酒々井(しすい )(千葉県酒々井町)
孝行息子の父親を思う気持ちがもたらした奇跡
千葉県の北部、印いん旛ば郡酒々井町に伝わるのは、親孝行の伝説である。
その昔、この地にある印旛沼の近くに、貧しい百姓が住んでいた。家が貧乏な上に、父親は年をとって働くこともできなかったが、この百姓の息子はじつに親孝行で、よく父親の面倒を見ていた。父親はたいへんな酒好きで、息子はわずかのお金のなかから酒を買っては、父を喜ばせるために働いていたという。
ある日、とうとう酒を買う金がなくなり、息子が暗い気持ちで歩いていると、ある井戸のそばから酒の匂いがただよってくる。まさかと思いながらも汲んで飲んでみると、たしかに酒だった。喜んで家にもち帰ると、父親もたいそううまいと言って喜んだ。
こうして、父親にはその井戸から汲んだ酒を渡し、働いた金は生活に使う。それで暮らしはだんだんと豊かになった。
ところが、噂を聞いてこの息子以外の人がその井戸水を汲んでもち帰っても、ただの水。若者の親を思う真心が、天に通じたという話である。
この話が、酒の井戸として知られるようになり、そこで村の名前も「酒々井」となったのである。
近年は東京近郊のベッドタウンとして宅地開発が進んで、一九七〇年代からは人口が増加している。
この町に集まってくる人には、孝行息子が多かったりするのだろうか。