「お父さんいこうか」
息子からのモーニングの誘いである。
二十年以上前、息子が中学、高校時代には
こんな日が来るなんて想像もできなかった。夫はお酒を飲んだ後、子供たちを並べて説教するのが常だった。子供たちは逃げることばかり考えていた。要領の悪い息子がいつも捕まり、さんざんの説教の後は必ず暴力だった。家を放り出されたいや逃げ出した息子の行き先を探して何度夜の街の中を探したことだろう。夫が病に倒れ、子供たちが成人していく中で、様々な出来事があった。
息子が結婚して、
「お父さんも、あの頃子供三人を大学に行かせて大変だったと思う」
ぽつりとそう言ったことがあった。息子が父親になった頃だった。その頃から息子の父親に接する態度に大きな違いが出てきた。まさに息子が父親を理解する瞬間だったと思う。
以来、体の不自由な夫をあちこちに連れて行ったり、モーニングに誘ったりしてくれるようになった。
娘と母親のようにぺちゃくちゃとしゃべり仲良く買い物に出たりなどはしないが、夫と息子はモーニングから帰って将棋の番組を見ながら、無言に近いような会話をぽつりぽつり交わしながら父子のささやかな時間を共有している。
自分の子供を持って初めて父親を理解できる時が来るのかと思う。愛情表現の下手だった夫の愛情が初めて分かるからかもしれない。