2008年8月8日、午後8時8分、北京にある国立の屋外競技場、愛称「鳥の巣」で、世紀のイベントが幕を開けた。中国国民が待ちに待ったオリンピックだ。夏季オリンピックは、1964年の東京、1988年のソウルに続く、アジアで3回目、20年ぶりの開催だが、その中でも北京オリンピックは史上最大の規模を誇り、204の国や地域から、11,000人あまりの選手が参加した。
言うまでもなく、オリンピックはスポーツの祭典なので、関心の対象は、金·銀·銅のメダル獲得をめぐって繰り広げられる選手たちの熱い戦いにある。しかし、北京オリンピックは、競技が始まるずっと以前から世界中の注目を浴びていた。
それは、開会式の演出を担当するチームを率いていたのが、張芸謀だったからだ。張芸謀は「赤いコーリャン」でデビューした後、「あの子を探して」「初恋のきた道」「至福のとき」など数々の名作を世に送り出し、その名を不動のものにした中国を代表する映画監督の1人である。
開会式が始まると、「鳥の巣」に集まった9万もの観衆はもとより、世界でその様子を見届けようとしていた何十億の人々が、すっかりテレビに釘付けにされてしまった。3時間半に及ぶ開会式は、その全体を通して、ふんだんに中国文化の要素が取り入れられていた。
開会式の演出テーマは、「美しいオリンピック」。「鳥の巣」の中央に映し出された「絵巻物」を舞台にして、サブテーマの「すばらしい文明」と「輝かしい時代」が描き出された。その中で、中国古代の4大発明、つまり「火薬」「紙」「活版印刷」「羅針盤」という、人類社会の発展に大きな役割を果たしてきた技術に焦点が当てられた。例えば、古代活版印刷をモチーフに漢字の「和」を使いながら2千年に及ぶ漢字の変遷を表現したり、花火によって「火薬」発明への敬意を表したりといった具合だ。ほかにも、至る所に悠久の歴史を持つ中国ならではの演出が満ちあふれていた。
開会式を締めくくる聖火台への点火も観衆の度肝を抜くものであった。聖火を受け継いだ最後のランナーは、ワイヤーで空中に吊り上げられると、「鳥の巣」最上部の壁面を走るようにして遊泳し出したのだ。すると、ランナーの跡を追うようにして、壁面のスクリーンには、4か月以上にわたって全世界で行われた聖火リレーの様子が映し出されていった。そして、1周し終わると、そこには、紙をくるりと巻いたような形の聖火台がスポットライトによって姿を現し、ランナーが導火線に点火することでクライマックスを迎えた。思わず驚きの声を上げてしまった人もいたのではないか。どのオリンピックでも開会式の演出は秘密のベールに包まれているが、関係者以外で、果たしてこのような演出を想像できた人間は何人いただろうか。
スポーツの祭典の開会式はまさに芸術の祭典と化していた。「映画と違って撮り直しができない。オリンピックの開会式で与えられているチャンスはただ1度だ」と張芸謀自身が言うように、開会式の一瞬一瞬のために、3年間にわたり、練習に練習を重ね、綿密に準備されてきた実に驚きずくめの演出であった。
オリンピックは、単に全世界のスポーツ選手の最高峰の競い合いの場であるだけではなく、開催国の文化や伝統を全世界に披露する大舞台でもある。張芸謀の監督のもと、中国の人々が演出した「美しいオリンピックは、「鳥の巣」の中で見事に花を咲かせたといっても過言ではないだろう。それは、表面的な映像美ということではなく、悠久の歴史を持つ伝統·文化への尊敬に裏付けされた彼らの巧みな演出により、見る人の心に強烈なイメージを残したからである。
【注】張芸謀(1951一)陕西省西安市出身。映画監督。
新出語彙2
おくがい(屋外) [名] 户外、室外、露天
きょうぎじよう(競技場) [名] 体育场
あいしょう(愛称) [名] 爱称,昵称
とりのす(鳥の巣) [专] 鸟巢
