1994年日语能力考试1级真题及答案
読解.文法 (200点90分)
問題Ⅰ 次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。答えは、1.2.3.4から最も適当なものを一つ選びなさい。
わたしももう48歳で「お若いですね」とお世辞を言われるような年頃になった。もちろん、そのようなお世辞はたいてい聞き流すが、ときには「若くないよ。昔なら人生50年、もうすぐ終わりだ」と①言い返すこともある。そのようなことを言われはじめるのは、人々にわたしが老人と見られはじめたということに過ぎないからである。
それは、自分が自分を見る場合にも言えることで、「自分は(②)」と思いはじめたら、それは(③)しるしなのである。実際は、若い人は「自分はまた若い」なんて思っていないし、むしろ「もう歳だ」(注1)というようなことを言いたがる。それが老いはじめると「自分は若い」と言い出すわけで、たいていの老人は自分は実際の年齢より若く見えるし、例え若く見えなくても本当は精神的にも肉体的にも若いと信じている。④自分は実際の年齢よりも老けていると思っている老人にお目にかかったことはまだない。
たしかに老化の進み具合は人によって異なり、年齢の進み具合と必ずしも一致しないが、殆どの老人が実際の年齢より若いということは論理的におかしな話で、それなら、実際の年齢とおりに老けている老人のほうが例外だということになってしまう。⑤そんな馬鹿なことはない。老人がそう思っているのが希望的観測に過ぎないことは明らかで、自分の状態よりさらに老けている状態を勝手に「年齢相応」と決め込み、それと自分を比較しているに過ぎない。
つまり、老人になればなるほど自分は若いと思いたがるわけで、したがってこのことから当人の老化の程度を判定できるのではないかと私は考えている。かりに老化指数(注2)という言葉を使えば、⑥(老化指数)=(暦年齢)(注3)-(当人が思っている年齢)という方程式が成り立つ。たとえば15歳の人が自分はもう一人前のおとなで、二十歳で通ると思っていれば老化指数はマイナス5、二十歳の人が自分は二十歳程度と思っていれば老化指数は0、40歳の人が35歳程度と思っていれば5、60歳の人が50歳程度だと思っていれば10である。ここに自分は50歳と変わらないと思っている70歳の人と、自分は60歳ぐらいには見えると思っている同じく70歳の人がいれば、老化指数は前者が(⑦)、後者が(⑧)で、前者のほうが二倍もより老化しているわけである。「近頃の若者は」なんて言うと老いた証拠と笑われるかもしれないが、⑨近頃の若者には、はたちを過ぎたばかりなのにもう「おじん」(注4)または「おばん」(注5)になったと嘆き、10代に見られたがる者がいるが、22歳の者が自分は18歳に見えると思っているとすれば老化指数は20代にして既に4である。近頃、そういう若者が多いということは、一方では若者の幼児化が言われてはいるが、他方では早くから精神的に老け込んでいる証拠ではなかろうか。
(岸田秀「不惑の雑考」による)
(注1)「もう歳だ」:「もう老人だ」
(注2)老化指数:老化の程度を示す数字
(注3)暦年齢:実際の年齢
(注4)おじん:おじさん
(注5)おばん:おばさん
問(1) ①「言い返すこともある」とあるが、なぜだと考えられるか。
1.お世辞を言われるような年頃になったかち
2.自分の人生はもうすぐ終わりだと考えたから
3.老人と見られはじめたことを意識させられるから
4.お世辞を聞き流すのは相手に失礼だと思ったから
問(2) ( ② )と( ③ )に入る組み合わせとして、最も適当なものを選びなさい。
1.②もう歳だ③若い
2.②もう歳だ③老人になった
3.②まだ若い③若い
4.②まだ若い③老人になった
問(3) ④「自分」は、だれを指すか。
1.老人 2.筆者 3.若い人 4.お世辞を言う人
問(4) ⑤「そんな馬鹿なこと」とは、どのようなことか。
1.老化の進み具合は人によって異なること
2.精神的にも肉体的にも自分は若いと信じていること
3.実際の年齢通りに老けている老人が例外になること
4.年をとると、「若いですね」とお世辞を言われること
問(5) 筆者が⑥(老化指数)=(暦年齢)一(当人が思っている年齢)という方程式が成り立つと考えたのは、なぜか。
1.人によって体力のおとろえ方が異なるから
2.老化が進むほど人は若いと思いたがるから
3.ほとんどの老人が暦の年齢より若いから
4.年齢相応の老け方を決められないから
問(6) ⑦と⑧に入る組み合わせとして、最も適当なものを選びなさい。
1.⑦ 5 ⑧ 10
2.⑦ 10 ⑧ 5
3.⑦ 10 ⑧ 20
4.⑦ 20 ⑧ 10
問(7) 「老化指数」によると、次のうち最も老化していると言えるのはどれか。
