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花の咲く前(3)

时间: 2022-12-05    进入日语论坛
核心提示:三幸吉こうきちが店みせへ帰かえると、仕事場しごとばに立たっていた叔父おじさんは、さも手柄顔てがらがおをして、「ジャックの
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三


幸吉こうきちが店みせへ帰かえると、仕事場しごとばに立たっていた叔父おじさんは、さも手柄顔てがらがおをして、
「ジャックの奴やつ、うまく物置ものおきへ入いれて閉しめてしまった。いまに犬殺いぬころしがきたら引ひき渡わたしてくれるのだ。」といいました。幸吉こうきちは、これをきくと、どきっとしました。なにか真まっ黒くろな手てで胸むねを押おさえつけられたような気味悪きみわるさを感かんじました。「赤あかトラ」の話はなしに強つよく心こころを惹ひかれたのも、このジャックという年老としおいた不幸ふこうの野犬やけんのことが、たえず頭あたまの中なかにあったからでした。叔父おじは、どういうものかジャックを心こころから憎にくんでいるのでした。それにはたいした理由わけがあるのでなく、ただこの哀あわれな黒くろい毛けの汚よごれた老犬ろうけんを見みると、むらむらと憎にくくなるというふうでした。幸吉こうきちは、それを怖おそろしいことのように思おもいました。幸吉こうきちは、あるときには、たまりかねて、叔父おじさんの顔かおを見上みあげながら、
「叔父おじさん、ジャックをかわいがっておやりよ。かわいそうじゃないか。」といいました。
「どういうものか、あいつはきらいでな。ひどいめにあわせてくれなけりゃ。」と、叔父おじは、金かなづちを手てに握にぎって、きたら投なげつける身構みがまえをしていました。
「なにも悪わるいことをしないじゃないか。」と、幸吉こうきちは、つくづく叔父おじさんの顔かおを見みて、どうしてこの哀あわれな犬いぬだけに無情むじょうなことをするのだろう、ほかの犬いぬには、やさしくしてやるのにと思おもったのでした。
「あいつが、植木鉢うえきばちに小便しょうべんをかけたし、いつかくつが片方かたほう失なくなったのも、きっとあいつがどこかへくわえていったのだ。」と、叔父おじは、答こたえたが、なんの理由りゆうもつけずにいじめるのは、自分じぶんでも気きがとがめるからだと、幸吉こうきちには、思おもわれました。
しかし、いまはそんなときでない。ジャックが物置ものおきの中なかに入いれられて、戸とを閉しめられたときいては、じっとしてはいられなかったのです。
「なんで物置ものおきの中なかへ入はいったのだろうな。」と、幸吉こうきちは、あの年としを取とっていてもりこうで、敏捷びんしょうな犬いぬがと不思議ふしぎに思おもいました。
「犬殺いぬころしに追おわれてきたんだ。逃にげ場ばがないので、物置ものおきの中なかへ隠かくれたのだよ。」と、叔父おじは、ところもあろうに、おれの家いえの物置ものおきの中なかへ隠かくれたのが、あいつの運うんの尽つきだったと、せせら笑わらいをしていました。幸吉こうきちは、またかわいそうに、自分じぶんが平常いつもジャックをかわいがってやるものだから、助たすけてくれると思おもって、家うちの物置ものおきにきて隠かくれたのだ。もし、このまま犬殺いぬころしに引ひき渡わたしてしまったら、ジャックはどんなに自分じぶんをうらむかしれない。よし、助たすけてやろうと、決心けっしんしました。
あちらで、しきりに犬いぬの遠とおぼえをする声こえがしていました。犬殺いぬころしが近ちかづいてきたのを警戒けいかいして、仲間なかまに知しらせているのです。幸吉こうきちは、すぐに裏手うらてへまわりました。彼かれの足音あしおとをききつけると、暗くらい物置ものおきの中なかから、訴うったえるように、すすりなく犬いぬの悲鳴ひめいがしました。
「ジャック! 早はやく遠とおくへ逃にげろ。」
幸吉こうきちが、戸とを開あけると、黒犬くろいぬは、弾丸だんがんのように飛とび出だして、叔父おじさんが、仕事しごとをしている店先みせさきのブリキ板いたを蹴散けちらして、路次ろじを抜ぬけて原はらっぱの方ほうへ逃にげていったのです。
「ばかやろう、なんで犬いぬを出だしたのだ!」と、叔父おじさんは、幸吉こうきちの頭あたまをなぐろうとしました。幸吉こうきちは、手ての下したをくぐって、自分じぶんも犬いぬの後あとを追おって逃にげたのであります。
しかし、ジャックの姿すがたは、どこにも見みえませんでした。彼かれは、町まちを離はなれたさびしい原はらっぱの中なかに立たって、口笛くちぶえを鳴ならしました。どこへいってしまったか、ジャックはやってきませんでした。
いつも、こうして口笛くちぶえを吹ふけば、遠とおくからききつけて、駆かけてきたものです。彼かれは、家無いえなしのジャックを思おもうと、心こころの中なかが悲かなしかったのでした。
幸吉こうきちは、しばらく茫然ぼうぜんとして、考かんがえながら立たっていました。あちらに見みえる高たかい煙突えんとつは、町まちのお湯屋ゆやか、それとも工場こうじょうの煙突えんとつらしく、黒くろい煙けむりが早春そうしゅんの乳色ちちいろの空そらへ、へびのようにうねりながら上あがっていました。
「あ、田舎いなかの家うちへ帰かえりたいな。」
幸吉こうきちは、自分じぶんには、帰かえる家うちがあるのだと思おもいました。そう思おもうと、しみじみと故郷こきょうの村むらが恋こいしくなりました。
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