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四 アッシャー夫人

时间: 2024-04-10    进入日语论坛
核心提示:  四 アッシャー夫人  わたしたちがアンドーバーに着くと、グレン警部が出迎えた。背の高い、金髪の男で、気持ちのいい微笑
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  四 アッシャー夫人
 
  わたしたちがアンドーバーに着くと、グレン警部が出迎えた。背の高い、金髪の男で、気持ちのいい微笑を浮かべていた。
  話を簡潔にするために、飾り気のない事件の事実だけを、手短かに大要を述べておいた方がいいだろう。
  事件は、二十二日の午前一時、ドーバー巡査によって発見された。受持ち区域の巡回中に、その店のドアにさわってみると、鍵かぎ がかかっていないことに気がついた。中へはいってみて、はじめは、誰もいないのだなと思った。けれど、懐中電燈をカウンターの方に向けてみると、老婆の丸く身をこごめた死体が、かれの目にはいった。警察の係り医が現場に到着して取り調べてみると、老婆は、おそらく、カウンターのうしろの棚たな から煙草の包みを取り出そうとしているところを、ひどく後頭部に一撃をくらったものだろうということが明らかになった。死後、九時間ないしは七時間がたっていた。
  「しかし、それよりももうすこし正確に、時間を推定することができました」と、警部は説明した。「五時三十分に、店へはいって行って、煙草を買ったという男がいるのです。それから、二番目の男は、六時五分すぎに店へはいって行ったのだが、誰も店にはいないのだなと思って、出て来たというのです。それで、凶行の時間は、五時三十分から六時五分までの間と推定することができるわけです。いままでのところ、そのアッシャーという男を、現場近くで見かけたという者は、まだ見つけ出せません。しかし、もちろん、まだこれからです。かれは、九時ごろ、『スリー?クラウンズ』という酒場で、かなり酔っぱらっていたそうです。かれを逮捕し次第、容疑者として留置するつもりです」「あまり好ましい人物じゃないんですね、警部?」と、ポワロがたずねた。
  「いやな野郎です」
  「かれは、細君といっしょに住んでいなかったんですね?」「そうです。何年か前に、二人は、別れたのです。アッシャーは、ドイツ人で、以前は、給仕をしていたこともあるのですが、酒を飲む癖がついてから、だんだん雇い手がなくなったのです。それで、しばらくの間、細君が働きに出ていました。最後の勤め先は、ミス?ローズという老婦人のところで、料理人兼家政婦をしていました。おやじには、給料からかなりの金をやってめんどうをみていたようですが、奴やっこ さんは、しょっちゅう、べろべろになるまで飲んでしまっては、細君の働いているところにやって来て、活劇を演じていたものです。そんなわけで、細君は、農場グレンジ のミス?ローズのところで働くようになったらしいのです。そこは、アンドーバーから三マイルほど離れた、静かな、火の消えたような田舎いなか なんで、奴さんも、そうたびたびは、行けなかったようです。そのうちに、ミス?
