昔 々むかし、周まわりをグルッと山やまで囲かこまれた山奥やまおくに、一人ひとりの
お爺じいさんが住すんでいました。お爺じいさんは、毎日朝まいにちあさになると、柴
しばを入いれるしょいこ [1] を背負せおい、山やまへ入はいっていきました。そして、一
日中柴いちにちじゅうしばを刈かっているのです。
今日きょうも、柴しばをいっぱい背負せおい、山やまから出でてきました。「さて、ボ
ツボツ [2] 帰かえるとするか。うん?あれは何なんじゃ?」お爺じいさんが帰かえろうと
すると、子こ狐ぎつねが一匹いっぴき、一いっ生しょう懸けん命めい木きの実みを採と
ろうとしていました。「はて、狐きつねでねえだか。」この子こ狐ぎつね、足あしが悪
わるいらしく、いくら頑張がんばっても、うまく木きの実みが採とれません。
「よしよし、わしが採とってやろう。よっこらしょ。さあ、これをお食たべ。それじゃ
あ、わしは行いくからな。」子こ狐ぎつねは、お爺じいさんの親切しんせつがよほど嬉
うれしかったのか、いつまでもいつまでも、お爺じいさんの後うしろ姿すがたを見送み
おくっていました。
そんなある日ひ、お爺じいさんは町まちへ買かい物ものに出でかけましたが、帰かえり
がすっかり遅おそくなってしまいました。「急いそがなくては。」すっかり暗くらく
なった日暮ひぐれ道みちを、お爺じいさんが急いそぎ足あしでやってきますと、丘おか
の上うえで子こ狐ぎつねが待まっていました。「あれまあ、こないだの狐きつねでねえ
だか。」何なにやら、しきりにお爺じいさんを招まねいている様子ようすです。
お爺じいさんは、狐きつねの後あとをついていきました。子こ狐ぎつねは、悪わるい足
あしを引ひきずりながら、一生懸命いっしょうけんめいに、お爺じいさんをどこかへ案
内あんないしようとしています。着ついた所ところは、竹たけ藪やぶの中なかの狐きつ
ねの住家すみかでした。「ほう、ここがお前まえの家いえか。」狐 きつねの家 いえに
は、お母 かあさん狐 ぎつねがおりましたが、病気 びょうきで寝 ねたきりの様子 ようす
です 。
お母かあさん狐ぎつねが、何度なんども何度なんどもお爺じいさんにお辞儀じぎをし [3]
ています。息子むすこを助たすけてもらったお礼れいを、言いっているように見みえま
した。その内うち、奥おくから何なにやら取とり出だしてきました。それは、一枚いち
まいの古ふるぼけた頭巾ずきんでした。「何なにやら、汚きたない頭巾ずきんじゃが、
これをわしにくれるというのかね。では、ありがたくいただいておこう。」お爺じいさ
んは、お礼れいを言いって頭巾ずきんを受うけ取とると、元来もときた道みちを一人ひ
とりで帰かえっていきました。子こ狐ぎつねは、いつまでもお爺じいさんを見送みおく
りました。
さて、あくる日ひのこと。お爺じいさんが庭にわで薪まきを割わっていますと、ヒラリ
と、足元あしもとに何なにかが落おちました。「これはゆんべ、狐きつねからもらった
頭巾ずきんじゃな。…ちょっくら被かぶってみるか。」お爺じいさんは頭巾ずきんを被
かぶって、また薪割まきわりを始はじめました。
すると、「家うちの亭主ていしゅときたら、一日中いちにちじゅう、巣すの中なかで寝
ねてばかり。今いまごろは、すっかり太ふとりすぎて、飛とぶのがしんどいなぞという
とりますの。」「ほう、痩やせのちゅん五郎ごろうじゃった、お宅たくの亭主ていしゅ
がのう。」何なにやら聞きいたこともない話はなし声ごえが、お爺じいさんの耳みみに
