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ぶな屋敷(7)_シャーロック・ホームズの冒険(冒险史)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示: わたしは好奇心をかきたてられました。そこで、お子さんと外を散歩をするときに、その棟の窓が見えるところへ歩いていきました
(单词翻译:双击或拖选)

 わたしは好奇心をかきたてられました。そこで、お子さんと外を散歩をするときに、そ

の棟の窓が見えるところへ歩いていきました。そこには窓が四つ並んでいます。そのうち

三つはただ汚れているだけでしたが、四つ目はよろい戸がおろされていました。あきらか

にだれも住んでいないようすです。わたしがその前をいったりきたりして、窓のほうをち

らちら見ていますと、ルーカッスルさんが外に出てきて、いつものように陽気な顔で近づ

いてこられました。

『やあ、ハンターさん、さっきは声もかけずに通りすぎて、すまんかったですな。ちょっ

と仕事のことで頭がいっぱいだったもので』

 わたしは、ちっともかまいませんといってから、こうたずねました。『ところで、そこ

に空いたお部屋がいくつかあるようですね。ひとつはよろい戸が閉まってますけど』

『ああ、わたしは写真が趣味でしてな。そこは暗室として使っておるのです。しかしハン

ターさんはお若いのに観察力が鋭いですな。とてもそんな方には見えませんでしたよ。

まったく信じられん』ルーカッスルさんは冗談めかしていわれましたが、わたしを見るそ

の目には、冗談めいたところは少しもありませんでした。疑惑、いらだちといった感情は

うかがえましたが、冗談はまったく感じられなかったのです。

 ホームズさん、あのひと続きの部屋に、なにか自分が知ってはならないものがあるとわ

かった瞬間から、わたしはどうしてもその部屋に入ってみたくなりました。それは単なる

好奇心ではありません。もちろん、好奇心もありましたが、むしろ義務感というか、わた

しがあの部屋に入ることによって、なにかいいことが起こるような気がしたのです。女の

直感とはよくいわれることですが、たぶんわたしがそのように感じたのも、女の直感だっ

たのかもしれません。とにかく、そう感じたのです。そこでわたしは、その禁じられた扉

の向こうへいくチャンスを、虎こ視し眈たん々たんと狙っていました。そのチャンスがき

たのは、ついきのうのことです。じつをいうと、その部屋にはルーカッスルさんのほか

に、トラー夫婦も入ってなにかしているようでした。一度、トラーが大きな黒い洗濯袋を

持ってあの扉のなかへ入っていくのを見ました。ここのところ、トラーはますます大酒を

飲むようになっていて、きのうも酔っ払っていました。そしてわたしが階段をのぼってい

きますと、あの扉に鍵がさしこまれたままになっていたのです。トラーが抜き忘れていっ

たにちがいありません。ルーカッスルさんと奥様は、お子さんといっしょに一階にいま

す。またとないチャンスでした。わたしはそっと鍵をまわして扉をあけ、なかへすべりこ

みました。

 目の前に狭い廊下がありました。壁紙も敷物もなく、つきあたりで直角に折れていま

す。その角を曲がると、三つの扉が並んでいました。ひとつ目と三つ目の扉はあいていま

した。なかはどちらも、暗くてほこりっぽいからっぽの部屋で、ひとつの部屋には窓が二

つ、もうひとつの部屋には窓がひとつついていました。窓には汚れが厚くこびりついてい

て、夕方の光がかすかに差しこんでいました。真ん中の扉は閉まっていて、その扉には鉄

製のベッドから取ってきた太い鉄棒が一本、かんぬきのように横に渡されていて、いっぽ

うの端は壁に取り付けた環わに南京錠で固定され、もういっぽうの端は丈夫な縄で結わえ

つけてあります。扉には錠前もついていて、それをあける鍵はありません。この厳重にふ

さがれた部屋は、外から見たとき、窓によろい戸のおりていた部屋にちがいありません。

しかし、扉の下からもれるかすかな光から、そこが暗室でないことはわかりました。たぶ

ん天窓があって、そこから光が入っているのでしょう。わたしは廊下に立って、この不吉

