昔 々むかし、空海くうかいという名なの、旅たびをしながら村むらから村むらへと歩あ
るく、お坊ぼうさんがいました。
ある冬 ふゆの日 ひ、宿 やどが見 みつからないうちに夜 よるが来 きました 。「どこか
に、泊とめてくれる家いえはないかな?」でも、汚きたないお坊ぼうさんの姿すがたを
見みて、泊とめてくれる家いえはありませんでした。とうとう、雪ゆきが降ふってきま
した。村外むらはずれまで来くると、一軒いっけんの貧まずしい家いえがありました。
「雪ゆきに降ふられて困こまっている。今夜こんや、一晩泊ひとばんとめてくださ
れ。」すると中なかから、お婆ばあさんが出でてきて、「あれまあ、お気きの毒どくに
[1] 。こんな所ところでよかったら、さあ、どうぞ。」お婆ばあさんは、お坊ぼうさんを
囲炉裏いろり [2] の縁ふちに座すわらせ、お碗わんにお湯ゆを入いれてあげました。「食
たべる物ものもなくてのう。せめて、お湯ゆでも飲のんでください。体からだが暖あっ
たまりますから。」お坊 ぼうさんは、両手 りょうてでお碗 わんを抱 かかえるようにし
てお湯 ゆを飲 のみました 。
冷ひえ切きった [3] 体からだが、どんどん暖あったかくなってきます。「ありがとう。ま
るで、生いき返かえったようだ。」お坊ぼうさんが礼れいを言いうと、「明日あしたの
朝あさは、きっと何なにか作つくりますから。」お婆ばあさんが、申もうしわけなさそ
うに頭あたまを下さげました。
するとお坊ぼうさんは、懐ふところから米こめを三粒さんつぶほど出だして、「すまん
が、これでお粥かゆを煮にてくれ。」と、言いいました。「へええ、これでお粥かゆ
を…」お婆ばあさんはビックリしましたが、言いわれたように、鍋なべに三粒さんつぶ
の米こめを落おとし、それにたっぷりとお湯ゆを入いれ、囲炉裏いろりの上うえに載の
せました。すると、どうでしょう。鍋なべの中なかには、たちまち美味おいしいお粥か
ゆが溢あふれ、グツグツと煮にえ始はじめたのです。
「さあ、お婆ばあさんもいっしょに食たべなされ。」
そのお粥かゆの美味おいしいこと。こんなに美味おいしいお粥かゆを食たべたのは、生
うまれて始はじめてです。「はあ、ありがたや、ありがたや。」お婆ばあさんは、涙な
みだを流ながして喜よろこびました。そして不思議ふしぎなことに、お粥かゆはいくら
食たベても、ちっとも無なくなりません。
「ありがとうございました。汚きたない布団ふとんですが、ここで休やすんでくださ
い。」お婆ばあさんは、たった一組ひとぐみしかない布団ふとんにお坊ぼうさんを寝ね
かせて、自分じぶんは藁わらに潜もぐって寝ねました。
次つぎの朝あさ。お坊ぼうさんは、お婆ばあさんが寝ねているうちに起おき出だし、ま
た、懐ふところから米こめを三粒さんつぶほど出だして、空からっぽの米こめびつの中
なかヘ落おとしました。「親切しんせつなお婆ばあさん、いつまでも元気げんきでいて
おくれ。」そう言いって家いえを出でようとしたら、お婆ばあさんが慌あわてて起おき
てきて、「お坊ぼうさん、待まってください。芋汁いもじるでも作つくりますから。」
「ありがとう。でも、わたしはもう出でかけなくてはいけない。後あとで、米こめびつ
を開あけるがよい。」お坊ぼうさんはそう言いうと、お婆ばあさんの家いえを出でてい
きました。
「また、来きてください」お婆ばあさんは、雪ゆきの中なかのお坊ぼうさんに向むかっ
て、そっと手てを合あわせました。「そう言いえば、米こめびつを開あけろと、言いっ
ていたが。」お婆ばあさんが米こめびつを開あけてみますと、なんと、中なかには米こ
めがびっしり詰つまったいるではありませんか。そればかりか、不思議ふしぎなこと
に、毎まい日にち食たべても米こめはなくなりません。この米こめのおかげで、お婆ば
あさんはいつまでも元気げんきに暮くらしたそうです。
[1] 「お気の毒に」,可怜的。
[2] 「囲炉裏」,名词。地炉,坑炉。
[3] 「冷え切る」,动词。冻僵。
很 久以前,有一个叫空海的和尚,他一路旅行,走过了一村又一寨。
有一个冬天,空海还没找到投宿的地方,天就黑了。于是他挨家挨户地问:“请问,能收留
我住一晚吗?”可是,看到空海脏兮兮的样子,村里没有人愿意收留他。雪越下越大,空海
来到了村外,那里有一间破旧的房子。
他在门口喊道:“遇到下雪实在很为难,今晚能否留我过夜呢?”只见一位老婆婆从屋里走
出来:“哎呀!真是可怜啊!你若不嫌弃,就进来吧。快!请进!”老婆婆让空海坐到地炉
边,给他递上一碗热水:“我这里没有什么吃的,至少喝点儿热水吧。身上会暖和点儿
的!”空海双手捧着碗,把热水一饮而尽。
