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十 バーナードの家族_ABC殺人事件(ABC谋杀案)_阿加莎·克里斯蒂作品集_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:  十 バーナードの家族  エリザベス?バーナードの両親は、小さなバンガローに住んでいた。町のはずれに、投機的な建築会社
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  十 バーナードの家族
  エリザベス?バーナードの両親は、小さなバンガローに住んでいた。町のはずれに、投機的な建築会社が、最近、五十戸かそこら建てた建物の一つだ。会社の名は、ランダドノーというのだった。
  バーナード氏は、五十五ぐらいの、がっしりした体からだ つきの、うろたえたような顔つきの男だったが、わたしたちが近づいて行くのに気がついていたとみえて、戸口に立って待っていた。
  「どうぞ、おはいりください、みなさん」と、かれはいった。
  ケルセイ警部が、まず口をきった。
  「こちらが、ロンドン警視庁スコットランド?ヤード のクローム警部です」と、かれはいった。「こんどの事件で、わたしたちの応援においでになったのです」「スコットランド?ヤードで?」と、たのもしそうに、バーナード氏がいった。「それは、ありがたい。この人殺しの悪漢は、ぜひともつかまえていただかなければなりません。かわいそうな、わたしの娘――」かれの顔は、急にこみあげてきた悲しみで、ゆがんでしまった。
  「それから、こちらは、エルキュール?ポワロさんで、やはり、ロンドンからおいでになったので、それから、ええと――」
  「ヘイスティングズ大尉です」と、ポワロがいった。
  「よくいらっしゃいました、みなさん」と、バーナード氏は、機械的にいった。「さあ、どうぞ中へおはいりください。かわいそうな家内がお会いできますかどうかと思いますが。
  すっかり弱りきっておりますので、家内は」
  とはいっても、わたしたちがバンガローの居間に落ちつくと、バーナード夫人が姿をあらわした。確かに、いままで、ひどく泣いていたらしく、目はまっ赤で、大きなショックを受けた人に見かけるような、よろよろした足取りで歩みよって来た。
  「ああ、お母さん、そりゃ、よかった」と、バーナード氏はいった。「もう、大丈夫なんだね――え?」
  かれは、かの女の肩を軽くたたいて、椅子にかけさせた。
  「警視さんには、大変ご親切にしていただきました」と、バーナード氏はいった。「わたくしどもに、あの知らせをお知らせくださった後で、最初のショックがすぎるまで、なんにも聞かずにおくとおっしゃってくだすって」
  「あんまりみじめすぎて。ああ、ほんとに、むごすぎますわ」と、いまにも涙があふれそうに、バーナード夫人は、泣き声でいった。「こんなむごい話って、これまで聞いたこともありませんわ」
  かの女の声には、かすかに、単調に歌をうたうような抑揚があったので、ほんのしばらくの間、わたしは、外国人かなと思っていたのだが、ふっと、表札の名前を思い出すのといっしょに、かの女の話の中に、「ありましぇん」という発音を聞いて、間違いなくウェールズ生まれの人だということに気がついた。
  「まったくご傷心のことでしょう、奥さん」と、クローム警部はいった。「心からご同情申しあげますが、できるだけ速すみや かに仕事にかかれるように、すべての事実を知らなくてはなりませんのです」
  「ごもっともです、まったく」と、バーナード氏はいって、そのとおりといわんばかりにうなずいた。
  「お嬢さんは、二十三でしたね。ここに、ごいっしょに住んでいて、カフェ『ジンジャー?
