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ひすいを愛された妃(1)

时间: 2022-12-07    进入日语论坛
核心提示:ひすいを愛された妃小川未明昔むかし、ひすいが、ひじょうに珍重ちんちょうされたことがありました。この不思議ふしぎな美うつく
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ひすいを愛された妃

小川未明


昔むかし、ひすいが、ひじょうに珍重ちんちょうされたことがありました。この不思議ふしぎな美うつくしい緑色みどりいろの石いしは、支那しなの山奥やまおくから採とれたといわれています。そこで、国々くにぐにへまで流ながれてゆきました。
その時分じぶんの人々ひとびとは、なによりも、真理しんりが貴とうといということには、まだよく悟さとれなかったのです。そして、ひすいの珠たまをたくさん持もっているものほど偉えらく思おもわれましたばかりでなく、その人ひとは、幸福こうふくであるとされたのであります。
ふじの花はな咲さく国くにの王おうさまは、どちらかといえば、そんなに欲深よくぶかい人ひとではなかったのでした。けれど、妃きさきは、たいそうひすいを愛あいされました。
「私わたしは、じっと、この青あおい色いろに見入みいっていると、魂たましいも、身みも、いっしょに、どこか遠とおいところへ消きえていきそうに思おもいます。」とおっしゃいました。
王おうさまは、妃きさきをこのうえもなく愛あいしていられましたから、自分じぶんはこの石いしをさほどほしいとは思おもわれなくとも、妃きさきの望のぞみを十分ぶんにかなえさせてやりたいと思おもわれました。
「いくら高たかくてもいいから、いいひすいの珠たまがあったら持もってまいれ。」と、家来けらいに申もうしわたされたのです。
ある日ひ、家来けらいの奉たてまつった珠たまを王おうさまは、手てに取とってながめられ、なるほど、美うつくしい色いろをしている。どうして、このようなみごとなものがこの世よの中なかに存在そんざいするだろうかといわれました。
家来けらいは、王おうさまのお言葉ことばを承うけたまわってから、おそるおそる申もうしあげました。
「美うつくしい、女王じょおうさまを飾かざるために、空そらから降ふってきた露つゆが、石いしになったものと思おもわれます。」
王おうさまは、うなずかれました。
「まことに、そうかもしれない……。」
こう、いわれると、いつしか、喜よろこびが悲かなしみの色いろに変かわってゆくのが見みえました。なぜなら、生せいある、すべての美うつくしいものに、いつか死しのあることを思おもい至いたられたからです。
ほんとうに、妃きさきは、麗うるわしい、白しろい香かおりの高たかい花はなのような方かたでした。その目めは、星ほしのように澄すんでいました。その唇くちびるには、みつばちがくるかとさえ思おもわれたくらいです。けれど、すべての美うつくしい婦人ふじんは、弱々よわよわしかったように、妃きさきは首くびのまわりに懸かけられた、青あおい石いしの首飾くびかざりの重おもみを支ささえるに耐たえられないほどでした。
「私わたしは、この青あおい石いしの重おもみにおされ、その中なかにうずまって死しにたい。」と、妃きさきは、おっしゃいました。
いかに、その姿すがたは、小ちいさく、美うつくしくても、欲望よくぼうに限かぎりのないことが知しられたのです。そして、それは、怖おそろしいことでした。
流行りゅうこうは、ちょうど黴菌ばいきんのように感染かんせんするものです。そして、また、それと同おなじように、人間にんげんを禍わざわいするものでした。
国々くにぐにに、ひすいの珠たまは、貴重きちょうのものとなりました。どの女王じょおうもその首飾くびかざりをかけられるようになりました。ひとり、王おうさまや、妃きさきが、愛あいされたばかりでなく、国々くにぐにの金持かねもちは、青あおい珠たまを集あつめるようになりましたから、たちまち、青あおい宝石ほうせきの価あたいは、かぎりなく上あがったのです。こういうように、いくら出だしてもいいからという人ひとたちがたくさんになりますと、ひすいの珠たまは、しぜんと世間せけんに少すくなくなりました。少すくなくなるにつれて偽物にせものが現あらわれるようになりました。
