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第十二章 ジョナサン・スモールの不思議な物語(2)

时间: 2023-11-07    进入日语论坛
核心提示:「あんたはわれわれがそうした事実を全く知らないことを忘れている」と、ホームズは穏やかにいった。「あんたの話を聞いたことが
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「あんたはわれわれがそうした事実を全く知らないことを忘れている」と、ホームズは穏やかにいった。「あんたの話を聞いたことがないから、あんたがもともとどれほど正しいのか、わかりようがないんだよ」

「そうですかい。あんたはこのあっしをまともに扱ってくださるんですかい。もっともこの両手の腕輪についちゃ、ちょっと礼をしたい気持だがね。いや、こいつだって文句はいえねえや。まちがっちゃいねえもんな。もしあっしの話を聞きたいとおっしゃるんなら、洗いざらいしゃべりましょう。これは一言一句が神かけて真実ですぜ。すまんが、ここんところヘコップを置いてくれませんかね。

    咽喉のどがかわいたら、こっちから口を持っていくから。

 あっしはウスターシャーの出でね、パーショーの近くの生まれだ。調べてみりゃ分かるが、あの辺にはスモールって名前のがたくさんいますよ。時々あのあたりへ行ってみたい気がするが、家には不義理ばかりしてたから、あんまり歓迎されそうもないやね。家の者は、堅気で信心深い、けちな百姓でしたが、土地では名が通っていたし、人から尊敬されてもいたんだ。それにひきかえ、あっしはいつも少しばかり放浪ぐせがあってね。ところが、十八になった頃、あっしはもう厄介者ではなくなったんだ。女のことで 悶着もんちゃくを起こし、それがいやさに志願して、その時インドヘ発とうとしていた歩兵第三連隊に入ったのさ。

 だが、もともと兵隊なんて柄じゃなかった。ようやく歩調教練に合格して、マスケット銃の扱いを覚えた頃、よせばいいのにガンジス河へ水浴びに行ったんだ。幸いその時、中隊の軍曹のジョン・ホールダーも泳いでいて、こいつは泳ぎにかけては、隊でも指折りでね。川の中途まで泳いでいった時、あっしはわにヽヽに襲われて、まるで外科医に切られたように、右足の膝上のところがらぱっくり喰いちぎられちまったんです。ショックと貧血で気を失い、溺れかかったところを、ホールダーに助けられて岸まで運ばれました。五力月間入院し、この木の義足をつけて、びっこを引きながらようやく歩けるようになった時には、軍隊からはお払い箱にされて、力仕事はできなくなってました。

 まだはたち代だというのに、ちんばの役立たずになって、不幸のどん底に落とされた気になってました。ところが、この不幸とは実は幸運が姿を変えたものだったんです。インド 藍あいの栽培にきていたエイベル・ホワイトという男が、苦力クーリーが仕事をさぼらないように看視する監督をさがしていました。この男はあっしらの連隊長の大佐の友達で、またこの大佐は、例の事故以来あっしのことを目にかけてくれていたんです。

    で、話を端折はしょっていうと、大佐があっしのことをその職に強く推してくれて、そのうえ仕事はたいていは馬に乗ってすることだったから、足にはさし障りがなかったんです。

    腿ももはちゃんと残っていたから、鞍にまたがるのは平気っていうわけです。仕事は馬で農園を見まわり、働いている連中を看視して、なまけているのがいたら報告をする。給料は悪くはなかったし、家も居心地よかったから、あっしはこの藍あい栽培で一生を送るつもりでいました。エイベル・ホワイトさんは親切な人で、よくあっしの小屋へ立ち寄って、いっぷくやっていきます。向こうにいると白人同志はとてもこっちではできないほどお互いに心が通いあうものなんですよ。

 だが、好運は長続きしませんでした。突然、なんの前ぶれもなしに大暴動が起こったんです。一力月の間インドは、見たところまるでサリーやケントのように静かで平和だったのに、二十万人もの黒い悪魔どもが一斉に解き放たれて、国中が完全に地獄と化しちまいました。もちろん、あんた方、よくご存知でしょう。あっしらよりずっとよく知ってるはずだ。こっちは読むほうはからきしだからね。この目で見たことしか知りません。あっしの農場は、北西州の境に近いムットラにあったんです。焼き打ちにされたバンガローの火で、夜ごとに空は明るく染まりました。毎日、ヨーロッパ人の小さな群れが、妻子を連れてあっしらの農園を通り抜けて、もよりの軍隊が駐屯しているアグラヘ向かっていきました。エイベル・ホワイトさんは頑固な人でしてね。事件は大げさに伝えられたものだ、急に起こったのだから、急に鎖しずまるだろうと考えてました。それで、まわりでは国中が燃えているというのに、ベランダに坐ってウイスキー・ソーダを飲んだり、両切り葉巻をふかしたりなぞしていたんです。もちろん、あっしらはホワイトさんの許を離れなかった……あっしとそれに、かみさんと一緒に帳簿や管理をやっていた、ドースンという男ですがね。

 ところが、ある晴れた日に、破滅がやってきました。あっしは遠くの農園へ出かけていて、夕方ゆっくり馬で帰るとき、たまたま険しい河床の底に、何やら固まりのようなものがあるのが、目にとまったんです。馬から降りて、それを見たとたん、思わず心臓の凍る思いがしました。ドースンのかみさんがずたずたに引き裂かれ、半分はジャッカルや野犬に喰われているんです。その少し先には、ドースンが空の拳銃を手に、うつ伏せになって死んでいて、すぐ前には土民兵セポイが四人、折り重なって倒れているんです。あっしは手綱をとって、どっちへ行こうかと迷いました。その時エイベル・ホワイトのバンガローから真っ黒い煙が立ち昇り、屋根から火が燃え上がるのが見えました。主人には悪いけれど、余計なことをしたらこっちの命がないと思ったのです。立っている所から見ると、何百という黒い悪魔どもが背中に赤い上着をつけて、燃える家のあたりを踊ったりわめいたりしています。そのうち、誰かがあっしのほうを指さすと、弾丸が二、三発耳元をかすめました。そこであっしは、田んぼを横切って一目散に逃げ出し、その晩おそくアグラの城壁の中へ無事逃げ込んだわけです。

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