1.自分が20歳だと思っている30歳
2.自分が35歳だと思っている40歳
3.自分が40歳だと思っている30歳
4.自分が45歳だと思っている40歳
問(8) ⑨「近ヒ貞の若者」について、筆者が最も指摘したかったことは何か。
1.精神的に幼児化している
2.精神的に老けこんでいる
3.若く見えるようになった
4.老けて見えるようになった
問題Ⅱ 次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。答えは、1.2.3.4から最も適当なものを一つ選びなさい。
重苦しいほどむし暑い晩だった。
空には星ひとつなく、海は不気味に静まりかえっている。
私はいつものように、後甲板(注1)の方へ歩いていった。後甲板には先客が一人いた。デッキの手すりにもたれ、その男はしきりに暗い海をのぞきこんでいる。
「今晩は」
と私は声をかけた。
ふりかえった男の顔は骸骨(注2)のように痩せ細っていた。眼が落ちくぼみ、顔色がひどく蒼白い。
「今晩は・・・・・・」
男は低くしゃがれた声でそう云うと、薄い唇をゆがめて笑った。
私は男の隣に歩み寄って、同じように暗い海を見つめた。海はいつでも私をもの哀しい気分をさせる。海の中にいる誰かが呼んでいるような・・・・・・。
「いやな晩ですね」
と私は言った。
①「そうですか・・・・・・」
男は骨ばった長い指で髪の毛をかきあげた。
「僕はこんな晩の方が好きなんですよ。なんとなく不気味で面白いじゃありませんか」
私は変わった男だと思った。私が黙っていると、彼が問いかけてきた。
②「この船に幽霊が出るという噂があるんですが、知っていますか?」
「幽霊?」
と私は訊き返した。
「ええ。やはり僕たちみたいな客の一人が、自殺したことがあるんだそうです。こんな風に重苦しくて、風邪のない晩だったと云いますよ。その男はしばらく海を眺めていて、ふいに飛び込んだんです。ちょうどここから、今、僕らがこうしているところからね・・・・・・」
男は私の顔を覗き込むようにして、にやりと笑った。
「あがった屍体(注3)は、右の腕がなかったそうです。スクリュウ(注4)に切られたのかもしれませんね」
二人は暗い海にほの白く泡立っているスクリュウの後をしばらく見つめた。
「それで、その幽霊が出るんですね」
私の声は少しふるえているような気がした。
「ええ、自分の失った右腕を探しているのだという噂です。こういうふうにむしむしして、海が妙に静まり返った晩、③男が一人でその海を眺めている。そして、しばらくするとふっと消えてしまうのです」
男は自分自身をかき消すようなしぐさをした。
「なぜ、その男が自殺したのか知っていますか?」
と私は訊いた。
「(④)、何の原因もないのです。金に困っているわけでもなく、失恋したわけでもなかった・・・・・・」
眉をひそめ、男は遠いところを見る眼つきで海を見つめた。
「多分・・・・・・」
と云った男は口ごもった。
「多分、この海を見ているうちに、何もかもいやになったのでしょうね。そして、ひきずりこまれるように、飛び込んだのでしょう。僕には、その気持ちが分かるな。こうしていると、何もかも忘れて、この海の底で眠りたくなる。あなたは、そう思いませんか?」
私も、海を見つめた。海は暗く、静かに私を呼びかけているように思えた。
(注1)後甲板: (注4)スクリュウニ
(注2)骸骨のように痩せ細った:非常に痩せた
(注3)屍体:死体
(注5)私を呼びかけている:通常は「私に呼びかけている」
ここまで読んで、次の問1から問4に答えなさい。
2.私はそう思いません
3.私は夜が嫌いです
4.私も夜が嫌いじゃありません
問(2) ②「この船に幽霊が出るという噂」とあるが、この噂によると幽霊はどんな時に出るか。
2.もの哀しい気分にさせる晩
3.海がほの白く泡だっている晩
4.自殺したいと思っている客がいる晩
2.自分の右腕をさがすため
3.幽霊が出るのを待つため
4.海の中にいる誰かを呼ぶため
問(5) 上の文章(4~5ページの文章)の後には、次の文章が続きます。最後まで読んで、下の問5、問6に答えなさい。 「そうなのです」ため息を吐きながら、私は云った。
「それで、⑤あの晩私は飛びこんだのです」
私の右腕がないのに男が気づいたのは、その時だった。
(生島治郎「暗い海暗い声」『奇妙な味の小説』立風書房による)
⑤「あの晩私は飛びこんだ」のは、なぜか。
2.自分の失った右腕をさがそうと思ったから
3.すべてを忘れて海の底で眠りたくなったから
4.海の中の幽霊に呼ばれたような気がしたから
問(6) 次の幽霊について述べたもののうち、正しいものを選びなさい。
2.甲板にいた男が幽霊だった
3.甲板にいた男と「私」が幽霊だった
4.幽霊は出てこなかった