イギリス帝国陸軍大尉リチャード・ヘイスティングズによるまえがき
この、わたしの物語では、わたし自身が現場にいた出来事や場面だけを語るという、いつもの、わたしのやり方から離れてみた。だから、いくつかの章は、三人称で書かれている。
それらの各章で述べている出来事は、わたしの確証できるものだということを、この物語の読者に申しあげておきたい。いろいろな人物たちの考えや感情を述べるさいに、いくぶん、わたしが詩人の特権を用いたとしても、それは、かなりな正確さをうしなわずに書きとめていると信じるからである。また、それはすべて、わたしの友人、エルキュール·ポワロの「審査」を経へ たものだということを、いいそえてもいいだろう。
おわりにあたって、この一連の奇怪な犯罪の結果として起こる、ある種の二次的な人間関係について、わたしは、多くを語りすぎたかもしれないが、それは、人間的、個人的要素というものを、無視することができないからである。エルキュール·ポワロも、かつて、ロマンスというものは、犯罪の副産物であることがある、と、ひどく芝居がかった身振りをしながら、わたしに教えてくれたことがあった。
ABCの奇怪な謎の解決についていえば、わたしの考えでは、エルキュール·ポワロは、これまで、かれが解決してきたどの事件とも全然ちがったやり方で、問題と取り組み、そのほんとうの天才を発揮したものであると、わたしにはいえるだけである。