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赤毛連盟(5)_シャーロック・ホームズの冒険(冒险史)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:「そうだと思った。スポールディングの耳にはイヤリング用の穴があいてませんか?」「ええ、あいてますよ。若いころ、ロマにやっ
(单词翻译:双击或拖选)

「そうだと思った。スポールディングの耳にはイヤリング用の穴があいてませんか?」

「ええ、あいてますよ。若いころ、ロマにやってもらったんだといってました」

「ふん!」ホームズはうなって、また考え込んだ。「まだお宅にいるんですね?」

「ええ、いますとも。さっき店に残してきたところです」

「で、お店のほうはあなたの留守中、うまくまわってたんですか?」

「なにも問題なかったですよ。どっちにしても朝のうちはたいしてやることがないし」

「質問はこれだけです、ウィルスンさん。この問題に関しては、一両日中にご説明できる

と思います。今日は土曜日ですから、月曜には結論が出ているでしょう」

「どうだい、ワトスン」客が帰ったあと、ホームズがいった。「この事件についてどう思

う?」

「さっぱりわからないね」ぼくは正直に答えた。「すごく不可解な事件だ」

「一般的にいって、不可解であればあるほど、じっさいはわかりやすい事件であることが

多い。平凡で特徴のない犯罪ほど、ほんとうはやっかいなんだ。平凡な顔が見分けにくい

のと同じだよ。しかしこの事件は速攻で処理しないといけないな」

「じゃあ、どうするんだい?」

「まずタバコだ。こいつはたっぷりパイプ三服分はかかる問題だな。五十分くらいは話し

かけないように頼むよ」ホームズは椅子の上で背中を丸め、細いひざをわし鼻にくっつく

くらい持ちあげると、そのまま目を閉じた。愛用の黒い陶製のパイプが、奇妙な鳥のくち

ばしのように突き出ている。ぼくはホームズが寝てしまったのだと思い、自分もうとうと

してきた。そのとき、急にホームズが椅子から飛び上がった。どうやらなにかわかったら

しい。パイプをマントルピースの上に置いた。

「今日の午後、セント・ジェイムズ・ホールで、サラサーテ( 注・スペインのヴァイオリン奏者。一

八四四~一九〇八 )が演奏するよ。どうだい、ワトスン、診察の合間に二、三時間都合がつく

かい?」

「今日はなんの予定もないよ。ぼくの仕事はいつだって、たいして忙しくないからね」

「じゃあ、帽子をかぶって、さあ、いこう。先にシティを通っていきたいんだ。途中でラ

ンチでも食べよう。プログラムではドイツの曲が多いようだった。ぼくはイタリアやフラ

ンスの曲よりドイツの曲のほうが好みなんだ。ドイツの曲は内省的だ。そしてぼくはい

ま、内省したい。さあ、いこう!」

 ぼくたちは地下鉄でオールダーズゲイトまでいき、そこから少し歩いてサクス・コウ

バーグ・スクエアにきた。今朝きいた奇妙な話の舞台だ。そこは、狭くてみすぼらしく、

落ちぶれながらもなんとか体面を保とうとしているような場所だった。薄汚れたレンガ造

りの二階建ての家々が、柵さくで囲まれた小さな空き地を四方から囲むようにして立って

いる。空き地には、雑草のような芝生と色あせた月桂樹の茂みがところどころにあって、

煙で汚れた生存には不向きな空気と苦しい戦いを繰り広げている。質屋の目印の三つの金

の玉と、茶色の看板に白い文字で『ジェイブズ・ウィルスン』と書かれた看板が、角の家

にかかっていた。ここがあの赤毛の依頼人が商売を営んでいる場所だ。シャーロック・

ホームズはその前で足をとめ、首をかしげてあたりをながめている。目は細めているが、

その奥の瞳ひとみはきらきら輝いていた。それからゆっくり通りに入っていったかと思う

と、また角までもどってきたりして、家々をじっくり見ている。最後に質屋のところまで

もどってくると、ステッキで敷石を二、三回、力いっぱいたたいた。それから扉に近づい

てノックをした。扉はすぐにあいて、頭の切れそうな、きれいにひげをそった青年が現

