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山へ帰りゆく父(3)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:こうして、草くさと石いしとが相慰あいなぐさめ合あったのも、束つかの間まのことでありました。草くさは、とうとう枯かれてしま
(单词翻译:双击或拖选)
 
こうして、草くさと石いしとが相慰あいなぐさめ合あったのも、束つかの間まのことでありました。草くさは、とうとう枯かれてしまったのです。
息子むすこは、草くさの枯かれたのを、どんなに悲かなしんだかしれません。
「そのうちに、なにか、かわりのいい草くさを見みつけてきて植うえてさしあげます。」と、植木屋うえきやはいいました。
ある日ひのこと、植木屋うえきやは、バルコニーに上あがりました。そして、枯かれた草くさの鉢はちを持もって降おりてきました。なにか、それに代かわりの草くさを植うえようと思おもったからです。
その後のちのことでありました。息子むすこは、夜よる床とこの中なかにはいってから、枯かれた草くさや、持もってきた石いしのことを思おもい出だしました。せめてあの石いしなりと大事だいじにして、記念きねんにしておこうと思おもいました。そして、夜よの明あけるのを待まってバルコニーに出でてみますと、いつのまにか、そこには新あたらしい草くさの植うわった鉢はちが置おいてありました。そして、もとより枯かれた草くさも、石いしも影かげだに見みられませんでした。
「この草くさは、どうしたのだ?」といって、家内かないのものに聞ききますと、
「昨日きのう、植木屋うえきやが、あなたのお留守るすに持もってきましたのです。」と答こたえました。
息子むすこは、枯かれた草くさはしかたがないとしても、石いしは、どこへいったろう。植木屋うえきやに聞きいてみようと、さっそく、植木屋うえきやを呼よびにやりました。
「あの、草くさの下したにあった、黒くろい石いしでございますか。つまらない石いしだと思おもって、捨すててしまいました。」と、植木屋うえきやは答こたえました。
息子むすこは、これを聞きくとたいそう驚おどろきました。
「あの石いしは、私わたしの大事だいじな石いしだ。どこへ捨すててしまった?」と問といました。
すると、植木屋うえきやは、しばらく考かんがえていましたが、
「たしか、ここからの帰かえり途みちに、あちらの広ひろい空あき地ちに捨すててしまいました。」と答こたえたのであります。
その空あき地ちは、もと建物たてものがあったのですが、いまはなにもなく草くさが茫々ぼうぼうとして生はえていました。そして、子供こどもらはその中なかに遊あそび、通行つうこうする人ひとたちは、近道ちかみちするために、その空あき地ちを横よこぎったのであります。
息子むすこは、どんなに、がっかりしたかしれません。どうしても、その石いしを忘わすれることができませんでした。すると、黒くろい石いしが、夜露よつゆにしっとりと湿ぬれて、広場ひろばの中なかで、月つきの光ひかりに照てらされて輝かがやいている夢ゆめを見みました。
ふと目めをさましますと、外そとは、ちょうどその夢ゆめに見みたようないい月夜つきよで、小ちいさな窓まどが明あかるく月光げっこうに照てらされていました。彼かれは、さっそく、起おき上あがりました。そして、その広場ひろばへ、石いしが落おちていないかと探さがしにゆきました。
すっかり秋あきの景色けしきとなって、こおろぎが鳴ないていました。うすもやが一面めんに降おりて、建物たてものの間あいだや、林はやしの木きの間あいだや、広場ひろばの上うえに渦巻うずまいているようにも見みられました。
息子むすこは、あたりが、すでに眠静ねしずまった真夜中まよなかごろ、一人ひとり広場ひろばにやってきますと、はたしてさびしい月つきの光ひかりが、草くさの葉はをば照てらしていました。
けれど、黒くろい石いしが、どこにあるか、もとより容易よういに見当みあてることができませんでした。彼かれはあちらへゆき、こちらへさまよっていますと、うすもやの中なかに、しょんぼりと立たっている人影ひとかげを見みいだしました。
「いまごろ、何人なんびとが立たっているのだろう。」と、怪あやしみながら、よく見みつめますと、それは、美うつくしい、若わかい女おんなでありました。彼かれは、好奇心こうきしんから、つい、そのそばに近ちかづいてみる気きになりました。
「いまごろ、あなたは、そこになにをしていられますか?」と、彼かれはたずねました。
美うつくしい女おんなは、ぱっちりとした、すずしい目めをこちらに向むけました。そして、彼かれを見みていましたが、にっこりと笑わらって、
「わたしは、かんざしの珠たまをさがしています。もう幾いく十年ねんも前まえのことでありました。わたしは、お嫁よめにゆく前まえに、ちょうどこのあたりであった窓まどから、ある日ひの夕暮ゆうぐれ方がた、かんざしの珠たまをあやまって落おとしますと、それがころげてどこへいったか見みえなくなったのです。それから、わたしは、いくら探さがしたかしれません。お母かあさんからはしかられました。けれど、どうしても、なくした珠たまは見みつからなかったのです。わたしは、一生いっしょうそのことを忘わすれませんでした。今夜こんやも、また、わたしは、その珠たまのことを思おもい出だして探さがしにきたのです。」と、その若わかい女おんなは、答こたえたのであります。
彼かれは、この話はなしをきくと、なんとなく体からだじゅうが、ぞっとしました。女おんなの姿すがたを見みると、長ながい黒くろい髪かみは結むすばずに、後うしろに垂たれていました。
若わかい、美うつくしい女おんなは、いっしょうけんめいに、足あしもとの草くさを分わけて、珠たまを探さがしていました。彼かれも、また草くさを分わけて、なにかそのあたりに落おちていないかと、熱心ねっしんにたずねましたけれど、べつになにも見みあたりませんでした。
「どんな色いろの珠たまでしたか?」
こういって、彼かれは、顔かおを上あげて、もう一度ど子細しさいに若わかい女おんなを見みようとしますと、どこにも女おんなの影かげは、見みえなかったのです。
不思議ふしぎなことがあれば、あるものだと思おもって、しばらく彼かれは、茫然ぼうぜんとして、たたずんでいました。
月つきは、西にしに傾かたむきました。そして、思おもいなしか、東ひがしの空そらは白しらんで、どこからか、暁あかつきを告つげるに鶏にわとりの鳴なく声こえが聞きこえてきました。もやは、いつしか晴はれて、空そらは青あおみをまして頭あたまの上うえに垂たれかかっていました。
 
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