「月見里(やまなし)」は、お月見には最高の場所だった
「山があっても山梨県」という陳腐なダジャレもあるが、総面積四四六五平方キロ余りの
県土の、約七八パーセントが森林というのが山梨県である。
ただ、この「やまなし」という地名は、遠江とおとうみ一帯を指す古代からのもので、
「山梨」の文字があてられるようになったのは、かなり時がたってからである。
じつは、古代において「やまなし」の音には、「月見里」という文字があてられてい
た。これは、山梨付近にある山を、昔は山といわずに「岡」と呼んでいたからだ。山のな
い里では美しい満月を見ることができる、お月見には最高の場所、というところから、こ
の文字があてられたのだという。
富士山本宮浅せん間げん神社にある鰐わに口ぐち(社殿・仏堂の軒下につるす金属製音響
具)には、「月見里 大工助九郎」という銘があり、「天正十七」と刻まれている。戦国
時代の頃まで、山梨は古代名のままだったというわけだ。