れ、どうぞお入りください、といった。

「ありがとう。しかし、ちょっと道をたずねたかっただけなんです。ここからストランド

へいくには、どういったらいいですか?」ホームズがいった。

「三つ目の角を右へ、四つ目の角を左へ曲がればいいんですよ」店員はすぐさまそう答え

て扉を閉めた。

「頭のいいやつだ」ホームズは質屋から離れながらいった。「ぼくの見立てでは、ロンド

ンでも四番目に頭がいい。大胆さの点では三本の指に入るかな。ぼくは以前からあいつの

ことを少しばかり知っているんだ」

「どうやらあの店員が、赤毛連盟の謎と深く関わっているようだね。きみはあの店員を見

るために道をたずねたんだろう?」

「あの男を見るためじゃない」

「ではなんのために?」

「やつのズボンのひざを見るためだよ」

「ひざになにがあるんだい?」

「ぼくが予想していたものさ」

「歩道をたたいていたのはどうして?」

「ワトスン先生、いまは観察をするときだ。おしゃべりをしてる暇はない。ぼくたちは敵

地のただなかにいるスパイだよ。サクス・コウバーグ・スクエアのことはだいたいわかっ

た。こんどはその裏にある通りを偵察しよう」

 ひっそりしたサクス・コウバーグ・スクエアが絵の裏なら、こっちが表だ。そこはシ

ティの交通を北と西にいざなう幹線道路のひとつだった。仕事で行き来する乗り物が、出

ていく方向と入っていく方向、二筋の流れとなって車道をふさぎ、歩道は急ぎ足で歩く人

の群れでごったがえしている。美しい商店や堂々たるビルが軒をつらねるこの通りが、

さっき通ったあの色あせた不景気な一画と隣接しているとはとても信じられない。

「どれどれ」ホームズは角に立って通りをながめた。「ここの建物の並び順を覚えておき

たいんだ。ロンドンの正確な知識を手に入れるのがぼくの趣味でね。まず、モーティマー

商店、タバコ屋だな、それに小さな新聞販売店、それからシティ・アンド・サバーバン銀

行のコウバーグ支店、そしてベジタリアン・レストラン、マックファーレン馬車製作所の

倉庫か。この区画はこれで終わりだな。ではワトスン、もう仕事はすんだから、これから

はお楽しみの時間だよ。サンドイッチとコーヒーのランチでも食べて、ヴァイオリンの国

へ出発だ。そこはなにもかもが甘美で、優雅で調和に満ちた世界なんだ。難しい問題でぼ

くらを悩ます赤毛の依頼人などいない世界だよ」

 ホームズは熱狂的な音楽愛好家で、みずから優れた演奏家であるばかりでなく、作曲も

人並み以上にこなす。その日の午後はずっと、一階正面席に陣取って、長く細い指を音楽

に合わせてゆるやかに振りながら、このうえない幸福にひたっていた。そのおだやかなほ

ほえみと、ぼんやりした物憂げな瞳は、どう見ても探偵ホームズに似つかわしくなかっ

た。探偵としてのホームズは情け容赦がなく、頭が切れて、俊敏な犯罪捜査官だ。ホーム

ズというひとつの人格のなかに、ふたつの性質が交互に出現するのだ。ぼくはつねづね感

じるのだが、彼の極端に厳密かつ鋭敏な一面は、ときおり彼の人格を支配する詩人のよう

な瞑めい想そう的な一面の反動にちがいない。このような性質の揺れによって、ホームズ

はきわめて無気力な状態から、エネルギーのあふれる活性状態へ変化する。ぼくにはすっ

かりおなじみの事実だが、ホームズがもっとも手ごわい男になるのは、何日も肘ひじ掛か

け椅い子すでゆったりくつろいで、即興曲をつくったり、ゴシック体で書かれた古書に読

みふけったりして過ごしたあとなのだ。そういうとき、謎の追跡への欲求がふいに湧き起

こって、あのすばらしい推理力が直観レベルにまで高まる。だから、ホームズの推理法を

よく知らない人は、彼のことを、ふつうの人間では考えられないような知識を持つあやし

い男とみなしてしまうのだ。あの日の午後、セント・ジェイムズ・ホールで音楽に没頭す

るホームズを見て、ぼくは彼が狙いを定めている者たちに、不吉なときが近づいているの

を感じた。

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