2000 2級
読解·文法
(200点 70分)
問題Ⅰ 次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。答えは、1·2·3·4から最も適当なものを一つ選びなさい。
小さい子どもが食事をするとき、食器はプラスティック製のものを使うのが一般的だと思いますが、私は長男が一歳半のころ、飲み物をあえて(注1)①ガラスのコップに入れて与えてみました。すると案の定(注2)、床に落としてコップを割ってしまいました。しかし、何度か同じことを繰り返しているうちに静かにコップを置くようになりました。
私は、できるだけ早い時期から子どもに物事の判断基準を教えることが親の役割だと思っていますから、言葉で理解できない小さい子どもであっても、自分で経験したり、考えたりする機会を多く与えることによって、判断する力を身につけさせようとしたのです。
次第に言葉を理解できるようになると、何かを教えようとするとき必ず理由を説明しながら教えるようにしました。初めは②それで納得していたのでしょうが、やがて子どもは私の言ったことに反論してくるようになりました。しかし、それは子どもの成長の一つであり、③私にはとてもうれしいことでした。
(中略)
私の三人に子どもたちも成長し、長男は大学に一年間通った後、現在は学校を休学し、カリフォルニアでカンボジア難民(注3)を相手にボランティア(注4)活動をしています。我が家では、私の父も私自身もボランティア活動を経験しており、子どもにも小さいときから大学生になったら④ボランティアさせるつもりでいました。今彼の行っている活動は私の考えていた以上に厳しいものですが、彼はその中で学校などでは学べない様様な貴重な経験をし、みちがえる(注5)ほど成長しました。どちらかというと自分のことしか考えていなかったような人間が、他人のことを第一に考えるようになり、自分が奉仕する(注6)ことによって何人もの人が助かったことがうれしいと言います。また、これまでの自分がいかに豊かで恵まれていたかを改めて感じていることでしょう。最近もらった手紙を読むと、ボランティア活動を始めたときとはまるで他人が書いているかのような内容で驚きました。
日本でも昔からボランティアが行われていましたが、まだまだ経験が少なく習慣になっていないのが実情(注7)です。もう少し時間がかかるかもしれませんが、これからは、ボランティアの精神を学校や親が子どもに教えるとともに、さらに活動の機会を与えることが必要だと思います。
(ケント·ギルバート「私と教育、わたしとしつけ」『文化時報』1999年1月号
ぎょうせいによる)
(注1)あえて:難しいとわかっていても
(注2)案の定「あんのじょう」:心配していたとおり
(注3)難民「なんみん」:戦争などで国外に逃げ、困難な生活をしている人々
(注4)ボランティア:お金をもらわずに社会や他人のために活動すること
(注5)みちがえる:変化が大きくて、すぐに同じ人だとわからない
(注6)奉仕する「ほうしする」:利益を求めずに社会や他人のために働く
(注7)実情「じつじょう」:実際の状況
問1 ①「ガラスのコップに入れて与えてみました」とあるが、どうしてそうしたのか。
1 飲み物はガラスのコップに入れて飲んだ方がおいしく感じるから。
2 子どもにはプラスティック製のコップよりガラスのコップの方が安全だから。
3 ガラスのコップを割るという経験が物事の判断基準を学ばせることになるから。
4 プラスチィック製の食器を使わせるという一般的なやり方にしたがいたくないから。
問2 ②「それで納得していた」とあるが、だれが何に納得していたのか。
1 子どもが筆者の説明に納得していた。
2 筆者が子どもの説明に納得していた。
3 子どもが筆者の判断に納得していた。
4 筆者が子どもの判断に納得していた。
問3 ③「私にはとてもうれしいことでした」とあるが、筆者はどうしてうれしかったのか。
1 人の話を聞いた上で反論できたことで、子どもが成長したことがわかったから。
2 子どもが経験からだけでなく言葉による説明でも判断ができるようになったから。
3 子どもが成長して、親が持っている以上の知識を身に付けたことがわかったから。
4 親の話を理解してすなおにしたがうことは、子どもにとって大切だと思うから。
問4 ④「ボランティアさせるつもりでいました」とあるが、だれがそう思っていたのか。
1 子ども自身
2 筆者
3 筆者の父
4 筆者と子供自身
問5 筆者の長男は、ボランティア活動によってどのように変わったか。
1 激しい運動をすることが多いため体が大きくなった。
2 他人に助けられ、人に感謝する気持ちが身についた。
