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独身の貴族(7)_シャーロック・ホームズの冒険(冒险史)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示: それでも、セント・サイモン卿と結婚するからには、もちろん、妻としての義務は果たすつもりでした。心はどうしようもありませ
(单词翻译:双击或拖选)

 それでも、セント・サイモン卿と結婚するからには、もちろん、妻としての義務は果た

すつもりでした。心はどうしようもありませんが、行動は自由に操ることができます。セ

ント・サイモン卿といっしょに祭壇に向かったとき、わたしは自分の力の及ぶかぎり、よ

い妻になるつもりでした。でも、祭壇の手すりのところまできたとき、ふと見ると、フラ

ンクが最前列の席からわたしを見ていたのです。そのときのわたしの気持ちが想像できま

すでしょうか。最初は、これは幽霊だと思いましたが、もう一度よく見ても、たしかにフ

ランクはそこにいました。わたしが彼を見て喜んでいるのか、悲しんでいるのか、問いか

けるような目でこちらを見ているのです。わたしは気を失うかと思いました。まわりのも

のがぐるぐるまわって見えて、牧師さんの言葉もハチの羽音のようにしか聞こえません。

どうしていいのかわかりませんでした。式をとめて、教会で騒ぎを起こしたらいいのかし

ら、とも思いました。でも、もう一度フランクのほうを見たら、わたしが考えていること

がわかったようで、人差指を口にあてて、静かにしているようにと合図してくれたので

す。それからフランクは紙切れになにか書きつけたので、わたしへの手紙を書いているの

だとわかりました。だからわたしはフランクの前を通るときにブーケを落とし、彼はそれ

を返すときにわたしの手にメモをすべりこませました。それはたった一行だけの手紙で、

彼が合図をしたらくるようにとだけ書いてありました。もちろん、そのときにはもう、フ

ランクに対する義務が、なによりも優先されるのだと信じて疑いませんでした。だから、

フランクにいわれたことは、なんでもやるつもりでした。

 家にもどると、メイドと話をしました。そのメイドはカリフォルニアでフランクのこと

を知っていて、友だちでもあったのです。彼女に、ぜったいに秘密を守るよう頼んだうえ

で、わたしの身の回り品をまとめてオーバーを用意しておいてもらいました。セント・サ

イモン卿に事情を説明すべきだとは思ったのですが、お母様をはじめ、身分の高い方々の

前で、とてもいいだせませんでした。そこで、ただ逃げるだけにして、あとから説明しよ

うと思ったのです。席について十分もしないうちに、フランクが窓の外の道路の向こう側

に現れました。手招きをして、公園のなかに入っていきます。わたしは部屋から出て、身

支度をしてから、あとを追いました。知らない女性が近づいてきて、セント・サイモン卿

のことをなんだかんだとしゃべってきました──どうやらセント・サイモン卿も、結婚前に

ちょっとした秘密をお持ちだったようです──でもわたしはその女性からなんとか逃げ出す

と、すぐフランクに追いつきました。それから二人で辻つじ馬車に乗って、フランクが

ゴードン・スクエアで取っていた宿にいき、それこそが、わたしが長いあいだ待ち望んで

いた結婚でした。フランクはアパッチ族につかまっていたのですが、逃げ出してサンフラ

ンシスコまできたのです。でも、わたしが彼は死んだとあきらめてイギリスへ渡ったと知

り、あとを追ってきて、あの朝、わたしの二度目の結婚式の当日に、ようやくわたしに再

会したのです」

「新聞で見たのです」アメリカ人の紳士は説明した。「ハティの名前と結婚式が行われる

教会がのっていましたが、花嫁がどこに住んでいるかはわかりませんでした」

「それからわたしとフランクは、どうしたらいいか話し合いました。フランクはすべてを

あきらかにしてしまったほうがいいといいました。でも、わたしはなにもかもが恥ずかし

くて、だれにも会わずにこのまま消えてしまいたいと思いました。父さんにだけは手紙を

出して、わたしがぶじだということだけ知らせようと思いましたけど。朝食会の席でわた

しがもどってくるのを待っておられる貴族の方々のことを思うと、恐ろしくてしかたな

かったのです。それで、フランクはわたしの花嫁衣装一式を束にして、足がつかないよう

に、だれにも見つからないところに捨てたのです。そして明日あしたにはパリに発たって

しまおうと思っていたところへ、こちらのホームズさんとおっしゃる方が、今日の夕方、

わたしたちの宿へ訪ねていらしたのです。どうしてその場所がわかったのかはさっぱりわ

かりませんけど、わたしはまちがっている、フランクの考えが正しい、そんなに秘密にば

かりしていたら、自分たちが悪いと認めるようなものだ、とはっきりとご親切に言い聞か

せてくださったのです。そのうえ、ほかの方々はまじえず、セント・サイモン卿きようと

だけお話ができる機会も提供してくださいました。それでこうしてやってきたのです。あ

なたのことを傷つけてしまって、ほんとうに申しわけありません。でも、わたしのことを

あまり軽けい蔑べつしないでいただきたいのです」

 セント・サイモン卿は、けっしてかたくなな態度をゆるめることはなかったが、この長

い話を、眉み間けんにぎゅっとしわを寄せて聞き入っていた。

「申しわけないが、わたしはこのように個人的な事柄を人前で話し合うような流儀は持ち

合わせておりませんので」

「では、許してくださらないのですね? お別れする前に、握手もしていただけません

の?」

「いや、もちろん握手くらい、お望みとあらばいたしましょう」セント・サイモン卿は片