聞きこえてきました。
「はて、確たしかに話はなし声ごえがしたが、誰だれじゃろう?」家いえの中なかを覗
のぞいてみましたが、誰だれもいません。
「裏林うらばやしのちゅん吉きちが、腹はらが痛いたくてすっかり弱よわっとるそう
じゃ。」「それは、木きの実みの食たべすぎじゃあ。」お爺じいさんは、また声こえに
気きがつきました。「おかしいのう。誰だれか人ひとがいるようじゃが、やっぱり誰だ
れもおらん。」
お爺じいさんは、家いえをグルリと一回ひとまわりして、ヒョイと上うえを見上みあげ
ました。「うん?もしかしたら、この頭巾ずきんのせいでは。」お爺じいさんは、頭巾
ずきんを抜ぬいだり被かぶったりしてみました。「やはりこれか。」狐きつねがくれた
この頭巾ずきんは、これを被かぶると、動物どうぶつや草くさや木きの話はなし声ごえ
が聞きこえるという、不思議ふしぎな頭巾ずきんだったのです。お爺じいさんは、狐き
つねがこんなに大切な物ものを自分じぶんにくれたことを、心こころから嬉うれしく思
おもいました。
さて、次つぎの日ひから、お爺じいさんは山やまへ行いくのがこれまでよりも、もっと
もっと楽たのしくなりました。頭巾ずきんを被かぶって山やまへ入はいると、小鳥こと
りや動物どうぶつたちの話はなし声ごえが、いっぱい聞きこえてきます。えだに止と
まって話はなしている小鳥ことり。木きの上うえで話はなしている栗鼠りす。皆楽みん
なたのしそうに、話はなしています。
お爺じいさんは、山やまで柴しばを刈かりながら、小鳥ことりや動物どうぶつのおしゃ
べりを聞きくのが楽たのしくてしかたありません。「わたしゃ、喉のどを傷いためて、
すっかり歌うたに自信じしんがなくなっちまった。」「そんなことございませんよ。
とってもよいお声こえですわ。」「そうかな、では、いっちょう歌うたおうかな。」な
んと、虫むしの話はなし声ごえまで聞きこえるのです。お爺じいさんはこうして、夜通
よどおし虫むしたちの歌声うたごえに耳みみを傾かたむけていました。一人暮 ひとりぐ
らしのお爺 じいさんも、これで少 すこしも寂 さびしくありません 。
そんなある日ひのこと。お爺じいさんが、山やまから柴しばを背負せおって下おりてき
ますと、木きの上うえでカラスが二羽にわ、何なにやらしゃべっています。お爺じいさ
んは聞きき耳頭巾みみずきんを取とり出だして被かぶり、耳みみを澄すまします [4] と、
「長者ちょうじゃどんの娘むすめがのう。」「そうよ、もう長ながい間あいだの病気
びょうきでのう。この娘むすめの病気びょうきは、長者ちょうじゃどんの庭にわにう
わっとる、樟くすの木きの祟たたり [5] じゃそうな。」「樟くすの木きの祟たたり?何な
んでそんな」。「さあ、それは樟くすの木きの話はなしを聞きいてみんとのう。」
カラスの噂話うわさばなしを聞きいたお爺じいさんは、さっそく長者ちょうじゃの家い
えを訪たずねました。長者ちょうじゃは、本当ほんとうに困こまっていました。一人娘
ひとりむすめが、重 おもい病気 びょうきで寝 ねたきりだったからです 。
お爺じいさんはその夜よる、倉くらの中なかに泊とめてもらうことにしました。頭巾ず
きんを被かぶって、待まっていますと。「痛いたいよ。痛いたいよ。」倉くらの外そと
で、樟くすの木きの泣なき声ごえらしきものが聞きこえます。樟くすの木きに、椥なぎ
の木きと、松まつの木きが声をかけました。「どうしました、樟くすの木きどん?」
「おお、今晩こんばんは。まあ、わたしのこの格好かっこうを見みてくだされ。新あた
