しかし、その弟のついで弁当生活のある日、母が朝から妙にニヤニヤしていた。怪しいな、とは思ったが朝一の授業に間に合うべく、詰めたての温かい弁当を抱え、自転車に飛び乗り家を出た。その昼休み、いつも時間が経ち、少し湿っぽくなった白飯をちょっと憂鬱に思いながらも、昼時の空腹には勝てず意気揚々と弁当箱を開いた。
そこにはいつもの少し湿った白飯ではなく、三匹の三色ウサギがいた。少しいびつに海苔でウインクしたピンクウサギ。黒ゴマを駆使したアホ面の緑ウサギ。自転車に揺られて少し崩れたおすまし顔の黄色ウサギがいた。なんだこれ、幼稚園児の弁当か、と笑った。朝はすんごい忙しいやけん!といつも怒りっぽい母がこそこそとこんなものを作ってたのかとおもうとまた笑ってしまった。
一緒にお昼を食べていた友人たちが、なんだなんだと覗き込む。すると、わぁ!可愛い!と歓声が上がった。少し照れ臭かったので、してやられたよ。とまた笑った。家を出て暮らす友人は購買のパンを齧りながら、懐かしい。小さい頃は遠足にそんなお弁当作ってもらった。などと言うものだから、みんなして昔、自分の母に持たされたお弁当の話で盛り上がった。 夕方の授業が終わり帰宅すると、また朝のごとくニヤニヤした母がねえねえ、見たぁ?と聞くので、ウサギが3羽いたわ。と返した。ついでに友人からの評判良かったなどと言えばくるくるとキッチンで喜びの舞を舞っていた。
母曰く、弟の弁当は可愛らしくしようものなら怒られつまらなかった。見た目より肉!などと言われ有り余った力が私の弁当に注ぎ込まれたらしい。そんな母の気持ちと妙に凝った弁当が、懐かしくも嬉しかった。