手を差し出し、女性の差し出した手をよそよそしく握った。

「いかがでしょう」ホームズが口をはさんだ。「あなたも親善のための夜食会にご参加い

ただけるかと思っておりましたが」

「それはいささか無理な注文ですな」セント・サイモン卿は答えた。「わたしとしては、

こういう結果を受け入れざるを得ないかもしれないが、それを肴さかなに陽気に騒ぐとい

うようなことはとてもできません。ではみなさん、申しわけないが、お先に失礼させてい

ただきます」全員にさっと一礼をして、セント・サイモン卿はつかつかと部屋から出て

いった。

「じゃあ、あなた方だけでも、ぜひごいっしょしていただけますか」シャーロック・ホー

ムズがいった。「ぼくはアメリカの方とお会いするのがいつも楽しみなんですよ、モール

トンさん。昔、ある王様と大臣が愚かなことをしましたが、だからといってわれわれの子

孫が、いつか世界にまたがる国家の市民になることが不可能なわけじゃないし、その国の

国旗はきっとユニオンジャックと星条旗をかけあわせたものになるだろう──ぼくはそんな

夢を信じる人間のひとりなんですよ」

「この事件がおもしろかった理由はね」客が帰ったあと、ホームズがいった。「最初は

まったく不可解に思える事件でも、どんなに簡単に説明がつくか、きわめてはっきりと示

してくれたところにあるんだよ。一連の出来事について、あの女性の話ほど自然な説明は

ない。しかし、その結果だけを、たとえばスコットランド・ヤードのレストレイド警部が

見たりすると、これ以上不思議なことはないと思ってしまうんだ」

「じゃあ、きみはぜんぜん迷わなかったのかい?」

「最初から二つのことがはっきりわかっていた。ひとつは花嫁が進んで結婚式にのぞんだ

こと。もうひとつは彼女が家にもどるまでのわずかな時間のあいだに、結婚したことを悔

やみはじめたということ。その間に彼女の心を変えるなにかが起こったのはあきらかだ。

それはいったいなにか? 家の外にいたときは花嫁はだれとも話していないはずだ。ずっ

と花婿といっしょにいたのだからね。もし、だれかを見かけたのだとしたら? もしそう

なら、そのだれかはアメリカからきた人物にちがいない。なぜなら花嫁はイギリスにきて

日も浅いから、ちょっと見ただけで人生の計画をすっかり変えてしまおうと思うような人

物がこの国にいるはずがない。消去法で考えれば、花嫁はアメリカ人を見かけたのだとい

う結論におのずと達するだろう。では、そのアメリカ人とはだれか? どうして彼女にそ

んな強い影響を及ぼすことができたのか? それはおそらく恋人か夫だろう。花嫁は少女

時代を荒くれた特殊な環境のもとで過ごしたという。ここまではセント・サイモン卿の話

を聞く前にわかっていたことだ。そのあと、教会の最前列にすわっていた男のことを聞

き、花嫁の態度の変化を聞いた。彼女がブーケを落としてメモを受け取るという見え透い

た方法を使ったことも、忠実なメイドに頼ったことも、『ジャンピング・ア・クレイム』

という意味深な言葉を使っていたことも聞いて、すべてははっきりした。クレイム・ジャ

ンピングというのは鉱夫の隠語で、ほかの人間が先に取得していた採掘権を横取りするこ

とを意味するんだ。だから花嫁は男といっしょに逃げていて、その男は恋人か夫だろう

が、たぶん夫の可能性が高いだろうと思った」

「それで、いったいどうやって二人の居場所がわかったんだい?」

「これは難問だったが、わが友レストレイド警部が情報を握っていたんだよ。ご本人はそ

の価値に気づいていなかったけどね。手紙のイニシャルはもちろん、きわめて重要だった

が、もっと値打ちがあったのは、そのイニシャルの人物がここ一週間以内にロンドンの高

級ホテルで勘定を支払っていた事実がそれでわかったことだ」

「どうやって高級ホテルとわかったんだい?」

「料金の高さからだよ。室料が八シリングでシェリー酒一杯が八ペンスというのは最高級

ホテルの相場だ。そんな料金を取るようなホテルは、ロンドンにもそうたくさんはない。

ノーサンバーランド通りで訪ねた二件目のホテルで、宿帳のなかにフランシス・H・モー

ルトンの名前を見つけた。アメリカ人で、前日にチェック・アウトしたらしいが、支払明

細を見せてもらうと、あの紙切れとそっくりの明細書にまったく同じ項目が出ていたん

だ。そのアメリカ人宛ての手紙は、ゴードン・スクエアの二二六番地に転送するように

なっていた。そこでその住所へいくと、幸いなことに、愛し合うカップルは在宅中だった

ので、ぼくはあえて父親じみた説教をして、自分たちの立場を世間に対して、とくにセン

ト・サイモン卿に対して、もっと明確にしなくちゃいかんと忠告してやったんだ。そして

あのとおり、二人がここでセント・サイモン卿と会えるようにお膳ぜん立だてしてやった

というわけさ」

「しかし結果はあまり芳かんばしくなかったな。セント・サイモン卿はあまり寛容ではな

かった」

「そりゃあ、ワトスン!」ホームズは笑いながらいった。「きみだって、そう寛容じゃな

くなると思うぜ。求愛、結婚と手間ひまをかけたあげくに、女房と財産をあっという間に

奪われたりしたんじゃね。ぼくたちこそ、セント・サイモン卿の人となりを評価するにあ

たって、おおいに寛容であるべきだろう。そして、ああいう立場に立たされることはまず

ない自分の運命に感謝したほうがいい。さあ、椅子を引いて、ぼくのヴァイオリンを取っ

てくれるかい。ぼくらがまだ解決しなきゃいけない問題がまだひとつある。それは、この

わびしい秋の夜長を、どうやって過ごせばいいかということだ」

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