らしい倉くらが、ちょうど腰こしの上うえに建たってのう。もう、苦くるしゅうて苦く
るしゅうて。」「それは、お困こまりじゃのう。」「それでのう、わしは、こんな倉く
らを建たてた長者ちょうじゃどんを恨うらんで、長者ちょうじゃどんの娘むすめを病気
びょうきにして、困こまらせているんじゃ。」倉くらの中なかのお爺じいさんは、樟く
すの木きたちのこの話はなしを聞きいて、すっかり安心あんしんしました。「倉くらを
どかし [6] さえすれば、娘むすめごの病やまいは、必かならずよくなる。」
次つぎの日ひ。お爺じいさんは、長者ちょうじゃにこの事ことを話はなしました。長者
ちょうじゃは、すぐに倉くらの場所ばしょを変かえることにしました。それから何日な
んにちか経たって、倉くらの重おもみが取とれた樟くすの木きは、元気げんきを取り戻
もどして、青あおい葉はをいっぱいに茂しげらせたのです。長者ちょうじゃの娘むすめ
も、すっかり元気げんきになりました。
長者ちょうじゃは大喜おおよろこびで、お爺じいさんにいっぱいのお宝たからをあげま
した。「これは、狐きつねがくれた頭巾ずきんのおかげじゃ。狐きつねの好物こうぶつ
でも買かってやるべえ。」お爺じいさんは、狐きつねの大好だいすきな油あぶらあげを
買かって、山道やまみちを帰かえっていきました。
[1] 「しょいこ」,名词。背柴用的架框。
[2] 「ボツボツ」,副词。渐渐,慢慢,一点一点。
[3] 「お辞儀をする」,鞠躬。
[4] 「耳をすます」,注意听,洗耳恭听。
[5] 「祟り」,名词。作祟,报应。
[6] 「どかす」,动词。挪开,移开,撤退。
很 久以前,在一个被重重山峰包围的小山谷里,住着一个老爷爷。老爷爷每天一早就背上
装柴火的竹筐上山,在山里砍一天柴。
今天也不例外,老爷爷背着装满柴火的竹筐从山上下来。“好嘞!该回家了。咦?那是什么
呀?”老爷爷正准备回去时,看到一只小狐狸在努力地想要摘树上的果实。“啊,原来是只
小狐狸啊。”老爷爷自言自语。这只小狐狸看来好像脚受伤了,怎么努力,也摘不到树上的
果实。
“好吧!好吧!我来帮你吧。嘿!来,吃吧。那再见了,我该走啦。”老爷爷帮它摘下果子
就走了。小狐狸对老爷爷的热心帮助感激不尽,一直目送着老爷爷远去的背影。
有一天,老爷爷到集市上去买东西,回来晚了。“再不快点儿就……”他一边自言自语,一
边急匆匆地行走在漆黑的道路上。山岗上一只小狐狸正在等着他。“啊呀!这就是上次那只
小狐狸吧?”小狐狸似乎不停地在向老爷爷招手。
于是,老爷爷就跟在小狐狸后面走。小狐狸拖着一条病腿,努力地为老爷爷带路。小狐狸
把老爷爷带到了竹林中狐狸的家里。“哎呀!这就是你的家啊?”老爷爷问道。小狐狸的家
中有一只狐狸妈妈,可是她好像一直卧病在床。
狐狸妈妈不断地给老爷爷鞠躬,好像是在感谢老爷爷对它们的帮助。她一边道谢,一边从
屋里拿出一个东西。这是一个破旧的头巾。老爷爷心想:“真是条脏头巾啊,是要送给我
吗?那么我就欣然接受吧。”老爷爷一边道谢一边接过头巾,然后一个人按原路返回了。小
狐狸一直目送着老爷爷走远。
第二天,老爷爷在院子里劈柴的时候,突然觉得什么东西掉到了脚边。他仔细一看,“这不
就是昨晚狐狸妈妈给我的头巾吗,我戴上试一试吧。”于是,老爷爷戴上头巾,又开始继续
劈柴。
突然,老爷爷听到了很多从来没听过的、奇怪的声音。“我们家老头子啊,一天到晚,只会
在窝里睡懒觉。现在太胖了,一飞就觉得累得慌。”“是吗?都说‘瘦子五郎’,不就是你家先
生嘛?”
