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マルは しあわせ_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:マルは しあわせ小川未明マルは かわいい ねこです。まあちゃんが とても かわいがって いました。「ねえ おかあさん、マ
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日曜にちようの午前ごぜんでした。空そらは、曇くもっていました。どうしたことか、このごろは、晴はれたり、降ふったりして、おかしな天気てんきがつづくのでした。光こう一は、友ともだちが遊あそんでいないかと思おもって、赤土あかつちの原はらっぱへくると、あちらに黒くろく人ひとが集あつまって、なにか見みています。ちょうどえびが落おちていたあたりでした。
「なにを見みているのだろうか。」と、彼かれは、走はしっていきました。そこには、自転車じてんしゃを止とめた職人しょくにんふうの男おとこもいれば、小僧こぞうさんもいました。また小ちいさな女おんなの子こもいました。けれど、自分じぶんの知しった顔かおは、一人ひとりもなかったのです。光こう一は、なんだかさびしい気きがしたが、みんなの中なかへ入はいってみると、おじいさんが草くさの上うえへ店みせを開ひらいていました。一つのバケツには、かにや、かめの子こが入はいっていました。のぞくと、むずむずと重かさなり合あったり、ぶつぶつとあわを吹ふいています。他たの一つのバケツには、それこそ奇妙きみょうなものが入はいっていました。真まっ黒くろい色いろをして、かぶとむしくらいで、頭あたまが大おおきく、尾おの短みじかい、魚さかなに似にて魚さかなでないものでした。この奇妙きみょうなものは、バケツの中なかで、たがいに押おしくらまんじゅうをして、バケツのまわりに頭あたまをつけています。
「おじいさん、こんな大おおきなおたまがあるものかね?」と、職人しょくにんふうの男おとこがきいていました。
「こいつのすんでいる池いけは、そうたくさんはありません。これは遠方えんぽうから送おくられてきたんですよ。夜よるになると鳴なきます。」
「どういって?」
「ボーオ、ボーオといって、鳴なきます。」と、おじいさんが答こたえました。
「鳴なくって、ボーオ、ボーオと、こいつがかい?」
今度こんどは、鳥打帽とりうちぼうをかぶった小僧こぞうさんが、きいて、たまげていました。
「まるで、自動車じどうしゃの笛ふえみたいだな。」と、職人しょくにんふうの男おとこは、笑わらいました。
「なに、薬品やくひんでも飲のまして、おたまを大おおきくしたんだろう。」と、小僧こぞうさんが、おじいさんのいったことを真まに受うけなかったようです。
小ちいさな女おんなの子こは、大人おとなたちの間あいだから、おかっぱ頭あたまを出だして、バケツを見みながら、
「これ、なまずの子こでないこと。」といっていました。
「いくら、なまずの頭あたまが大おおきいって、こんな大おおきいのはない。やはり、これはおたまだ。おたまにちがいねえが、おじいさん、食用しょくようがえるは鳴なくというが、これは、その子こでないのかね。」と、職人しょくにんふうの男おとこは、いったのでした。
おじいさんは、きせるに煙草たばこをつめて、マッチで火ひをつけて吸すいながら、それには、答こたえないで、
「なにしろ珍めずらしいもんでさあ。坊ぼっちゃんたちは、かにや、かめの子こには、飽あきましてね。」と、おじいさんはいったのです。
光こう一は、早はやくお家うちへ帰かえって、お母かあさんにお金かねをもらってこようと思おもいました。
「このおたまだけは、どうしても買かわなければならないものだ。」と、心こころの中なかで、叫さけびました。おじいさんは、一ぴき五銭せんで売うるのだけれど、きょうは特別とくべつに三銭せんに負まけておくといいました。彼かれは、このあいだお父とうさんから、お小使こづかいをもらったのを大事だいじにしておけばよかったと後悔こうかいしたのです。バッチンをしたり、花火はなびを買かったりして、みんな使つかってしまったのでした。どういって、お母かあさんに、ねだったらいいだろうかと考かんがえながら、飛とんで帰かえりました。お母かあさんの顔かおを見みると、
「ねえ、お母かあさん、鳴なくおたまってありますか?」
いきなり光こう一は、質問しつもんを発はっしました。ふいに、こんな質問しつもんをされたので、お母かあさんは、
「さあ、鳴なくおたまじゃくしなんて、まだ、きいたことがありませんね。」と、つい話はなしにつりこまれて、なんでこんなことをいったのか知しらずに、おっしゃいました。
「それが、お母かあさんあるんですよ。日ひが暮くれると、ボーオ、ボーオって、鳴なくというのです。」
光こう一は、自分じぶんも驚おどろいたといわぬばかりに、目めをまるくして、お母かあさんの顔かおを見みました。
「なんか、きっとほかのものでしょう、かじかではないんですか。」