な扉を見つめていました。そして、そこにどんな秘密が隠されているのだろうと考えてい

ると、とつぜん、扉の向こうから足音が聞こえたのです。扉の下のすきまからもれるかす

かな光のなかを、いったりきたりする影も見えました。そのときわたしは、理屈では説明

のつかない恐怖に襲われたのです、ホームズさん。張りつめていた神経がとつぜん切れ

て、わたしは踵きびすを返して走り出しました──走りながら、なにか恐ろしい手で、うし

ろからスカートのすそをつかまれているように感じていました。廊下を駆け抜けて、扉か

ら飛び出すと、そこで待っていたルーカッスルさんの腕に抱きとめられました。

『やっぱり』ルーカッスルさんは笑っています。『あなたでしたか。扉があいているのを

見て、そんなことだろうと思っていた』

『ああ、こわかった!』わたしは息も絶え絶えにいいました。

『よしよし、もう大丈夫だよ』ルーカッスルさんのなぐさめ方といったら、とてもやさし

くて思いやりに満ちているんです。『ところでお嬢さん、なにがそんなにこわかったのか

な?』

 でも、ルーカッスルさんの声はやさしすぎました。度を越した猫なで声に、わたしはか

えって警戒しました。

『ばかなことをしましたわ。だれもいない棟に入るなんて。しんとして、幽霊でも出てき

そうに暗いんですもの。恐ろしくなって走って出てきましたの。ああ、ほんとうに不気味

なほど静かでしたわ!』

『それだけかい?』ルーカッスルさんはそういって、わたしをじっと見つめました。

『あら、どういうことですか?』わたしはとぼけました。

『わたしがなぜここに鍵をかけているか、わかるかい?』

『わかりませんわ』

『用のない人間をなかに入れないためだよ。わかるかい?』あいかわらず、やさしい笑顔

で、ルーカッスルさんはいいました。

『そうと知ってましたらけっして──』

『そうだろう。では、もうわかったね。今度またここに入るようなことがあったら──』こ

こで急にルーカッスルさんの笑顔が、怒りもあらわに歯をむき出した、けわしい表情に変

わりました。悪魔のような顔でわたしをにらみつけていいます。『あの犬の餌食にしてや

るぞ』

 わたしはもう、恐ろしくて、そのあとどうしたか覚えていません。たぶん、ルーカッス

ルさんの脇を大急ぎですり抜けて、自分の部屋へ入ったのだと思います。それからふと気

がつくと、ベッドに横たわって、ぶるぶる震えていました。そしてホームズさんのことを

思い出したのです。だれかに相談でもしないと、もう一日もここにはいられない。あの家

も、ルーカッスルさんも、奥様も、使用人も、お子さんでさえも、恐ろしいと思いまし

た。なにもかもこわくてたまらないのです。でも、もしホームズさんがきてくださった

ら、なにもかもうまくいくと思いました。もちろん、あの家から逃げ出すこともできまし

たが、恐ろしさと同じくらい、好奇心もあったのです。わたしはすぐに心を決め、ホーム

ズさんに電報を打つことにしました。帽子とマントを着て半マイルほど離れた郵便局へい

き、帰りには気持ちもずっと落ち着いていました。でもぶな屋敷に近づくにつれて、あの

犬が放されているのではないかと不安になってきました。けれども、その夕方、トラーが

ひどく酔いつぶれていたことを思い出して、その不安も消えました。あの恐ろしいマスチ

フ犬を少しでも扱うことができるのは、トラーだけです。鎖をはずすことができるのも、

トラーしかいません。わたしはぶじ家のなかにもぐりこみました。明日あしたにはホーム

ズさんにお会いできると思うと、うれしくてなかなか寝つけませんでした。今朝ウィン

チェスターにくる許可はすんなり取れましたが、三時までに帰らないといけません。ルー

カッスルさんご夫妻が、その時間からお出かけになり夜遅くまで戻ってこられないので、

お子さんのお世話をしないといけないのです。さあ、これでなにもかもお話ししました

わ、ホームズさん。これらのことは、いったいどういうことなのか、そしてなにより、わ

たしはどうしたらいいのか、お願いですからお教えください」

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