老爷爷心想:的确有人在说话,究竟是谁呀?他环顾四周,也没发现人。
“听说那边林子里的阿吉最近经常闹肚子,身体变得很虚弱呢。”“那是因为吃太多树上的果
子了。”老爷爷又听到了说话声。他心想:“真奇怪啊!明明好像有人在说话,可是又没
人。”
老爷爷绕着自家房子转了一圈,不经意抬头往上一看:“啊?或许是这个头巾的缘故
吧?”老爷爷解下头巾,又戴上头巾试了试。“果然是这个头巾在起作用啊。”狐狸给老爷爷
的头巾是一条神奇的头巾,只要一戴上它,就可以听到动物和花草的说话声。老爷爷由衷
地感谢狐狸把这么珍贵的东西给了自己。
从那以后,老爷爷觉得上山干活比以前更有趣了。戴上头巾后,他就能够听到很多小鸟和
动物们的谈话。有停留在枝头上叽喳的小鸟,有站在树上说话的松鼠等等,大家聊得十分
开心。
老爷爷一边在山里砍柴,一边快乐地倾听小鸟和动物们聊天。“我最近喉咙痛,完全丧失了
歌唱的自信了。”“没这回儿事。你的声音还是很好听的嘛!”“真的吗?那一起唱一个
呗!”他甚至听到了虫子们的窃窃私语。就这样,老爷爷整晚都在侧耳倾听虫子们快乐的歌
声,孤独的他再也不感到寂寞了。
有一天,老爷爷背着柴火从山上下来的时候,听见树上有两只乌鸦在交谈着什么。老爷爷
连忙戴上千里耳头巾,仔细倾听。“你听说财主家女儿的事情了吗?”“是啊!听说他家女儿
已经病了很久了,据说是因为他们家院子里那棵樟树在作祟啊。”“樟树作祟?怎么会有这
种事情呢?”“那这个要问问樟树了。”
听到乌鸦们的谈话,老爷爷赶忙去到财主家。财主正为卧病不起的独生女儿愁眉不展。
当晚,老爷爷得到财主的同意,住到了财主家的仓库里。他戴上头巾,耐心地等待着。只
听见仓库外传来樟树“疼啊!疼啊!”的呻吟声。竹柏和松树问樟树:“樟树,你怎么
啦?”樟树回答道:“哦,晚上好。你们看看我现在这副模样,新仓库正好建在我的腰上,
我很难受啊!”“这样子真是不好办呐!”竹柏和松树同情地说。“我很痛恨建这个仓库的财
主,所以我就诅咒他的女儿生病,让他不好受。”躲在仓库中的老爷爷听到这一切,顿时放
下心来。心想:“原来是这样啊!只要拆掉仓库,财主女儿的病就得救啦”。
第二天,老爷爷把这一切告诉了财主。财主决定立即移动仓库。就这样过了几天,摆脱仓
库重担的樟树恢复了活力,长出了许多青翠茂盛的叶子,财主的女儿也完全恢复了健康。
财主非常高兴,送给老爷爷很多珍宝。老爷爷心想:“这多亏了狐狸妈妈送我的魔法头巾
啊!应该给狐狸买些它们爱吃的东西。”于是,老爷爷买了很多狐狸最爱吃的炸豆腐,向山
上走去。
语法详解
(1)動詞の連用形+たきりだ
表示后项的行为、状态是发生后一直保持不变的状态。相当于“只是……”。
口语也用「たっきりだ」的形式。
* 彼とは、去年の春節に会ったきりでした。
只是在去年春节和他见了一面。
* 森さんは事故でベッドの上に寝たきりの植物人間になってしまった。
森先生因事故成了躺在床上的植物人了。
(2)少しも+用言の否定形
表示全面否定。相当于“一点也不……”“完全不……”“根本不……”“丝毫
不……”
* 君の言うことは少しも分かりません。
你说的我完全听不懂。
* この果物は大きいばかりで少しも美味しくない。
这个水果只是个大,一点也不好吃。
* その辺りは少しも静かではありません。
那一带根本不安静。
小知识
頭巾
頭巾は被り物の一種で、主として布を袋形に、あるいは折り畳み、頭部
や顔面を覆い包むもの。風雪寒暑や土埃、砂埃などの傷害を防ぐ為で
あったり、人目を避ける為に用いられる事が多い。日本で広く流行した
のは江戸時代からであり、武士、僧侶、一般庶民と幅広く用いられた。
『嬉遊笑覧』や『江戸職人尽歌合』などを紐解いてみると頭巾の種類と
して30を超える種が認められ、形·名称ともに個性的なものが多数存在し
ていた事が伺える。形状で大別した場合、丸形、角形、袖形、風呂敷形
に分類される。また、トップスと頭巾が一体化しているものもある。
头巾
头巾是披盖物的一种,主要为口袋型或是折叠型,用于盖住头部和脸部。
主要用于抵御风雪、沙尘的伤害,也可用于避人耳目。头巾在日本自江户
时代开始流行,武士、僧侣及一般民众多有使用。据《嬉游笑览》《江户
职人尽歌合》等书记载,头巾的种类多达30多种,形状及名称各异,颇具
个性者不在少数。从形状上大致可分为圆形、角形、袖形、包袱皮形等。
另外,有的头巾是和衣服连成一体的。