3 いろいろな経験を通して別人のように明るくなった。
4 考え方が自身中心でなくなり、人間として成長した。
問6 この文章のまとめとして最も適当なものはどれか。
1 小さい子どもにも親自身がするボランティアをさせて、ボランティアとして他人を助けられるようにするべきだ。
2 小さい子どものときはしかたがないが、大学生になったら、ボランティアとして他人を助けられるようになるべきだ。
3 親から教えられたことを守る習慣や他人を助けるボランティアの精神を子どもに身につけさせることが大切だ。
4 自分の経験を通して判断する力や他人を助けるボランティアの精神を子どもに身につけさせることが大切だ。
問題Ⅱ 次の(1)と(3)の文章を読んで、それぞれの問いに対する答えとして最も適当なものを1·2·3·4から一つ選びなさい。
(1)次の文章は、ある講演の記録である。
部屋があって、テーブルの上にロウソクがあります(図23)。ほかにはマッチがあります。そして画鋲(注1)が箱の中にいくつか入っています。部屋に中に壁がある。問題は、このテーブルの上にある道具を使って、ロウソクを地面に垂直になるように壁に立てるというものです。要するに、ロウソクで部屋をともしたいんです。壁にロウソクを付けて部屋が明るくなるようにしたい。どうすればいいでしょうかという問題です。かっこうむずかしいですよね。(少し時間をとって、考えてもらう。)
答えなんですが、まず箱から画鋲を出してしまう。この箱を画鋲を使って壁に止める。そうすると水平の台になります。そこのロウをたらして(注2)ロソウクを立てる。①これが正解(注3)です(図24)。私はすごく感心したんです。自分では思いつかなかったので、なるほどなと思いました。②もっとおもしろい実験結果は、もともとこの箱に画鋲を入れずに、外に出してバラバラにして(注4)おいて被験者(注5)に出題した(注6)ほうが早く解決されるということです。画鋲が箱の中に入っているとなかなか解決ができないというんです。それはなぜだと思いますか。
私たちは、画鋲が箱の中に入っていると、「箱というのは画鋲の入れ物なんだ」というふうに考えますよね。入れ物としての機能を持っていると考えると、それを台にするというアイデアはなかなか思い浮かばないんじゃないでしょうか。入れ物としてではなく、単に一つ箱がポンと(注7)置いてあると、これを台にするという考えが浮かびやすい。
( ア )という私たちがもともともっている知識、つまり固定観念が、かえって問題解決を妨げてしまうんです。箱というのは、入れ物にもなるけれども、台としても使えるというようなことに思い至らない。そういう例として出されている実験です。
(市川伸一『心理学から学習をみなおす』 岩波高校生セミナーによる)
(注1)画鋲「がびょう」:板や壁に紙などを止める小さなピン
(注2)たらす:少しずつ下に落とす
(注3)正解「せいかい」:正しい答え
(注4)バラバラにする:ひとつにまとめないで、別々に分ける
(注5)被験者「ひけんしゃ」:実験を受ける人
(注6)出題する「しゅつだいする」:問題を出す
(注7)ポンと:軽くて投げて置いたようす
【問1】( ア )に入れるのに適当な言葉はどれか。
1 「箱というのは入れ物なんだ」
2 「箱というのは台として使えるんだ」
3 「画鋲というのは箱を止められるんだ」
4 「ロウソクで部屋を明るくできるんだ」
【問2】ロウソクな問題で、画鋲が箱の中に入っていることは被験者にどのように影響するのか。
1 画鋲で箱が壁に止められることに気づきにくくなる。
2 画鋲の箱が台として使えることに気づきにくくなる。
3 画鋲がこの実験では不要なことに気づきにくくなる。
4 画鋲を床に刺して使えることに気づきにくくなる。
(2)たとえば、メニューに次の二通りがあったとする。
A コーヒー380円 紅茶380円 ミルク380円
B コーヒー380円 紅茶400円 ミルク420円
どちらのメニューが、すぐれた値段設定(注1)かおわかりだろうか。
答えは、Bである。
Aのメニューでは値段に差がないなで、どれにも平均的に注文がくるかもしれない。しかし、現実にどの商品も同じぐらいの注文に応じるには、仕入れ(注2)や準備に手間がかかる。ムダをはぶくには、主力商品を決め、それを集中的に売る方が効率がいい(注3)。
つまり、Bのメニューでは、意識的にミルクの値段を高く設定することで「おとり商品」としているのである。ミルクの注文は少なくなるだろうが、そのかわり、コーヒーは割安に感じ、注文が集中することになる。
儲かっている喫茶店では、たいていこんな方法でおとり商品をうまく利用している。
