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第十一章 大いなるアグラの宝物(3)

时间: 2023-11-07    进入日语论坛
核心提示:「もしもそれがわたしのものになったら」と彼女はいった。「それはあなたのお陰ですわ」「いえ、いえ」と私は答えた。「ぼくじゃ
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「もしもそれがわたしのものになったら」と彼女はいった。「それはあなたのお陰ですわ」

「いえ、いえ」と私は答えた。「ぼくじゃなくて、友人のシャーロック・ホームズのおかけですよ。ホームズの天才的な分析力をもってしても、手こずらせたくらいですから、ぼくがいくらがんばったって、事件の鍵を解くことはできなかったでしょう。実のところ、土壇場どたんばであやうくとり逃すところでした」

「どうか、おかけになって、全部お話ししてくださいな、先生」

 私は、最後に彼女と別れて以来起こった事柄を、手短かに話した……ホームズの新しい捜索方法、オーロラ号の発見、アセルニー・ジョーンズの出現、夕暮の冒険、そしてテムズ河での大追跡。彼女は唇を開き、目を輝かせながら私の冒険談に耳を傾けた。あやうく当たりそこねた毒矢の話になると、彼女は顔面蒼白になったので、私はまた気絶するのではないかと思った。

「何ともありませんわ」あわてて水をついでやると、彼女はいった。「大丈夫です。わたしのために、お二人がそんな危険な目にお会いになったと聞いて、びっくりしてしまいました」

「もうすべて終わったんです」と私は答えた。「大したことはなかったんです。もうこれ以上、恐い話はしませんよ。もっと明るい話題に変えましょうか。ここに宝がある。これより明るいものなどありますか?まずあなたにお見せしたいと思って、特別に許可をもらってこうして持ってきたんですよ」

「わたしにも大変興味がありますわ」と、彼女はいった。しかし、その声には何か熱心さが感じられなかった。おそらく彼女には、手に入れるのにあれほど苦労した宝に対して、無関心な態度をとるのは失礼だという気持が働いていたのだろう。

「美しい箱ですこと!」と彼女はその上にかがみ込みながらいった。「これはインド製かしら?」

「そう、ベナレスの金属細工です」

「それに重いこと!」彼女は持ち上げようとしながら叫び声をあげた。「箱だけでも相当の値打ちでしょう。鍵はどこですか?」

「スモールがテムズ河へ捨ててしまったんです」と私は答えた。「フォレスターさんの火かき棒を借りましょう」

 箱の正面には、仏陀の座像をかたどった、厚い、巾広の掛け金がついていた。私はその下に火かき棒をさし込み、てこのかわりにして手前へぐっとひねった。ぱちんと大きな音がして、掛け金がはずれた。私は震える手で 蓋ふたを開けた。私たち二人は 愕然がくぜんとして立ちつくした。箱は空っぽだったのだ。

 箱が重いのも当然だった。鉄張りのまわりは、三分の一インチもの厚さをしていた。高価なものを入れる箱のように、ていねいにがっしり造ってあったが、中には金属や宝石の一かけらもなかった。正真正銘のからだった。

「宝がなくなっていますわ」と、モースタン嬢は落着いていった。彼女の言葉を聞いて、その意味を了解したとたんに私は、心の中から重苦しい影が消えていくような感じがした。このアグラの宝物が、いかに私に重くのしかかっていたのかを、それが取り除かれた時になって、ようやく気がついたのだった。確かに利己的で、不実で、よこしまな考えかもしれないが、私には、お互いを隔てていた黄金の障壁が除かれたということしか頭になかった。

「ばんざい!」私は心の底から叫んだ。彼女はいぶかしげな微笑をす早く浮かべて、私を見た。

「なんで、そんなことおっしゃるの?」と彼女はたずねた。

「あなたがまた、ぼくの手にとどくようになったからです」彼女の手をとりながら、私はそういった。彼女は手を引っ込めようとしなかった。「メアリー、ぼくは誰にもまして心からあなたを愛しているからです。この宝物、財産というもののために、ぼくは口がきけなかったのです。それがなくなった今、あなたが好きだといえるようになりました。だから『ばんざい』などといったんです」

 

「それなら、わたしも『ばんざい』ですわ」彼女を自分の方へ引きよせようとした時、彼女はそうささやいた。

 宝を失くしたのが誰であるにしろ、それを手に入れたのは自分だ、と私はその晩思った。

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