第十課 「イソップ物語」を読む
本文
きつねが井戸に落ちましたが、どうしても上がれなくて、困っていました。そこへ、のどが渇いて困っているやぎがやってきました。そして、井戸の中に、きつねが入っているのを見つけると、その水はうまいかと聞きました。きつねは、困っているのに平気な顔をして、水のことをいろいろほめたて、やぎに降りてくるように勧めました。やぎは、水が飲みたいばかりに、うっかりおりて行きました。
さて、やぎは、のどの渇きがおさまったので、上に上がる方法を、きつねに相談しました。すると、きつねは、うまい方法を思いついたと言って、「あなたの前足を壁に突っ張って、角を前にやってくださいよ。そうすれば、私が背中に乗って飛び出し、そして、あなたを引き上げましょう。」と言いました。
そこで、やぎは、今度もきつねの言うとおりにしました。きつねは、やぎの足の方から飛び上がって、その背中に乗り、そこから、角を踏み台にして、井戸の口まで上がりました。そして、そのまま行ってしまおうとしました。やぎが、きつねに、約束が違うじゃないかと、文句を言うと、きつねは、振り返って言いました。「ねえ、やぎさん、あなたにもう少し知恵があれば、そんな所へおりなかったでしょうね。」
会話
先生:はじめに、この話を読んで、いちばん強く感じたことを話し合ってみましょう。では、大谷君、どうですか。
大谷:きつねは、知恵がありますが、やぎは、すぐ騙されるから、考えが足りないと思いました。
山田:でも、やぎが騙されたのは、その時、とても水が飲みたかったからではないでしょうか。
林 :そうです。やぎは、その時、がまんできないほどのどが渇いていたのだと思います。知恵があっても、そういう時には、だれだって、井戸の中に入って行くと思います。
大谷:けれど、やぎが騙されたのは、のどが渇いている時だけではありません。そのあとでも騙されているでしょう。だから、やっぱり、知恵が足りないのだと思います。
木村:私もそう思います。きつねが背中に乗ると言った時も、すぐ、きつねの言うことを聞いて台になってやるなんて、やっぱり考えの足りないやぎです。
西山:やぎは、きつねの言うことを、少しも変だと思わないし、何でも言うとおりになっています、私は、こういう性質は嫌いです。
木村:私も嫌いです。私は、どんなことでも、自分でよく考えて決めたいと思います。もし、私だったら、背中に乗せてくれと言われたら、はっきり断ります。
中村:僕なら、その井戸が浅いか深いかよく調べてみます。もし、深いようだったら、きつねに、上がるにはどうすればいいか、聞いてから入ります。
先生:やぎについて、いろいろ意見が出ましたね。まだ、そのほかに、考えのある人はいませんか。
山田:僕も、やぎは好きではありませんが、そんなに考えが足りないのではないと思います。このやぎは素直なのだと思います。だから、きつねのいうことを、すぐに信じるのです。こんなに素直なやぎを、二度も騙すきつねはとてもひどいきつねだと思います。
長島:僕も賛成です。僕は、こんなきつねが大嫌いです。
小林:大谷君は、きつねは知恵があると言いましたが、知恵があるのではなく、ずるいのだと思います。
先生:それでは、今度は、きつねについて感じたことを話し合いましょう。
応用文
浦島太郎
昔、浦島太郎という人がありました。ある日、浜辺を通っていると、子供が大勢集まって、何か騒いでいました。見ると、かめを一匹捕まえて転がしたり、叩いたりして、いじめているのです。浦島が「そんなかわいそうなことをするものではないよ。」と言いましたが、子供らは、「何かまうものか、僕たちが捕まえたのだもの。」と言ってなかなか聞きません。「そんならおじさんにそのかめを売っておくれ。」と言って、かめを買い取りました。浦島はかめの背中を撫でながら、「もう二度と捕まるなよ。」と言って、海へ放してやりました。
それから二、三日後のことでした。浦島が船に乗っていつものとおり釣りをしていると、大きなかめが船のそばへ泳いで来て、ひょっこりとお辞儀をしました。そうして、「この間はありがとうございました。私はあの時助けていただいたかめです。今日はお礼に竜宮へお連れしましょう。さあ、私の背中へお乗りください。」と言って、背中に乗せました。
