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第十二章 ジョナサン・スモールの不思議な物語(3)

时间: 2023-11-07    进入日语论坛
核心提示: だが、そこも大して安全じゃなかったのです。なにしろ、国中が蜂の巣をつっついたような騒ぎでしたからね。英国人が多少集まっ
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 だが、そこも大して安全じゃなかったのです。なにしろ、国中が蜂の巣をつっついたような騒ぎでしたからね。英国人が多少集まったところで、持ちこたえられるのは、せいぜい鉄砲のとどく範囲です。あとはどこへ行っても、英国人は無力な逃亡者でした。多勢に無勢のいくさでしたが、何ともひどかったのは、あっしらの敵で……つまり歩兵と騎兵と砲兵は、あっしらが教え、仕込み、あっしらの武器を持ち、そしてあっしらの召集ラッパを吹くという、あっしらの精鋭部隊だったことです。アグラには第三ベンガル・フュージリア連隊と、シーク教徒兵と、騎兵二個中隊と、それに砲兵一個中隊がいました。事務員や商人達の義勇軍ができていて、あっしも義足のままで加わったのです。六月の初めに、シャーグンジの反乱に出かけていって、一度は敵を追いかえしたのですが、やがて弾薬がつきて、町まで後退するはめになりました。

 どこから来るのも最悪の知らせばかりです。それももっともなはず。地図を見ればわかるが、あっしらがいたところは反乱のど真ん中なんだ。ラクノーは百マイルちょっと東にあり、カウンポールも南に、やはりそのくらい離れていました。どっちを向いても、拷問と殺人と暴行ばかりだったんです。アグラは大きな町で、狂信者や、恐ろしいいろんな魔神崇拝者が群がっていました。

 あっしらの隊の兵隊が数名、狭い曲がりくねった通りで道に迷ってしまったんです。そこで、指揮官は川を渡って、アグラの古い砦に陣を張ることにしました。この古い砦のことはご存知かも知りませんがね。これは実に不思議な場所でして、あっしもいろんな危い所へ行ってるが、なかでも一番不思議な場所ですぜ。まず、そのばかでかいことといったら、まわり全体で何エーカーにもなるでしょう。新しく建てられたところがあって、そこは守備隊の他に、女子供や食料など一切収容しても、まだかなりの余地があるんです。それでも、この新しく建てられたところは大きさからいくと、サソリやムカデが出て誰も行く者がいない、古い建物とは比べものにならないんです。そっちには、荒れ放題の広間や曲がりくねった通路や、うねりくねった回廊が至る所にあって、一度迷い込んだら、容易には出られません。そんなわけで、めったに人は寄りつかず、たまに松明をもった連中が探険に行くぐらいのものでした。

 古い砦の正面に沿って川が流れていたので、そこだけは自然、川に守られていました。ただ両側とうしろには門がたくさんあって、部隊がとまっていた新しい建物ばかりか、古い方の戸口にも警備を置かなくてはならなかったのです。あっしらは手不足で、建物のあちこちに銃をもって部署につけるだけの頭数は、まずいませんでした。だから、たくさんの門の全部にわたって、しっかりした警備を配置させるなど、出来ない相談だったのです。しかたがないので、砦の真ん中に衛兵所本部をおいて、他の門は白人一人と二、三人の土人で固めることにしました。あっしは夜、決まった時間に、建物の西南側に面した一つだけある小さな戸口を見張る役に選ばれたのです。二人のシーク人の騎兵があっしの部下というわけで、何かの時にはマスケット銃で合図するようにいい渡されました。そうすると本部から助けがくる手筈でした。ただ衛兵所はたっぷり二百歩は離れていたし、そこまでの間は迷路みたいに通路や回廊が入り組んでいたので、いざ攻撃された時に、助けが間にあうかどうか、たいへんあやしいものでしたがね。

 あっしはこんな命令でも、受けたことがすごく得意でした。なにしろ、こっちは新兵で、しかもちんばときてるからね。二晩、部下のパンジャブ人をつれて番をしました。二人は背が高く、ものすごい顔をした連中で、名前をマホメット・シングとアブドゥラ・カーンといって、チリアン・ウォラーでおれ達に対して武器を執とって刃向ったことのある老戦士です。奴らは英語はかなり話せたが、あっしには何もいわない。二人だけでいて、夜通しわけのわからない、おかしなシーク語でべちゃくちゃやっている。こっちは門の外に立って、巾の広い、くねった川と大きな町のまばたくあかりを眺めていました。太鼓の音とか、タムタムの響きとか、アヘンと大麻に酔った謀反むほん人たちの叫び声とかが聞こえていて、恐ろしい連中がすぐ川向こうにいることが、一晩中、頭から離れませんでした。二時間おきに、当直士官が全部の部署をまわって、異常はないか確かめることになっていました。

 見張りの三日目は、暗い荒れ模様の晩で、少し雨が降っていました。こんな天気で、何時間も門口に突っ立っているのは、うんざりでした。幾度かシーク人たちにしゃべらせようとしましたが、うまくいきません。明け方の二時に巡回がまわってきて、しばらくは夜の退屈もまぎれましたがね。部下が話に乗ってこないので、あっしはパイプをとり出して、マッチを擦するつもりでマスケット銃を下に置いたんです。その時、シーク人二人がいきなり襲いかかってきました。一人が銃をひったくって、こっちの頭に向けてくるし、もう一人は大きなナイフを咽喉のどにつきつけて、一歩でも動くとつき刺すぞと声をひそめていいました。

 まず頭に浮かんだことは、こいつらは逆徒の一味で、これをきっかけに攻撃が始まるのだろう、ということでした。もしこの戸口が土民兵セポイの手にわたったら、砦は陥落し、女子供はカウポールのときと同じ目にあうだろう。そう思ったとき、咽喉にナイフの切先を突きつけられていましたが、どうせこれでおしまいなら、ひとつ大声で叫んでやろう、そうすれば警備本隊のところまで聞こえるかもしれない、と考えました。なにもあっしは、ここでかっこいいところを見せようってのじゃない、これは本当の話ですよ。ところが、あっしを押えてた奴が、こっちの心中を察したらしい。いざ怒鳴どなろうとして身をちぢめたとき、そいつは耳もとでこう囁ささやいたんです……『さわぐんじゃない。砦は安全だ。川のこっちに反逆者の犬どもはいないよ』

     いうことに真実味がこもっていたし、もし騒げば命がないのはわかっていました。そいつの茶色の目にそれがありありとうかがえたんです。そこで、奴らは何が目的なのかを知ろうと、黙って待ってみました。

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