遠とおい国くにから、わざわざ船ふねに乗のって、ひすいを高たかく売うりに、ひともうけしようと笑わらってやってくる商人しょうにんもありました。船ふねが港みなとに着つくと、早はやく、その商人しょうにんから、この青あおい石いしを買かおうと思おもって見張みはっている人ひとまでありました。
ふじの花はな咲さく国くにの妃きさきは、もはや、かよわい身みにつけられないほど、青あおい珠たまがたまりました。美うつくしい姿すがたで、この重おもい宝石ほうせきの首飾くびかざりをひきずって、そのうえ、腕うでにも、冠かんむりにも、ちりばめて、なよなよとした姿すがたで、御殿ごてんの中なかをお歩あるきなさるようすはうるわしくもあり、またすごいようでもあり、なんといって、形容けいようのしようがなかったのでした。王おうさまは、妃きさきのようすをごらんになって、
「空そらの星ほしが、一時じに揺ゆらぐようじゃ。」と、仰おおせられたのです。また、その青あおい珠たまから放はなつ、一つ、一つの光ひかりに、目めをとめられて、
「なんという神々こうごうしさじゃ。」と、仰おおせられたのです。
このとき、妃きさきのお顔かおには、不安ふあんの色いろが浮うかびました。
「私わたしは、心配しんぱいでなりません。このごろは、真物ほんものをも負まかすほど、巧たくみに偽物にせものが造つくられるということを聞ききました。悲かなしいことに、私わたしの目めは、まだ、それを見分みわけるだけの力ちからがありません……。私わたしの身みをこうして飾かざっている珠たまの中うちにも偽物にせものがあって、それを陛下へいかまでが美うつくしいとごらんなされるようなことはないかと思おもうと、胸むねの中うちが穏おだやかでないのであります。」と、おっしゃいました。
王おうさまは、いとしい妃きさきのお言葉ことばを、だまって聞きいていられましたが、
「おまえの心配しんぱいは、もっとものことじゃ、偽物にせものを神聖しんせいな体からだにつけて、知しらんでいるとは、すなわち私わたしの不徳ふとくにもなることじゃ、さっそく珠たまの真贋しんがんを見分みわけることのできる人物じんぶつを召めし抱かかえることにいたそう。」と、仰おおせられたのでありました。
宝石ほうせきを見分みわける名人めいじんが、募集ぼしゅうされることになりました。そして、いろいろの人ひとたちが集あつまってきましたけれど、結局けっきょく名人めいじんというのは、最後さいごに残のこされた一人ひとりに過すぎません。
そのものは、腰こしの曲まがった、あごに白しろいひげの生はえた老人ろうじんでした。このおじいさんは、若わかい時分じぶん支那しなからチベットの方ほうへ、山やまから山やまと、ひすいをたずねて歩あるいた経験けいけんがあって、一目ひとめ石いしを見みれば、それが真物ほんものか、贋物にせものかということの見分みわけがついたのです。
おじいさんは、さっそく、御殿ごてんに召めされました。そこで、妃きさきの首飾くびかざりについている珠たまを鑑定かんていさせられました。おじいさんは、ひざを折おって、うやうやしく青あおい珠たまを掌てのひらの上うえに載のせてながめていましたが、その中なかから、一つ、一つ分わけはじめました。青あおいたくさんの大おおきな、また小ちいさい珠たまは、左右さゆうに二分ぶんされました。
「右みぎの方ほうに置おきましたのは、真物ほんもので、左ひだりの方ほうに置おきましたのは贋物にせものであります。」と、おじいさんは、申もうしあげました。
「まあ、これが……。」といって、妃きさきは、美うつくしい顔かおに、驚おどろきの色いろを浮うかべられた。なぜなら、かつて、みごとな珠たまだと見みとれられました、大おおきな珠たまも贋物にせものの中うちにはいっていたからであります。
「おそれおおいことでありますが、真物ほんもののひすいは、そうたくさんあるものでありません。」と、おじいさんは、つけくわえました。
その後ご、いっそう、ひすいの価あたいは高たかくなったのです。ある日ひのこと、この年としとった鑑定家かんていかは、
「私わたしが、いままでに見みたひすいのうちで、西国さいごくの女王じょおうの首くびにかけてある飾かざりの珠たまほど、不思議ふしぎな美うつくしいものはありません。青白あおじろい珠たまのうちに、瞳ひとみをこらして見みますと、夢ゆめのような天人てんにんの姿すがたがうかがわれるのであります。これこそ、広ひろい世界せかいのうちで、いちばん貴とうとい石いしと思おもわれます。」と語かたりました。
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