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第一章 推理学(2)_四つの署名(四签名)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:「ざっと読んだがね」と彼はいった。「正直いって、いただけないね。探偵というものはね、厳密な科学である、あるいは科学である
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「ざっと読んだがね」と彼はいった。「正直いって、いただけないね。探偵というものはね、厳密な科学である、あるいは科学であるべきだ。科学と同じように冷静に、客観的に扱わなければいけない。きみはロマンティックな色どりを添えてしまったね。だからユークリッドの第五定理に、恋物語や駆け落ち事件を持ち込んだような印象を与える」「しかし、ロマンスだってあったよ」と、私は反論した。「事実を曲げるわけにはいかないよ」「多少の事実は端折はしょらなければならない。少なくとも事実を取り扱う時には、均整というものを忘れてはいけないんだ。あの事件で物語るに価いする唯一の点は、結果から原因へという奇妙な分析推理によって、事件を解決に導いたということだけなんだよ」 あの物語は、特に彼を楽しませようという目的で書かれたものだったので、こうした批評をされて、私は当惑した。私の作品の一行一句が、彼の行動だけを物語るのに当てられるべきだとでもいわんばかりの、その身勝手さに、正直私は腹が立った。ベーカー街で同居していた年月の間一度ならず、私はこの男の穏やかな、人を諭さとすような態度の裏に、わずかな虚栄心がひそんでいるのに気づいたことがあった。しかし、私は口出しはせずに、負傷した足をいたわりながら坐っていた。以前、ジェゼール弾の貫通銃創を受けたことがあり、別に外出するのにさしさわりになかったが、天候の変わり目になると傷はしつこくうずいた。
「この頃は、大陸まで手をのばすようになってね」しばらくたってからホームズは古いブライアのパイプにたばこを詰めながらいった。「先週フランソワ?ル?ヴィラールから相談を受けたのさ。きみも知っているだろうが、最近フランスの探偵界で頭角を現わしてきた男だ。彼はケルト系らしく、直感力は並大抵ではないが、正確な知識を幅広く身につけていないのが、玉にきずだ。これがなくては、この方面での才能は伸びないからね。事件はある遺言状に関係したもので、多少興味をそそるところがあった。ぼくはその男に、似たような事件を二つ教えてやった。一八五七年のリガの事件と一八七一年のセントルイスの事件だが、それが解決の手がかりになったわけだ。これが今朝着いた手紙だが、ご協力感謝しますと書いてある」 そういいながら、彼はしわくちゃになった外国製の便箋を投げてよこした。ちらりと見ただけで、「お見事マニフィーク」とか「 素晴らしい手腕 クー?ド?メートル」とか「
    手練の早業トゥル?ド?フォルス」などという賛辞がやたらと目につき、このフランス人の心酔ぶりがうかがわれた。
    「弟子が師匠に向かって物をいうみたいだね」と、私はいった。
「ぼくの助力を買いかぶりすぎている」と、シャーロック?ホームズは軽い調子でいった。「彼自身、相当な才能を持っている。理想的な探偵に必須の条件三つのうち、二つまでは身につけている。観察力と推理力はあるのだが、ただ知識に欠けている。もっとも、これだっておいおい身につくはずだがね。彼は目下、ぼくのささやかな著作を、フランス語に翻訳しているんだよ」「きみの著作だって?」「あれ、知らなかったのかい?」彼は笑いながら大声でいった。「実をいうと、これまで数篇の論文をものしているんだ。いずれも専門的な問題を扱っているんだがね。たとえば、これは『各種のたばこの灰の識別について』だが、この中でぼくは百四十種の葉巻、紙巻、パイプたばこを挙げて、灰の違いを色刷りの図版を使って説明している。これは、刑事裁判でしじゅう問題になる点で、時には決め手としてきわめて重要とされることがある。たとえばだね、ある殺人事件の犯人がインド産のランカ葉巻を吸っていることがはっきりした場合、確実に捜査の範囲が狭められるわけだ。くろうとの目で見れば、トリチノポリ葉巻の黒い灰と鳥の目バーズ?アイ印の白いふわふわした灰は、簡単に見分けがつく。キャベツとじゃがいもほどの違いだ」「きみはこまかなことについて、異常な才能を持っているんだね」と、私はいった。
