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山に雪光る_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:山に雪光る小川未明いろいろの店みせにまじって、一けんの筆屋ふでやがありました。おじいさんが、店先みせさきにすわって太ふと
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山に雪光る

小川未明


いろいろの店みせにまじって、一けんの筆屋ふでやがありました。おじいさんが、店先みせさきにすわって太ふとい筆ふでや、細ほそい筆ふでをつくっていました。でき上あがった筆ふでは、他たへおろしうりにうるのもあれば、また自分じぶんの店みせにおいて、お客きゃくへうるのもありました。昔むかしとちがい、このごろは、鉛筆えんぴつや万年筆まんねんひつをつかうことが多おおく、筆ふでをつかうことはすくなかったのです。しかし、大おおきな字じを書かいたり、お習字しゅうじをしたりするときは、筆ふでをつかうのでした。
武男たけおは、よくおじいさんのところへ遊あそびにきて、お仕事しごとをなさるそばで、おじいさんから、お話はなしをきくのを楽たのしみとしました。
「おじいさん、あの字じは、だれが書かいたの。」と、頭あたまの上うえにかかっている額がくをさしました。
「ああ、あれはここへみえる、書家しょかの方かたが、お書かきなされたのだ。」
「うまく、書かけているの。」
「みなさんが、おほめなさる。山高水長さんこうすいちょう、やまたかく、みずながし、といってもよい。」
「おじいさんに、書かいてくださったの。」
「そうだ、ここにある、この筆ふでで、お書かきになったのだ。私わたしのつくった筆ふでが、たいそう書かきよいと喜よろこばれてな、一枚まいくださったのだよ。」
おじいさんは、箱はこの中なかから、一本ぽん太ふとい筆ふでをとりだして、いいました。それは、白しろい毛けの筆ふででありました。
「ぼく、お習字しゅうじのとき、つかう筆ふでとよくにているな。」と、武男たけおは、目めをまるくしました。
「武坊たけぼうのもよい筆ふでだが、これとはちがっている。」と、おじいさんは、笑わらわれました。
「ぼくのも白しろいね。この筆ふでの毛けは、やはり羊ひつじでない。」
「そう、羊ひつじの毛けだ。」
武男たけおは、筆ふでをつかったあとで、かなだらいに、水みずをいれて洗あらうと、もくもくと、ちょうど汽車きしゃの煙けむりのように、まっ黒くろい墨すみを、筆ふでからはき出だします。そして、そのあとの毛けは、清きよらかな水みずをふくんで、美うつくしい緑色みどりいろに見みえるのでした。
「おじいさん、どの毛けでつくった筆ふでが、いちばんよいのですか。」と、武男たけおは、ききました。
「いちがいにいえぬが、細筆ほそふでなどは、たぬきの毛けだろうな。」
「どうやって、たぬきをつかまえるの。」
「たぬきか。おとしや、わなでつかまえたり、また、子飼こがいにして育そだてたりするのだ。」
「山やまへいけば、たくさん、獣物けものがすんでいるのだね。」と、武男たけおは、いいました。
「昔むかしは、このあたりでさえ、いたちが出でたものだ。」
おじいさんも、子供こどもの時分じぶんから、町まちに育そだって、野生やせいの動物どうぶつを見みる機会きかいは、少すくなかったのです。
もう火ひばちに火ひのほしい、ある日ひのことでした。武男たけおが、おじいさんのところへいくと秋あきの薬売くすりうりが、額がくの字じを見みながら、おじいさんと話はなしをしていました。いつしか、字じの話はなしから、山やまの話はなしになったらしいのです。
「なにしろ、中央山脈ちゅうおうさんみゃくの中なかでも、黒姫くろひめは、険阻けんそといわれまして、六、七月がつごろまで、雪ゆきがあります。やっと、草くさや木きの芽めが出ではじめると、薬くすりになるのばかり百種しゅほどつんで、ねり合あわせたのが、この薬くすりですから、腹痛ふくつうや、食しょくあたりなどによくききます。これをおいてまいりましょう。」と、薬売くすりうりは、袋ふくろにはいったのを、おじいさんの前まえへおきました。
おじいさんは、その袋ふくろを手てにとって、さもなつかしそうに、ながめながら、
「それから、さっきの話はなしの筆草ふでぐさというのを、こんどきなさるとき、わすれずに、見みせてもらえまいかな。」といいました。
「来年らいねんの夏なつは、方々ほうぼうの山やまへまいります。私わたしが見みつけなければ、おちおうた行者ぎょうじゃに頼たのんで、どうにかして、手てに入いれてまいります。」
「ふしぎですな、自然しぜんにそんな草くさがあるとは。」
「てんぐや、隠者いんじゃが、それで字じを書かいたといいます。」
「私わたしは、この年としで、もう高たかい山やまへ上のぼれないから、たのしみに、待まっていますよ。」と、おじいさんは、頼たのんでいました。
薬屋くすりやは、紺こんもめんの、大おおきなふろしきで四角かくな箱はこをつつみ、それを背中せなかへ負おい、足あしにきゃはんをかけ、わらじばきの姿すがたで、立たち去さりました。武男たけおは、しばらく、その後うしろ姿すがたを見送みおくっていました。
「筆草ふでぐさって、草くさがあるの。」
「高たかい山やまへ、薬草やくそうをさがしにいくと、まだ人ひとの知しらない、ふしぎな草くさがあるという話はなしだ。」
「あの薬屋くすりやさんは、これからどこへいくの。」
「まだ方々ほうぼうを歩あるいて年としの暮くれに、山国やまぐにの町まちへ帰かえるといった。」
武男たけおは、その日ひの夕暮ゆうぐれが、いつもより、美うつくしく、さびしく感かんじられました。
秋あきから冬ふゆへかけ、空そらは、青々あおあおと晴はれていました。町まちのはずれへ出でて、むこうを見みると、野のや、森もりをこえて、はるかに山々やまやまの影かげが、うすくうき上あがっていました。その中なかの高たかい頂いただきには、すでに雪ゆきが、はがねのように光ひかっています。武男たけおは毎日まいにちここへきて、山やまをながめていました。そして、正月しょうがつの書かき初ぞめには、「山やまに雪ゆき光ひかる」と、書かきました。
よくできたと、学校がっこうの先生せんせいからも、お父とうさんからも、ほめられました。また、筆屋ふでやのおじいさんは、字じに、たましいがはいっていると、たいへんほめてくれました。
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