  ローズが死んで、すこしばかり遺贈を受けたものですから、それで、アッシャー夫人は、この煙草と新聞の店を――まったく、ちっぽけな店で――ほんの安煙草と、すこしばかりの新聞といった――そんなような店をはじめたわけです。まあどうやら、やって行けるという程度だったんですね。アッシャーは、しじゅうやって来ては、時には、口汚くちぎたな く罵ののし っていましたがね。かの女の方は、わずかの金をやっては追っ払っていましたっけ。週に十五シリングを、きまってやっていたようです」「子供はなかったの?」と、ポワロがたずねた。
  「子供はないが、姪めい が一人あります。オーバートンの近くで働いています。なかなか立派な、しっかりした娘です」
  「それで、そのアッシャーという男は、しじゅう、その細君をおどしていたというんですね?」
  「そうです。酔ってる時は、手に負えない奴で――かの女の頭をぶんなぐってやるなどと、悪態の限りをつくんです。ひどい目にあったものです、アッシャー夫人は」「その女は、いくつだったんです?」
  「もうすぐ六十で――立派な、働き者でした」ポワロは、重々しい口振りで、いった。
  「それで、警部、そのアッシャーという男が、その殺人を犯したという、あなたの意見なんですね?」
  警部は、用心深く、咳をした。
  「そういってしまうには、すこうし早いでしょうね、ポワロさん、ですが、わたしは、昨夜、どういうふうにしてすごしたか、フランツ?アッシャー自身の説明を聞いてみたいと思うのです。満足のいく、十分、立派な申し開きができればですが――もしできなければ――」
  かれは、そこで口をきったが、それは、なかなか意味深長な区切りようだった。
  「店からは、なにもなくなっていないのですね?」「なんにもなくなっていません。金は、ちゃんと手をつけずに、帳場の引出しの中にあります。物をとったという形跡もありません」
  「あなたは、そのアッシャーという男が酔っぱらって店へ来て、はじめは細君を罵ったあげく、殴なぐ り殺したと思うというんですね?」「一番妥当な解釈でしょうね。ですが、実をいうと、ポワロさん、わたしは、あなたがお受けとりになった、例のひどく妙な手紙というのを、ぜひもう一度拝見したいと思うんです。
  そのアッシャーという男が出したものなのかどうか」ポワロが手紙を渡すと、警部は、眉まゆ を寄せて、それを読んだ。
  「これは、アッシャーの手らしくはありませんですね」と、やがて、かれはいった。「『わが』イギリスの警察などという言葉を、アッシャーは使わないだろうと思うのですがね――よほど特別に抜け目なくやろうとすれば別ですが――それに、奴には、それほど頭がないだろうと思うのです。それからまた、あの男は、残骸ざんがい で――すっかりだめな男ですからね。手も、ひどく顫ふる えていて、こんなにはっきりした書体では書けないでしょう。便箋もインクも、上質のものですしね。それにしても、手紙に、今月の二十一日といっているのは、妙ですね。もちろん、偶然の一致ということもあるでしょうがね」「そういうこともありうることですね――そう」「しかし、わたしは、こういう偶然の一致は気に入りませんね、ポワロさん。あんまりぴったりしすぎますからね」
  かれは、一分か二分ほど、黙っていた――額の皺が深くなった。
  「ABCとね。いったい、ABCとは、どんな奴でしょう? メアリー?ドローワー(姪ですがね)――なら、なんか役に立つことをいってくれるかもしれませんね。片手間仕事ですから。しかし、この手紙さえなければ、間違いなく、わたしは、フランツ?アッシャーにかけますがね」
  「アッシャー夫人の経歴は、わかっているんですか?」「ハンプシャー生まれの女でしてね。娘のころは、ロンドンに出て勤めていました――だから、そこでアッシャーにあって、結婚したんですがね。戦争中は、いろいろ、きっと困難な目にもあったでしょう。かれと実際に別れたのは、一九二二年でしてね。そのころは、ロンドンにいたのでした。そして、かれからのがれるために、ここへ帰って来たのですが、かれは、すぐにかぎつけて、ここへ、かの女を追っかけて来て、金をせびっていたというわけで――」その時、一人の巡査がはいって来たのを見て、「うん、ブリッグ、なんだ?」「アッシャーを連行しました」
  「よし。ここへ連れて来い。どこにいたのだ、奴は?」「引込線の貨車の中にかくれていました」