    「ぼくにはそうしたことの重要さが分かるんだよ。この論文は足跡の鑑定に関するものでね、足跡の保存に焼石膏せっこうが役に立つことを説いている。それから、こいつは職業によって人の手の形がどう変わるかを調べた風変わりな論文でね、スレート職人、水夫、コルク切り工、植字工、織工、ダイヤみがきなどの手型を、石版で示してある。これは、科学的探偵にとって非常に実用的な意義を持つものでね、特に身許不明の死体とか、犯人の前科を調べるときには便利だ。でも、こんなぼくの道楽談義には、きみもうんざりしただろう」「いや全然」と、私は真顔で答えた。「実に興味深いよ。特にきみがそれを実際に応用するのを拝見してからというものはね。ただ、きみはいま観察と推理といったけれど、これはある程度互いに通じあうものではないのかね」「いや、ちがうんだな」と、彼は肘掛け椅子にゆったりともたれ、パイプから濃い青い煙をくゆらせながら答えた。「たとえばだね、観察によればきみは今朝、ウィグモア街の郵便局へ行っていたことになり、推理によればきみはそこで電報を打ったことがわかる」「当たった!」と、私はいった。「両方ともずばりだ! でも、どうしてわかるのかね。ふと思い立ってやったことで、まだ誰にもしゃべっていないのだが」「いや、実に簡単なことさ」と、私のびっくりした顔を見て、笑い声を立てながら彼はいった。「馬鹿らしいほど簡単で、説明の余地もないくらいだ。しかし、これは観察と推理の境をはっきりさせるのに役立つかも知れないね。観察すると、きみの靴の甲に赤土が少しついているのがわかる。ウィグモア郵便局の真向かいの所は、最近舗装をはがして土を掘り返したから、郵便局へ行くにはその土を踏まないわけにはいかない。それは、こんな独特の赤みを帯びていて、まあ、ぼくの知るかぎり近所では、他に見当らないものだ。ここまでが観察で、あとは推理というわけさ」「それなら、電報のことはどうしてわかるのかね?」「うん、それはね、午前中ずっときみと向かいあっていたけれど、きみは手紙など書かなかったよ。あけっぱなしの引出しには、切手もはがきもたくさんあった。そうすると、電報を打つ以外に、郵便局などへ出かける用はないではないか。他のファクターを消去していって残ったもの、それが真相というわけだ」「この場合、確かにそうだよ」と、しばらく考えてから私はいった。「でもこれは、きみのいうとおり、最も単純な例の一つにすぎないよ。ここで、きみの理論というものをもっと厳しくテストしてみてもかまわないかね?」「もちろんさ」と、彼は答えた。「そうすればコカインをもう一本やらないで済む。きみが持ち出す問題なら、何でも喜んで調査するよ」「きみの話だと、人間は誰でも、日常使い慣れた物に自分の個性の刻印みたいなものを必ず残すから、専門家にはそれが読めるということだったね。ここに、最近手に入れた懐中時計がある。以前の持ち主の性格なり癖なりについて、きみの意見を聞かしてもらえないか?」 私は内心、幾分愉快に感じながら時計を手渡した。というのは、私の見るところ、調べるのはおよそ不可能であり、これは、彼が時折り示す、独断的な態度にとって、良い薬になるだろうと考えたからであった。彼は時計を手のひらにのせて重さをはかり、じっと文字盤を見つめ、やがて裏ぶたをあけると、最初は肉眼で、次に強力な凸レンズで機械を調べた。彼がようやくパチリとふたを閉じて返してよこした時、私はその落胆したような表情を見て、微笑をもらさずにいられなかった。
 
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