間もなく竜宮に着きました。鯛や平目などが迎えに出て来て、奥のりっぱな御殿へ通しました。美しい玉や貝で飾ったその御殿は、目も眩しいほどきれいです。そこへ、乙姫さまが出ていらっしゃいました。そうして、「この間はかめを助けてくださってありがとうございました。どうぞゆっくり遊んでいってください。」と言って、いろいろご馳走をしてくださいました。鯛や平目などが面白い踊りを踊りました。
浦島は、あまりおもしろいので、家へ帰るのも忘れて、毎日毎日楽しく暮らしていました。しかし、そのうちに、お父さんやお母さんのことを考えると、家へ帰りたくなりました。そこで、ある日乙姫さまに、「どうも長くお世話になりました。あまり長くなりますから、これでおいとまをいたします。」と言いました。
乙姫さまはしきりに止めましたが、浦島がどうしても聞きませんので、「それでは、この箱をあげます。しかしどんなことがあっても、ふたを開けてはいけません。」と言って、きれいな箱をお渡しになりました。
浦島は箱を抱え、かめに乗って海の上へ出ました。
もとの浜辺へ帰って来ますと、驚きました。村の様子はすっかり変わっています。住んでいた家もなく、お父さんもお母さんも死んでしまって、知った人は一人もおりません。
こんな時に、箱を開けたら、どうかなるかもしれないと思って、乙姫さまの言ったことも忘れて、そのふたを開けました。すると、中から白い煙がすうと立ちのぼり、浦島は髪もひげも一度に真っ白になって、お爺さんになってしまいました。
ファンクション用語
会を終える
司会:今日はいろいろ積極的に発言していただいて、いい討論会ができたと思います。まだまだ話し合いを続けたいのですが、予定の時間がきましたので、この辺で終わりたいと思います。どうもありがとうございました。
単語
イソップ(専)② 伊索
物語(ものがたり)(名)③ 故事
狐(きつね)(名)〇 狐狸
井戸(いど)(名)① 井
落ちる(おちる)(自一)② 掉下,坠落
どうしても(副)①④ 怎么也
渇く(かわく)(自五)② 渴
山羊(やぎ)(名)① 山羊
見つける(みつける)(他一)〇 找到
褒め立てる(ほめたてる)(他一)④〇 大加赞赏
おさまる(収まる 納まる)(自五)③ 平息,解决
思い付く(おもいつく)(自他五)④〇 想到
前足(まえあし)(名)② 前足,前肢
突っ張る(つっぱる)(他五)③ 支撑
角(つの)(名)② 角,犄角
やる(他五)〇 放在(某处)
背中(せなか)(名)〇 背,脊背
引き上げる(ひきあげる)(他一)④ 拉上来
飛び上がる(とびあがる)(自五)④ 飞起,跳起
踏み台(ふみだい)(名)〇 垫脚石
文句(もんく)(名)① 不满,异议
振り返る(ふりかえる)(自五)③ 回过头去
知恵(ちえ)(名)② 智慧
感じる(かんじる)(自他サ)〇 感到
大谷(おおたに)(専)〇 (姓)
山田(やまだ)(専)〇 (姓)
我慢(がまん)(名 他サ)① 忍受
木村(きむら)(専)〇 (姓)
台(だい)(名)① 台
西山(にしやま)(専)〇 (姓)
性質(せいしつ)(名)〇 性情;性质
浅い(あさい)(形)〇 浅,淡
素直(すなお)(形動)① 纯朴,天真
信じる(しんじる)(他一)③ 相信,信赖
長島(ながしま)(専)〇 (姓)
大嫌い(だいきらい)(形動)① 极不喜欢
狡い(ずるい)(形)② 狡猾
浦島太郎(うらしまたろう)(専)⑤ (人名)
浜辺(はまべ)(名)③ 海边
騒ぐ(さわぐ)(自五)② 吵闹,喧哗
亀(かめ)(名)① 龟
匹(ひき)(接尾) 匹,只,条
捕まえる(つかまえる)(他一)〇 抓住,捉拿
転がす(ころがす)(他五)〇 搬倒,滚动
叩く(たたく)(他五)② 敲,打
可哀相(かわいそう)(形動)④ 可怜
そんなら(接)③ 那么
買い取る(かいとる)(他五)③ 买下来
撫でる(なでる)(他一)② 抚摸
放す(はなす)(他五)② 放开,放掉
釣(つり)(名)〇 钓鱼
ひょっこりと(副)③ 突然出现貌
お辞儀(おじぎ)(名 自サ)〇 行礼