せいき(世紀) [名] 世纪
まく(幕) [名] 幕,帐幕
かき(夏季) [名] 夏季
ソウル [专] 首尔
しじょう(史上) [名] 历史上
ほこる(誇る) [动1自] 夸耀
さいてん(祭典) [名] 盛典,庆祝式
きん(金) [名] 金
どう(銅) [名] 铜
くりひろげる(繰り広げる) [动2他] 展开,打开;走行,开展
たたかい(戦い) [名] 竞争;战斗
きょうぎ(競技) [名] 竞技,比赛
あびる(浴びる) [动2他] 受、蒙、遭
ひきいる(率いる) [动2他] 率领;帯领
あかいコーリャン [专] 红高梁
しふくのとき(「至福のとき」) [专] 幸福时光
よ(世) [名] 世上,人间
おくりだす(送り出す) [动1他] 送出
ふどう(不動) [名] 不可动揺,坚定
かんしゅう(観衆) [名] 观众
みとどける(見届ける) [动2他] 看到,看准,看清
くぎづけ(釘付け) [名] 被钉住,钉住
ふんだん [副] 大量,很多
ようそ(要素) [名] 要素
ちゅうおう(中央) [名] 中央
うつしだす(映し出す) [动1他] 放映出来
えまきもの(絵巻物) [名] 画卷
かがやかしい(輝かしい) [形] 辉煌,耀眼
かき出す(描き出す) [动1他] 描绘出
こだい(古代) [名] 古代
かやく(火薬) [名] 火药
かっぱんいんさつ(活版印刷) [名] 活字印刷
らしんばん(羅針盤) [名] 指南针
しょうてん(焦点) [名] 焦点
あてる(当てる) [动2他] 使(局部)接触;猜;指派;写给,寄给
モチ一フ [名] 主题;中心思想
けいい(敬意) [名] 敬意
いたるところ(至る所) [名] 到处
みちあふれる(満ちあふれる) [动2自] 洋溢,饱满
しめくくる(締めくくる) [动1他] 结束,总结
せいかだい(聖火台) [名] 圣火台
せいか(聖火) [名] 圣火
てんか(点火) [名·サ变自他] 点火
どぎも(度肝) [名] 胆子
うけつぐ(受け継ぐ) [动1他] 继承,承继
ランナー [名] 跑者;(棒球)跑垒员
ワイヤー [名] 钢丝绳,金属绳
くうちゅう(空中) [名] 空中
つりあげる(吊り上げる) [动2他] 吊上来,吊起来
さいじょうぶ(最上部) [名] 最上面
へきめん(壁面) [名] 墙面
ゆうえいする(遊泳~) [名·サ变自] 迈步行进,游泳
あと(跡) [名] 迹,痕迹
リレー [名] 传递,接力
くるりと [副] 回转一圏卷起,回转
スポットライト [名] 聚光灯
あらわす(現す) [动1他] 出现
どうかせん(導火線) [名] 导火线
クライマックス [名] 最高潮
ベール [名] 面纱
かす(化す) [动1他] 化为,变成
とりなおす(撮り直す) [动1他] 重新拍
たんに(単に) [副] 仅,只,单
さいこうほう(最高峰) [名] 最高峰,最高潮
きそいあい(競い合い) [名] 竞赛,争夺
ひょうめんてき(表面的) [形2] 表面的
そんけい(尊敬) [名·サ变他] 尊敬,敬仰
うらづける(裏付ける) [动2他] (从旁)支持;证实,印证
たくみ(巧み) [形2] 巧妙,精巧
せんせいしよう(陕西省) [专] 陕西省
まくをあける(幕を開ける) 开幕,开始
ちゅうもくをあびる(注目を浴びる) 受到瞩目,被关注
よにおくりだす(世に送り出す) 向世间奉献;让……问世
どぎもをぬく(度肝を抜く) 使大吃一惊
あとをおう(跡を追う)追赶
すがたをあらわす(姿を現す)显现
こえをあげる(声を上げる)发出大声
はなをさかせる(花を咲かせる)使开花
そのなをふどうのものにする(その名を不動のものにする)巩固其名声,使其地位无可动揺
~あまり 余,多
サブ~ 副~,第二~,小~
~大(だい) ~大
~国(こく) ~国
~美(び)~美
~省(しょう)~省