  「ほう、そんなところにいたのか? 連れて来たまえ」フランツ?アッシャーというのは、まったくみすぼらしい、感じの悪い代物だった。かれは、おいおい泣いているかと思うと、ぺこぺこしてみたり、かと思うと、威張ってどなり散らすというありさまだった。そのただれた目を、きょろきょろと、顔から顔へと動かしていた。
  「おれをどうしようてんだ? おれは、なんにもしやしねえ。ひでえじゃねえか、おれをこんなところへ連れて来て、けしからんじゃねえか! お前たちは豚だ――どうしようってんだ?」急に、その態度を変えて、「いや、ちがうんですよ、おれは、そんなつもりじゃねえんで――この哀れな年よりを痛めつけるようなことはしねえでしょう――ひどくなんかしねえでしょう。誰もかれも、このかわいそうなフランツじじいに、つらくあたるんでさ。かわいそうなフランツじじいに」
  アッシャー氏は、しくしく泣き出した。
  「もうたくさんだ、アッシャー」と、警部はいった。「しっかりしろ。べつに、なんの罪を犯したといって、お前を責めてやしない――いまのところは。それに、いやなら、なんにもいわなくてもいいんだよ。そういっても、もし、お前が細君の殺しに関係がないのなら――」
  アッシャーは、警部の言葉をさえぎった――その声は、悲鳴のように高くなった。
  「おれは、あれを殺しやしねえ! おれは、殺しやしねえ! みんな、でたらめだ! お前たちは、べらぼうなイギリス野郎だ――みんな、おれをやっつけようとしやがるんだ。おれは、けっして、あいつを殺しやしねえ――けっして」「お前は、しょっちゅう脅おど かしていたじゃないか、アッシャー」「いや、ちがう。お前さんたちには、わかりゃしねえ。ありゃ、ただの冗談だ――おれとアリスの仲だけの楽しい冗談なんだ。あいつは、ようくわかってたんだ」「おかしな冗談だな! それじゃ、お前は、ゆうべ、どこにいたかいえるかい、アッシャー?」
  「ああ、いえるとも――なんでもかんでも、いうよ。おれは、アリスのとこのそばへなんか行かなかったよ。いっしょにいたんだ、仲間たちと――いい仲間たちとよ。おれたちは、『セブン?スター』にいて――それから、『レッド?ドッグ』にいて――」かれは、早口でしゃべりつづけたので、言葉がもつれた。
  「ディック?ウイローズ――あいつも、いっしょにいたし――カーディじいさんも――ジョージも――それから、プラットも、ほかの奴らもうんといたんだ。おら、はっきりいうけど、アリスのそばへなんか、けっして行きゃしねえ。ああ、神さま、おれは、ほんとうのことをいってるんだ」
  かれの声は、悲鳴に似た金切り声になった。警部は、部下にうなずいて、「こいつを連れて行け。容疑者として留置しておけ」「どう考えたらいいのかわかりませんな」と、身をふるわしながら、悪意をまる出しにして、口汚くわめきちらす、このいやな老人が連れて行かれると、警部はいった。「手紙さえなければ、奴がやったというところですがね」「奴がいう男たちは、どうですか?」
  「悪い仲間ですよ――奴らのうちの一人だって、偽証なんかへとも思ってやしません。おそらく、昨夜、大部分は、奴は連中といっしょにいたでしょう。問題は、五時半から六時までの間に、誰か、店の近くで、あの男を見かけた人間がいるかいないかにかかっているわけです」
  ポワロは、考え深そうに、頭を振った。
  「店からなんにも盗と られてないというのは、確かですね?」警部は、肩をすぼめて、「物によりますよ。煙草の一包みや二包みは盗られてるかもしれません――が、そんなことのために、誰も、人殺しをしないでしょうからね」「それで、なんにも――なんといったらいいか――店に持ちこんだ物もなかったんですね。
  その場にしちゃ、おかしな――不似合な物もなかったんですね?」「鉄道案内が一冊ありました」と、警部がいった。
  「鉄道案内が?」
  「そうです。開いたままで、カウンターの上に、伏せておいてありました。ちょうど、誰かがアンドーバー発の列車を調べていたとでもいったふうにね。あの婆ばあ さんか、お客さんでもが」
  「そういうものも売っていたのですか?」
  警部は、首を左右に振って、
  「一ペニーの時間表は売っていましたが。それは、大判ので――スミスの店か、大きな文房具屋だけでおいているような種類のです」
  さっと、ポワロの目に光りがさした。かれは、ぐっと身を乗り出して、「鉄道案内といいましたね。ブラッドショーのですか――それとも、ABCのですか?」警部の目にも、さっと、光りが浮かんだ。
  「まったく、そうです」と、かれはいった。「ABCのでしたよ」
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