竜宮(りゅうぐう)(名)③ 龙宫
鯛(たい)(名)① 加级鱼,鲷鱼
平目(ひらめ)(名)〇 比目鱼
御殿(ごてん)(名)① 宫殿
通す(とおす)(他五)① 通过,通达
玉(ぎょく)(名)〇 玉
貝(かい)(名)① 贝
眩しい(まぶしい)(形)③ 耀眼,晃眼
乙姫(おとひめ)(名)② 龙宫仙女
暇(いとま)(名)③〇 告辞
頻りに(しきりに)(副)〇 频频,再三
箱(はこ)(名)〇 箱子,盒子
抱える(かかえる)(他一)〇 抱,夹
村(むら)(名)② 村庄
どうかなる(組) 总会有办法
煙(けむり)(名)〇 烟
すうと(副)〇 轻轻地(「すっと」に同じ)
髪(かみ)(名)② 头发
真っ白(まっしろ)(名 形動)③ 雪白
(感谢 xzbaszy 输入课文和单词)
一、どうしても…ない(本文)
どうしても上がれなくて、困っていた。
表示怎么也不……。
夢の中で、一生懸命逃げようとしたが、どうしても足が動かなかった。
梦中,拼命想逃,可是脚怎么也动不了。
私はどうしてもあの人の意見に賛成できない。
我怎么样都不能赞成那个人的意见。
二、そこへ(本文)
きつねが井戸に落ちたが、どうしても上がれなくて、困っていた。そこへ、のどが渇いて困っているやぎがやってきた。
用来表示时间,相当于“这时”。
電車をおりたら雨が降っていた。そこへちょうどタクシーが来たので、ぬれなかった。
下车时正在下雨。这时正好开来一辆出租车,所以没被淋。
子供たちが部屋で大騒ぎをしていた。そこへお母さんが帰ってきた。
孩子们在房间里大声吵闹。这时,妈妈回来了。
三、…ばかりに(本文)
やぎは、水が飲みたいばかりに、うっかりおりて行った。
由于某种原因,做了不尽人意的事。只因某种原因,引起不尽人意的结果。
医者であるばかりに、日曜日も働かなければならない。
就是因为是医生,星期天也必须要工作。
朝寝坊して、バスに一台乗り遅れたばかりに、授業に遅れてしまった。
只因睡懒觉,乘晚了一班公共汽车,上课迟到了。
四、ほど(会話)
やぎはその時、がまんできないほど渇いたのだと思う。
表示程度。用来表示程度的例子往往带有夸张的语气。
目もまぶしいほどきれいだ。
眼睛耀眼的美。
山本さんは会った人がだれでも驚くほど青い顔をしていた。
山本发青的脸,任谁见了都很吃惊。
五、だって(会話)
そういうときにはだれだって、井戸の中にはいって行くと思う。
用于口语,意思和「でも」相同。
これはだれだってできる簡単なことだ。
这个是谁都会做的简单的事。
あなたのことはだれだって知らなかった。
你的事谁都不知道。
六、そんなに…ない(会話)
そんなに考えが足りないのではないと思う。
表示不怎么……,不那么……
そのころ、日本語を勉強している人はそんなに多くはなかった。
那个时候,学日语的人并不怎么多。
おなかはそんなにすいていないが、のどがずいぶん渇いている。
肚子并不怎么饿,嗓子倒是很干。
七、ものだ(応用文)
そんなかわいそうなことをするものではないよ。
作为形式体言,表示理应如此。「ものではない」含有说理、劝说的语气。
年を取ると目が悪くなるものだ。
上了年纪眼睛自然就不好了。
楽しい思い出はなかなか忘れないものだ。
快乐的回忆是难以忘记的。
八、~もの(応用文)
何かまうものか、僕たちが掴まえたのだもの。
用于妇女、儿童口语。表示理由辩解。
それぐらいのことは知っています。でも、新聞で見ましたもの。
那些事我知道。我在报纸上看到的呀。
「遅いねえ。」「でも、バスが来なかったのだもの。」
“来晚了呀。”“可是,车子不来阿。”
九、二度と…ない(応用文)
もう二度とつかまるなよ。
表示再也不……。
二度とあなたの顔なんか見たくないわ。
再也不想看到你。
広島と長崎の悲劇を二度と繰り返してはいけない。
再也不能重演广岛和长崎的悲剧了。
十、「な」表示禁止(応用文)
もう二度とつかまるなよ。
「…な」相当于「…してはいけない」。口语中使用「なよ」,语气相对较弱,相当于「…しないほうがいい」。
私が見てもよいと言うまで、決して見るな。
我说可以看之前,绝对不要看。
一度失敗しても、がっかりするなよ。
即使失败了一次,也不能灰心啊。