては、それこそ、お母かあさんに、しかられてももうしわけがないと思おもいました。
彼女かのじょは、半分はんぶん、花弁はなびらの残のこっている、二本ほんのばらの花はなを持もって、しおしおと力ちからなく、家うちに帰かえってきました。
さち子こは、ありのままを、お母かあさんに、話はなしました。すると、お母かあさんは、しかりなされると思おもいのほか、かえって、さち子こをなぐさめなさいました。
「それは、ほんとうに、おしいことをしましたね。その枝えだを捨すてるのもおしいから、土つちにさしておいてやりましょう。」といわれました。
お母かあさんは、二本ほんのばらの枝えだを、前まえの垣根かきねの際きわにさしながら、
「どうか、根ねがつけばいいがね。」といわれました。
さち子こは、もし、この二本ほんのばらが、根ねがついて咲さいたらどんなに、うれしいだろうと思おもいました。しかし、それは、いつのことだろう? と考かんがえられたのであります。
冬ふゆが過すぎて、春はるになったとき、二本ほんのばらの枝えだには小ちいさな弱々よわよわしい葉はがでました。そして、それは、夏なつになっても枯かれはしませんでした。
「お母かあさん、あのばらは、根ねがついたのでないでしょうか。」と、さち子こはいいました。
お母かあさんも、おりおりは、垣根かきねの際きわにいって、それを見みていなされたので、
「いえ、まだわかりません。一年ねんたってみなければ……。」といわれました。
寒さむい冬ふゆが、めぐってきましたけれど、ばらには、赤あかい小ちいさな芽めが出でて、枯かれるようすはなかったのです。そして、あくる年としの春はるには、二本ほんのばらとも、小ちいさな枝えだをつけたのでありました。
「さち子こや、二本ほんのばらは、根ねがついたよ。もうだいじょうぶだから、大事だいじにしておき、そして、肥料ひりょうをすこしずつやるといい。今年ことしは、だめだろうが、来年らいねんは花はなが咲さくかもしれません。」と、お母かあさんはいわれました。
さち子こは、大事だいじにして、ばらの手入ていれをいたしました。ちょうど、三年ねんめの春はるの終おわりころに、一本ぽんのばらにだけ、一つつぼみがつきました。さち子こは、どんなに喜よろこんだかしれません。
「お母かあさん、つぼみが一つつきましたよ。」と、母ははに知しらせました。
「赤あかいほうだろうか、白しろいほうだろうか……。」と、お母かあさんはいって、きてながめられました。さち子こも、それは、どちらであったかよくわからなかったのです。
夏なつのはじめのころに、一本ぽんのばらに、真まっ白しろな雪ゆきのような花はなが咲さきました。その花はなは、さち子こが、草花屋くさばなやで、切きり花ばなを買かったときの花はなよりも大輪だいりんで、香気こうきが高たかかったのであります。
その花はなが咲さいた、ちょうど、そのころでありました。ある夜よ、月蝕げっしょくがあったのです。
初夏しょかの晩ばんで、宵よいのことでした。みんなは、外そとに出でて、月つきをながめていました。おだやかな景色けしきで、風かぜもなく、みみずが眠ねむそうに唄うたをうたっていました。たった一つ咲さいたばらの花はなが、うす闇やみの底そこから薫かおって、いい香気こうきをあたりにただよわせていました。
このとき、あちらから、魂たましいをさらっていってしまいそうな、悲かなしい、また喜よろこびのためにうきたちそうな声こえで、なにやらの歌うたをうたいながらくるものがありました。
さち子こは、すべてを忘わすれて、じっとその方ほうを見守みまもっていますと、あちらの往来おうらいを歩あるいて、すぐ家うちの前まえの方ほうへやってきました。見みると、髪かみの毛けの長ながい、青色あおいろの服ふくを着きた青年せいねんでありました。その顔かおは、はっきりしませんでしたけれど、その若わかやかな、澄すみわたる声こえからして、ほぼ想像そうぞうされたのでした。
青年せいねんは、この家うちの前まえにくると、ふいに立たち止どまりました。そして、あたりを見みまわしました。
「ああ、いい匂においがすること。どこに、そんな花はなが咲さいているのだろう?」と、足あしもとに目めをくばりますうちに、垣根かきねの際きわに、白しろく、ほんのりと咲さいているばらを見みつけました。
「この花はなを、私わたしに、くださいませんか。」と、青年せいねんは、さち子こに願ねがいました。けれど、その花はなはさち子この大事だいじな、大事だいじな花はなでありましたから、
「たった一つしか、咲さいていないのです。あなたにあげることはできません。」と、彼女かのじょは、断ことわりました。
もし、その花はなを折おって与あたえたら、二度どと、その花はなは咲さくことがなかったからです。それほど、枝えだは、細ほそく、木きは小ちいさかったのです。
青年せいねんは、あちらへいってしまいました。ふたたび悲かなしい、魂たましいまでさらっていってしまいそうな、身みにしむ唄うたの声こえがきこえました。ちょうど、月つきがかけて、暗くらくなったのであります。
その後ご、さち子こは、幾いくたびこの夜よるのことを思おもったかしれません。そして、あのとき、青年せいねんにばらの花はなをやったほうがよかったか、やらないほうがよかったかと惑まどったのです。それほど、青年せいねんのうたった歌うたの声こえが、身みにしみて取とれなかったのです。
さらに、二年ねんめには、赤あかい花はなも、白しろい花はなもみごとに開ひらきました。そして、その花はなの盛さかりのころ、兄にいさんが都みやこから帰かえってきました。
兄にいさんは、ばらの花はなを見みると、たいそう喜よろこびました。さち子こは、兄にいさんを喜よろこばしたのを、なによりかうれしく思おもったでありましょう。そして、はじめて、町まちからこの花はなを買かってきたときの悲かなしい思おもい出でなどにふけらせられたのです。
ある日ひの黄昏方たそがれがた、兄にいさんは、外そとから歌うたをうたって帰かえってきました。さち子こは、この歌うたをきくと、身みぶるいするような気きがしました。
「兄にいさん、なんの歌うたですか。」と、ききました。いつかの青年せいねんがうたっていた歌うただったからです。
「これは、牧人ぼくじんの歌うたなんだよ。」と、兄にいさんは答こたえました。
さち子こは、青あおい服ふくを着きた青年せいねんの姿すがたを目めに描えがきました。そして、空そらを仰あおいで、いつまた月蝕げっしょくの夜よに、その人ひとと、めぐりあうことがあろう? というような、はかない思おもいに沈しずんだのでありました。
 
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