(知的生活追跡班編『数字のウソにダマされない本』青春出版社による)
(注1)値段設定「ねだんせってい」:値段の決め方
(注2)仕入れ「しいれ」:店で売るための商品や材料を買うこと
(注3)効率がいい:労力や時間から見て利益が大きい
【問1】Bの方がすぐれた値段設定だといえるのはなぜか。
1 仕入れの値段や準備の手間に合わせて商品に値段をつけているから。
2 どの商品も平均的に注文がくるように、同じ値段をつけているから。
3 効率を考え、売りたい商品が割安に感じるように値段をつけているから。
4 仕入れや準備に手間がかからない商品に比較的高い値段をつけているから。
【問2】「おとり商品」の説明として正しいものはどれか。
1 他のよく売れる商品と同じ値段にしてある商品
2 手間やムダがはぶけるから値段を安くできる商品
3 値段が安く感じられ、注文が集中するような商品
4 少し値段を高くして、注文が来ないようにする商品
(3)
加藤さん
秋も深まってまいりましたが、お元気でお過ごしのことと思います。そちらでの生活には、もう慣れましたか。
さて、先月の25日に今年のクラス会(注1)が無事に開かれました。高校を卒業してからちょうど10年目のクラス会ということで、私たちが教えていただいた花田先生とクラスの卒業生32名が出席しました。毎年、幹事(注2)として出席していた加藤さんが欠席だったことが残念でしたが、楽しい時間を過ごしました。
ところで、来年も10月ごろクラス会を開くことになりましたが、今後は卒業した高校周辺で行うのではなく、いろいろな所に場所を移してしようということになりました。来年の候補地は京都になり、京都で大学の講師をしている佐々木君とあちらの大学を卒業した私なら京都にくわしいからと言われ、幹事を引き受けることになりました。佐々木君とも話し合い、より楽しいクラス会にしようと張り切っています。
長い間幹事をしてきた加藤さんからもぜひよいお知恵をお借りしたいので、これからはたびたび相談にのってもらえればと思います。今後はメール(注3)でご連絡しますので、よろしくお願いします。では、また。
中村 ゆう子
(注1)クラス会:学校で同じクラスだった人たちが卒業後に集まって開くパーティー
(注2)幹事「かんじ」:パーティーなどの準備、連絡を中心になってする人
(注3)メール:コンピューターを使って送ったり受け取ったりする手紙。電子メール。Eメール
【問1】この手紙を受け取る人はどんな人か。
1 最近、引越しをした人
2 これから引越しをする人
3 今年もクラス会に出席した人
4 今年もクラス会の幹事をした人
【問2】この手紙を書いた人が次のクラス会の幹事に選ばれたのはなぜか。
1 現在、京都の大学の講師をしていて、幹事の仕事の内容がわかっているから。
2 卒業した高校の近くだけでなく、日本のいろいろな場所を知っているから。
3 加藤さんと連絡が取れて、メールでいつでも相談にのると言われたから。
4 クラス会をする候補地にいたことがあり、そこをよく知っているから。
【問3】この手紙を書いた一番の目的は何か。
1 今回のクラス会に花田先生が出席したことを知ってほしい。
2 楽しいクラス会を開くためのよいアイデアを教えてほしい。
3 次の幹事に選ばれたが、やりたくないことを知ってほしい。
4 これからは手紙ではなくメールで日々の出来事を知らせてほしい。
問題Ⅲ 次の(1)から(6)の文章を読んで、それぞれの問いに対する答えとして最も適当なものを1·2·3·4から一つ選びなさい。
(1)我が家では「バカ」という言葉を使ってはいけないという禁止令を出しました。何気なく(注1)口に出していた言葉、ついつい(注2)使ってしまいます。ある時「バ」まで言ってから気がついて、子供はその後「……ビブベボ」。私は「バ……バン、バン、バン」と続けてごまかしました(注3)。起こっていた気持ちが笑いに変わりました。
(1999年2月14日付『毎日新聞』の投書による)
(注1)何気なく:何となく
(注2)ついつい:うっかり
(注3)ごまかす:失敗を別のことで目立たなくする
【問い】「『バ』まで言ってから気がついて」とあるが、どんなことに気がついたのか。
1 「バビブベボ」と「バカ」は同じ意味になること
2 「バカ」という言葉を言ってはいけなかったこと
3 筆者が「バカ」という言葉をよく使ってしまうこと
4 「バン、バン、バン」と言えばみなが楽しくなること