「色いろが真まっ黒くろで、頭あたまが大おおきくて、尾おがちょっぴりついているんです。それは、かわいいのですよ。」光こう一は、いいました。
「まあ、気味きみの悪わるいこと、おたまじゃくしのお化ばけみたいなのね。」と、お母かあさんは、かわいいどころか、ぞっとするように、おっしゃいました。
「一ぴき三銭せんに負まけておくって、ねえ、買かってよ。」
光こう一は、お母かあさんが珍めずらしいといってくださらなかったので、おおいに当あてがはずれたのです。
「どこへ、そんなものを売うりにきたんですか、家うちへ持もってこられると困こまりますね。」
「ちっともこわくなんかないんだよ。ただ、鳴なくおたまなんだもの。」
彼かれは、無理むりにも、お母かあさんに承知しょうちしていただいて、お金かねをもらわなければなりませんでした。それで、家いえの内うちをお母かあさんの後あとについて歩あるきました。そして、やっと三びき買かうほどのお金かねをいただいたとき、彼かれは、どんなにうれしかったかしれない。だが、運うんが悪わるく雨あめが降ふり出だしてきました。
「困こまったなあ、おじいさんは、どっかへいってしまうだろうな。」と、光こう一は、気きをもんでいたのであります。
「この雨あめの中なかを、いつまで原はらっぱにいられるものですか。」と、お母かあさんは、おかしそうにおっしゃいましたが、あまり光こう一が落胆らくたんするので、後あとでかわいそうになって、
「じきに、この雨あめは上あがりますよ。」と、やさしく、いたわるように、いわれました。しかし、お昼ひるのご飯はんを食たべてしまっても、まだ雨あめはやみそうもありませんでした。もうおじいさんは、とっくに、どこへかいってしまったものとあきらめなければならなかったのです。
晩方ばんがたになって、やっと雨あめが晴はれて、空そらが明あかるくなりました。ちょうど、その時分じぶんでした。
「おたまがきた!」と叫さけんで、どこかの子こが、家いえの前まえを走はしってゆきました。光こう一は、はっとして、耳みみを澄すましました。
「あの、おじいさんがきたのだ!」
彼かれは、すぐに家うちから飛とび出だしました。そして、子供こどもの走はしっていった方角ほうがくを見みましたが、なんらそれらしい人影ひとかげもありません。あちらの煙突えんとつのいただきに、青空あおぞらが出でて、その下したのぬれて光ひかる道みちを人々ひとびとが、いきいきとした顔かおつきをして往ゆくのでした。
「おたまは、どこへきたんだろうな。」と、光こう一はしばらく往来おうらいに立たっていました。そこへ、お湯ゆから上あがって、顔かおへ白粉おしろいを真まっ白しろにつけたかね子こさんが、長ながいたもとの着物きものをひらひらさして、横道よこみちから、出でてきました。
「光こう一さん、晩ばんにチンドン屋やの行列ぎょうれつがあってよ。」と、知しらせました。
「どこに?」
「青物市場あおものいちばの前まえに、もうじきはじまるわ。」
かね子こさんは、それを見みにいくらしいのです。光こう一は、市場いちばの方ほうを見みると、チン、チン、ジャン、ジャン、という音おとがきこえてくるような気きがしました。おたまのことは、忘わすれられないけれど、つい、自分じぶんもかね子こさんといっしょにチンドン屋やの行列ぎょうれつを見みる気きになって、道みちのくぼみの水みずたまりを避さけながら、二人ふたりは、町まちの方ほうへ向むかって歩あるいたのでした。
くる! くる! くる! いろんなようすをしたチンドン屋やが……旗はたを立たて、黒くろい山高帽やまたかぼうをかぶってくるもの、兵隊帽子へいたいぼうしにゴム長ながをはいてくるもの、赤あかい頭巾ずきんをかぶって、行燈あんどんをしょってくるもの、燕尾服えんびふくを着きて、鉦かねと太鼓たいこをたたいてくるもの……。
先さきのが、かぶとむし、つぎは、さいかち、そのつぎは、えび、そのつぎが、ボーオ、ボーオと鳴なくおたま、……光こう一の目めには、みんな虫むしになって見みえたのであります。
もう、両側りょうがわの店みせには、燈火あかりがついて、大空おおぞらは、紫水晶むらさきすいしょうのように暗くらくなっていました。
光こう一は、かね子こさんに、昼間ひるま見みたおたまの話はなしをすると、
「そんな、おたまなんかないわ。」と、かね子こさんは、すげなくいいました。
「あの、おじいさんから、おたまを買かっていたらなあ。」と、光こう一は、残念ざんねんでなりません。
「かね子こさんさえ信しんじないのだから、きょうのことを勇ゆうちゃんに話はなしたら、勇ゆうちゃんも、きっと、そんなおたまはないというだろう。そして、光こうちゃんは、またみょうな夢ゆめを見みたといって笑わらうだろう……。」
そう考かんがえると、光こう一は、頼たよりなく、さびしかったのでした。そして、この世よの中なかには、自分じぶんにだけ信しんじられて、他たの人ひとには、どうしてもわからない、不思議ふしぎなことがあるものだということを、彼かれは、しみじみと感かんじたのでありました。
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