打出小槌町(うちでこづちちよう) (兵庫県芦屋市)
振るだけでなんでも願いが叶う小槌をもつ長者
「打出小槌町」などという、まるでどんな夢でも叶ってしまいそうな、じつに縁起のいい名前の町がある。しかも、高級住宅街で知られる兵庫県芦屋市にである。やはり「大判小判がザックザク……」の方々が住んでいるのだろうか。
その昔、摂せつ津つの国くに兎う原はら郡打出村の隠里という場所に、ある長者が住んでいた。その長者は一つの宝の槌をもっていて、この槌を振ると願いごとがなんでも思いどおりに叶うので、家宝として大切にしていた。この「打出村の願いが叶う小槌」から、打出小槌町という名前ができたのである。
この町にはほかにも、夜中に地面に耳を付けて音を聞くと、地下の遠くから饗宴の声が聞こえてくるとか、この地で物を拾うと必ず幸福になるなど、さまざまな伝説も存在する。また、この長者の小槌は、芦屋沖に住んでいた竜神がもっていたもので、その竜神が人に化身して聖武天皇に献上した物であるという言い伝えもある。
もともとこの地は、江戸時代から一八八九(明治二十二)年までは「打出村」と呼ばれていたが、一九四四(昭和十九)年に「打出小槌町」になっている。打出という地名に伝えられてきた伝説を結び付けたというわけだ。
戦後になって「打出親王塚町」「打出春日町」などが、「親王塚町」「春日町」などと簡素化されてしまったことを受け、伝説を残したいという粘り強い地元住民の声から、「打出小槌町」と名付けられたということだ。