(2)ぼくは、こどもの頃から、たいへん、ひとみしりをする質(注1)で、ひと前に出るよりは、ひとりきりで(注2)いた方がいい。学校の教室などでも、ハイ、ハイと手を上げて、われ先に(注3)自分の意見を言える子たちを見ても、ぼくにはとてもあんなふうには真似できない。だから、自分のことを、なかなか他人に伝えたり、分かってもらえなくて、悲しい思いや、傷ついたりすることも多く、ああ、なんて、ぼくは損な性格に生まれついたんだろう、と我が身が腹立たしく、くやしく思ったことも一度ならずあった。
(大林宣彦『きみが、そこにいる』PHP研究所による)
(注1)質「たち」:性質、性格
(注2)ひとりきりで:ひとりだけで
(注3)われ先に:ほかの人より自分が先になって
【問い】「ひとみしりをする質」とあるが、どんな性格か。
1 大勢の人の前で積極的に意見が言える性格
2 人の真似が上手にできなくてくやしがる性格
3 思っていることを他人に伝えるのが苦手な性格
4 すぐに腹を立てて、人を傷ついてしまう性格
(3)日本人は、水をめぐって古くから争ってきた。日本に比較的雨が多い国なので、水には不自由していないはずである。しかし、日本の川は流れが速くて利用が難しく、地下水が出るところも限られているため、水を得るには大変な苦労が必要であった。水がないために、米はもちろん、作物さえもほとんど作れない地方もあったのである。この事情は、基本的には現在も変わっていない。大きな川がない市や町では、となりの市や町に、金を払って水道の水を分けてもらっている。そのため、住む場所によって、水道料金には大きな開きが見られる。
【問い】「この事情は、基本的には現在も変わっていない」とあるが、この事情とはどのようなことか。
1 水を得るためにしばしば争いが起きるということ
2 日本は雨が多い国なので水が豊かであるということ
3 水を手に入れるのは簡単なことではないということ
4 水が不足していて米や作物を作れないということ
(4)昔、モンシロチョウ(注1)で実験してみたことがある。ケージ(注2)の地面にいろいろな色の大きな紙を敷き、チョウがどの色の紙の上をよく飛ぶかを調べたのだ。やはり緑色の紙の上を、もっとも好んで飛ぶようであった。なるほど、チョウは緑色であれば紙でもいいのだな、とぼくは思った。
けれどこれは、チョウチョにはたいへん失礼な思いちがいであった。ほんものの草を植えた植木鉢をたくさん並べたら、チョウは緑色の紙など見向きもせず、ほんものの草の上ばかりを飛んだのである。
(日高敏隆「猫の目草―緑なら自然か?」『波』1998年6月号 新潮社による)
(注1)モンシロチョウ:ここでは「チョウ」「チョウチョ」もモンシロチョウを指す。
(注2)ケージ:鳥などを入れるかご
【問い】「これは、チョウチョにはたいへん失礼な思いちがいであった」とあるが、どんな思いちがいをしたのか。
1 チョウチョは色の区別だけでなく紙と植物の区別もできないと思ったこと
2 チョウチョは形の区別はできるが、色の区別まではできないと思ったこと
3 チョウチョは色の区別はできるが、紙と草の区別はできないと思ったこと
4 チョウチョは色だけではなく形までも区別することができると思ったこと
(5)いつのころからか、「若い人になにをのぞむか」とか「どのように生きてもらいたいか」というような質問をされるようになりました。
はじめは当惑しました(注1)。お前はもう若くないんだ、と不躾けに(注2)いわれたような気がして、ちょっと対応が乱れたり(注3)しましたけど、まあ、いまはそんなことをいいたいのではない。
そういう質問をされて、自分が長いあいだ、人に?どう生きて欲しい?などと願ったりすることから遠いところにいたんだな、ということに気がついたのです。だいたい、若い人にどう生きて欲しいなんていってみたって、いうことをきく人がいるものかと、自分の若いころをかえりみて(注4)、そう思うし、多少は影響をあたえうるかもしれない自分の子どもにたいしても、ほとんどそういうことは願わずに生きてきました。
(山田太一『ふぞろいの林檎たちへ』岩波ブックレットによる)
(注1)当惑する「とうわくする」:どうしてよいかわからず、困ってしまう
(注2)不躾けに「ぶしつけに」:相手の気持ちを考えず、失礼な態度で
(注3)対応が乱れる「たいおうがみだれる」:すぐにきちんとした答えができない
(注4)かえりみる:思い出してみる
【問い】 「気がついたのです」とあるが、筆者はどんなことに気がついたのか。
1 「若い人にどのように生きてもらいたいか」というような質問を、自分はされたくないと思っていたこと
2 「若い人にどう生きてほしいか」というような生き方についての話をする年齢に、自分がなっていたこと
3 もう若くはない自分が若い人に人生について語っても、聞いてくれる人はいないと思っていたこと
4 自分の子どもを含めて若い人にどう生きて欲しいかということを、今まで望んだことがなかったこと