刚才那冻僵的身体,渐渐地暖和起来了。“谢谢你啊,我感觉好像重新活过来一样。”空海
向老婆婆道谢。老婆婆面带愧色地低下头说:“明天早上,我一定想办法弄点吃的。”
听到这里,空海从怀里拿出三粒大米,对老婆婆说:“不好意思,麻烦你用这个帮我煮点儿
粥吧。”“诶?用这个煮粥?”老婆婆惊讶不已,但还是照空海说的那样把那三粒米放在锅
里,加满热水,把锅架在地炉上。然后,怎么样了呢?突然,锅里溢出美味的米粥,开
始“咕嘟!咕嘟!”地翻滚起来。
“来!老婆婆你也一起来尝尝这个粥吧。”空海向老婆婆说。
这米粥真是太香了。老婆婆活了这么大岁数,还是第一次吃到这么好吃的粥。“哎呀!我真
是太幸运啦!太幸运啦!”老婆婆激动得泪流满面。而令人感到惊奇的是,这锅米粥怎么吃
也不见少。
吃完米粥,老婆婆说:“真是太谢谢你啦!被子虽然不干净,但还是请在这里休息吧。”老
婆婆把唯一的一床被子让给了空海,自己却钻到稻草堆里睡觉。
第二天早上,空海趁老婆婆还没醒来就起床了。他又从怀里拿出三粒米,放在老婆婆那空
空如也的米缸里,默默地说:“善良的老婆婆,祝你身体健康!”说完正准备出发,只见老
婆婆急急忙忙起来,说:“师父,请等一等!让我为你煮点儿芋头汤吧。”空海说:“谢谢
你!可是我必须走啦。我走后你再打开米缸看一看吧。”说完他就离开了老婆婆家。
老婆婆望着渐渐消失在雪中的空海,默默地双手合十说:“请你下次再来呀!”“对了!刚才
师傅说让我打开米缸,那是怎么一回事儿呢?”老婆婆自言自语道。她把米缸打开一看,哎
呀!里面竟装着满满的一缸大米啊。不仅如此,不可思议的是无论每天怎么吃,米缸里的
米都不会减少。多亏了有这些大米,老婆婆从此过上了无忧无虑的生活。
语法详解
(1)用言の未然形+ないうちに
表示在保持前项不变的情况下发生后项变化,出现意想不到的结果。相当
于“在不……期间……”“趁着还没……就……”。
* ふと外を見ると、気が付かないうちに雨が降り出していた。
无意中向外一看,在不知不觉中已经下起雨来。
* 日本人と付き合っていたら、知らないうちに納豆が食べられるように
なった。
在与日本人交往的过程中,不知不觉也变得能吃纳豆了。
(2)用言の連体形+ようにする
表示“为了达到或实现前项而做……”,有努力做成前项的意思,应根据情况
灵活翻译。
* 毎朝早く起きるようにしています。
我坚持每天早晨早起。
* 飛行機は海をなめるようにして低く近づいてきた。
飞机贴着海面低空飞行。
* 健康のために、一週間一度泳ぐようにしようと思います。
为了健康,我想每周游一次泳。
小知识
空海
平安初期の僧。真言宗の開祖。讃岐の人。灌頂号は遍照金剛。初めて大
学で学び、のち仏門に入り四国で修行、804年(延暦23)入唐して恵果に
学び、806年(大同1)帰朝。京都の東寺·高野山金剛峯寺の経営に努めた
ほか、宮中真言院や後七日御修法の設営によって真言密教を国家仏教と
して定着させた。また、身分を問わない学校として綜芸種智院を設立。
詩文に長じ、また三筆の一。著「三教指帰」「性霊集」「文鏡秘府論」
「十住心論」など。諡号は弘法大師。「弘法も筆の誤り」(その道に長
じた者にも、時には誤りや失敗があるというたとえ)「弘法筆を選ば
ず」(本当の名人は道具のよしあしにかかわらず立派な仕事をするとい
うたとえ)「護摩の灰」(旅人らしく装って、旅人をだまし財物を掠め
る盗賊)「生麦大豆二升五合(なまむぎだいずにしょうごんごう)」
(民間に伝わる呪文で、これを唱えれば難事を避けることができるとい
う。本来の字義からは離れてしまっているが、空海の御宝号「南無大師
遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」が転訛したもの。)など
空海にまつわることわざがある。
空海
平安初期的僧人。日本真言宗的开山鼻祖。赞岐人。灌顶号遍照金刚。初
在大学学习,后入佛门,在四国修行,于804年(延历23年)入唐,跟随惠
果学习佛法,806年(大同1年)回到日本。除了潜心经营京都的东寺和高
野山金刚峰寺以外,空海还通过在皇宫中修建真言院、设立后七日御修法
等,确立了真言密教作为国教的地位。另外,他还设立了不分身份地位均
可入学的综艺种智院。空海擅长诗文,是日本“平安三笔”之一。著有《三教
指归》《性灵集》《文镜秘府集》《十住心论》等。谥号弘法大师。关于
空海的谚语有:弘法大师也有笔误(智者千虑必有一失);弘法大师的护
摩之灰(装成旅伴的小偷);生麦大豆二升五合(民间流传的咒语,据说
念诵这个咒语就可以逢凶化吉,是由空海宝号“南无大师遍照金刚”谐音讹转
而成的,与字面意义毫无关系)。