  キャット』に勤めておいでになった、というわけですね?」「そうです」
  「ここは、最近おいでになったばかりでしたね? 以前は、どちらにお住まいでした?」「ケニントンで、金物屋をやっておりましたが、二年前に店をしめて引っこみました。いつも、海の近くに住みたいと思っておりましたので」「お嬢さんは、お二人でしたね?」
  「はい、姉娘は、ロンドン市内の会社に勤めております」「ゆうべ、お嬢さんが帰って来ないので、心配なさいませんでしたか?」「わたくしたち二人とも、あの子が帰らなかったのを知らなかったのでございます」と、涙をいっぱいためて、バーナード夫人がいった。「父さんも、わたくしも、いつも早く休んでしまいますんです。九時になると、休むんです。わたくしたち、ベッティが家へ帰らなかったなんて、ちっとも知らなかったんでございます。すると、警察の方がお見えになりまして、そして――そして――」
  かの女は、泣きくずれてしまった。
  「お嬢さんは、いつも――ええと――遅く家へお帰りでしたか?」「当節の娘のことは、よくご存じでございましょう、警部さん」と、バーナードはいった。
  「自由、自由ですからね、みんな。ことに、こういう夏の夜なんかには、急いでなんか家へ帰るものではございません。やっぱりベッティなども、十一時にならなければ帰らないのが常でございました」
  「どういうふうにして、家へはいっておいでになっていました? ドアをあけておいたのですか?」
  「マットの下に、鍵かぎ を入れておきます――いつも、そうしておきましたので」「お嬢さんが婚約をしていたという噂うわさ があるように、聞いていますが?」「当節では、そういう形式張ったことはしなくなりましたものですから」とバーナード氏はいった。
  「ドナルド?フレイザーというのが、その人の名前でして、わたくしは、あの人が気に入っていました。もう非常に、気に入っていました」と、バーナード夫人はいった。「かわいそうな人。あの人にとっても、大変なことでしょう――この知らせは。もう聞いたでしょうかしら?」
  「コート?アンド?ブランスキルに勤めているということでしたね?」「ええ、不動産の周旋会社ですの」
  「かれはお嬢さんとは、お嬢さんの勤めがおわってから、いつも夜、会うことになっていたのですか?」
  「毎晩というわけではないのです。一週に、一回か二回というところでしょう」「ゆうべは、お嬢さんがかれと会うことになっていたかどうか、ご存じでしょうか?」「あの子は、なんともいいませんでした。なにをするつもりだとか、どこへ行くつもりだとかってことは、ベッティは、けっしていいませんでした。でも、いい娘でした、ベッティは。ああ、ほんとに信じられない――」
  バーナード夫人は、またしくしくと泣き出した。
  「元気を出しなさい、しっかりするんだよ、お母さん」と、かの女の夫ははげました。「どうしても、見きわめなくちゃならないんだから、この事件の真相というものは……」「間違いありませんとも、ドナルドがそんな――そんな――」と、バーナード夫人は泣きじゃくった。
  「もうちょっとだから、しっかりおし」と、バーナード氏は繰り返していった。
  かれは、二人の警部の方を向いて、
  「なんとかしてお力ぞえができるといいんですが――でも、率直なところ、わたしは、なんにも――こんなことをした卑劣漢のことで、あなた方のお役に立つようなことを、なんにも知らないのです。ベッティは、ほんとに陽気な、しあわせな娘で――立派な青年といっしょに、あの子は――そう、わたしどもの若いころには、散歩に行くといったものでしたが。どんな奴がなんのために、あの子を殺すなんてことをしたのか、わたしは、ただ胸がはりさけるばかりで――まるで、正気のわざとは思えません」「まあ、それが一番、真実に近いでしょうね、バーナードさん」と、クロームはいった。
  「ところで、これはぜひお願いしたいのですが――ちょっとお嬢さんの部屋を拝見したいと思うんです。なにか――手紙とか――日記などというものが、あるかもしれないと思いまして」
  「さあさあ、どうぞごらんください」と、バーナード氏は立ちあがりながら、いった。
  かれは、先に立って案内した。クロームが、その後に、それから、ポワロ、ケルセイとつづき、わたしがしんがりをうけたまわった。
  わたしがちょっと立ちどまって、靴の紐ひも をしめなおしていると、タクシーが一台、表にとまって、一人の娘が飛びおりた。かの女は、運転手に金を払うと、小さなスーツ?ケースをさげて、急ぎ足に、この家へ来る小道をやって来た。ドアをあけて中へはいったとたん、わたしを見て、かの女は、ぴたっと立ちどまった。
  かの女のその姿勢には、なにか、わたしの好奇心をそそるものがあった。
  「どなたですの?」と、かの女がいった。
  わたしは、二、三歩、その方へ歩み寄った。が、なんと返事をしていいか、まごまごしてしまった。わたしの名前をいったものだろうか? それとも、警察の連中といっしょに来ているのだといった方がいいだろうか? ところが、娘は、わたしに、どうきめる余裕も与えなかった。
  「ああ、そうなの」と、かの女は、うなずいて、「わかったわ」かの女は、かぶっていた白いウールの、小さな縁なし帽子をぬぐと、それを床ゆか の上にほうり出した。その時、かの女がちょっと向きを変えたために、光りがあたるようになったので、ずっとよく、かの女が見えるようになった。
  わたしの第一印象は、子供のころ、わたしの女きょうだいたちがよくもてあそんでいた、ァ¢ンダ人形を見ているという感じだった。髪は、まっ黒で、少年のような短かい断髪にして、額に、前髪が垂れている。頬骨が高く、全体の体つきが、妙に近代的に角張っていたが、それが、なんとなく魅力的でなくはなかった。かの女は、美貌というのではなかった――むしろ、平凡だった――が、どことなくはげしい、まったく、かの女を無視することなどできないような人物にしている強烈なものがあった。
  「ミス?バーナードですね?」と、わたしはたずねた。
  「あたし、ミーガン?バーナードです。警察の方でしょう?」「ええ、まあ」と、わたしは、「そのとおりですともいえないのですが――」かの女は、わたしのいうことをさえぎって、
  「あたし、なにも、あなたに申しあげることはないと思うんですの。あたしの妹は、快活な、いい娘で、男の友だちなんかいませんでしたしね。ごめんなさい」かの女は、そういってしまうと、ちょっと声をたてて笑ってから、いどむように、わたしを見つめた。
  「こういういい方がいいんでしょう?」と、かの女はいった。
  「わたしは、新聞記者じゃありませんよ、そう思っていらっしゃるらしいけど」「じゃあ、あなたはなんなの?」かの女は、あたりを見まわして、「母さんや父さんは、どこなの?」
  「お父さんは、警察の人たちを案内して、妹さんの寝室にいます。お母さんもそこにおいでです。とても気が転倒しておいでで」
  かの女は、決心したように、
  「こちらへいらしてちょうだい」といった。
  かの女は、ドアをあけて、通りぬけた。後につづいて行くと、そこは、狭いが、小ぎれいな台所だった。
  わたしは、うしろのドアをしめようとした――が、思いがけない手ごたえがあった。つぎの瞬間、ポワロがそっと部屋の中へすべりこんで来て、後のドアをしめた。
  「マドモアゼル?バーナードですね?」と、かれはいいながら、急いで会釈えしゃく をした。
  「こちらは、エルキュール?ポワロさんです」と、わたしはいった。
  ミーガン?バーナードは、素早く、人を品定めするような目を、ちらっと、かれに向けた。
  「お噂は、うかがっていましたわ」と、かの女はいった。「流行はや りっ子の私立探偵でいらっしゃいましょう?」
  「あまり気のきいたいい方じゃありません――が、それで、結構です」と、ポワロはいった。
  娘は、台所のテーブルのはしに、腰をおろした。手提てさ げをさぐって煙草を取り出すと、唇にはさんで火をつけた。それから、二息ほど煙を吐き出しながら、いった。
  「でもね、なんだって、エルキュール?ポワロさんのような方が、わたしたちのような、こんな取るに足らない犯罪に動いていらっしゃるのか、あたしにはわかりませんわ」「マドモアゼル」と、ポワロがいった。「あなたのおわかりにならないことや、わたしのわからないことで、おそらく、一冊の本になるでしょう。ですが、そういうことは、実際には重要なことじゃありません。実際に重要なことは、そうやすやすとは発見できない、なにかなんです」
  「それは、なんですの?」
  「死というものは、マドモアゼル、不幸なことに、偏見をつくりあげるものなのです。死んでしまった人のためになるようにという偏見です。わたしは、ついいましがた、あなたが、わたしの友人のヘイスティングズにおっしゃっているのを聞きました。『快活な、いい娘で、男の友だちなんかいませんでした』とね。あなたは、新聞というものを冷笑して、そうおっしゃったでしょう。そして、それは、確かにほんとうのことです――若い娘が死ぬと、いわれるのは、こういうたちのことです。かの女は快活だった。かの女は幸福だった。やさしい性質だった。この世に、気苦労ひとつなかった。気が進まないような知り合いなんか一人もなかった。そこにはいつも、死者に対する偉大な慈善事業があります。いまこの瞬間に、わたしがなにを望んでいるか、おわかりですか? わたしは、エリザベス?バーナードを知っていて、しかし、かの女が死んだことを知らないでいる人を見つけたいのです! そうすれば、おそらく、わたしの役に立つことが聞き出せると思うのです――つまり、真実をです」
  ミーガン?バーナードは、しばらくの間、ものもいわずに、かれを見つめて、煙草を吹かしていた。それから、とうとう、口をきったが、その言葉は、わたしをぎくりとさせた。
  「ベッティときたら」と、かの女はいった。「まったく手のつけられないばかでしたわ!」
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