外科医のサマトン医師はなかなかの道楽者の青年ですが、他の若い士官達が夜になると、彼の部屋に集まって、よくカードをやったものです。あっしが薬剤師の仕事をしていた手術室は、彼の居間の隣りにあって、その間は、小さな窓で隔てられていました。よく淋しくなったりすると、手術室の明かりを消して立ったまま連中の話を聞いたり、カード遊びを見ていたものです。あっしもこいつをやるのが好きだが、人のを見ているのも結構面白いものでした。そこにはショルト少佐、モースタン大尉、ブロムリー・ブラウン中尉という土民軍セポイの指揮官、それに外科医と他に二、三人の獄吏がいて、この獄吏達はカードにかけては相当なやり手で、そつのないゲームをやっていました。こうした連中が寄り集ってこぢんまりした仲間を作っていたのです。
ところで、ほどなくあっしはあることに気がつきました。負けるのはきまって軍人で、勝つのはきまって役人だということです。だが、いいですか、何もいかさまがあったなどというんじゃない、実際そうだったというだけです。獄吏の連中はアンダマンへ来て以来、カードしかやることがないから、お互いに相手の手の内を知りつくしているのに、他方はただひまつぶしにやってたというわけで、とにかくいつもかぶとをぬがされてました。夜毎に軍人たちは金がなくなっていきましたが、なくなればそれだけやりたがるようになります。一番負けがこんできたのがショルト少佐でした。最初のうちは札や金貨で払っていたのが、やがて手形、しかも多額の手形になりました。時には二、三勝負勝ち続けて、元気をとり戻すことがあっても、すぐにつきが変わって、前よりもっと悪くなります。一日中、彼は雷のようにこわい顔をしてうろつきまわり、体にさわるほどの大酒を飲むようになりました。
ある晩、彼は普段にもまして負けたのです。あっしが小屋に坐っていると、彼とモースタン大尉が宿舎へ帰る途中、ぶらぶら歩いてきました。この二人は親友で、宿舎もそう離れていませんでした。少佐は負けたくやしさをぶちまけていたのです。
『これで一巻の終わりだよ、モースタン』あっしの小屋の前を通り過ぎる時に、彼はいいました。『辞表を書かなきゃなるまい。おれは破産だ』
『何をいうか、きみ!』もう一人が相手の肩を叩きながらいいました。『おれだってもっとひどい目に会ったことがある。だが……』その後は聞こえませんでしたが、あっしに考えるきっかけを作ってくれるのには充分でした。
二、 三日後、ショルト少佐が海岸を散歩していました。そこで、あっしはこう切り出してみたのです。
『少佐殿、少しばかりお知恵を拝借したいんですが』
『ほう、どんなことかね、スモール?』彼はくわえていた両切り葉巻を唇からはなしながらたずねました。
『実は、おたずねしたいのは』とあっしはいいました。『隠してある宝物を、どこへ引き渡すのが適当かということでして。あっしは五十万ポンドの宝のありかを知っています。で、あっしは自分でそれを使うことはできませんから、たぶん一番いい方法は、それを適当な筋に引き渡せば、こっちの刑も短くしてもらえるのじゃないかと、こう思ったわけです』
『五十万ポンドといったな、スモール?』あっしが本気かどうか確かめようと、きびしい目つきで見ながら、彼はあえぐようにいいました。
『そのとおりです、少佐殿……宝石と真珠でです。誰にもわかる所にあります。そして、奇妙なことに本当の持主は、追放されて、財産を所有することができません。だから、宝は最初の発見者のものになります』
『政府だよ、スモール』彼は口ごもりながらいいました。『政府だよ』
しかし、彼がそれをつっかえながらいうのを聞いて、あっしはこっちのものだと、内心思ったのです。
『それなら少佐殿、これは総督に報告すればよいわけですか?』とあっしは静かにいいました。
『うーん、そうだな、あまり急ぐことはないぞ、あとで後梅することになるからな。スモール、くわしい話を聞かしてもらおうか。事実を話してみろ』
あっしは場所はあんまりはっきりさせないように、多少内容を変えて、一部始終をしゃべりました。話し終わると彼はじっと立ちつくしたまま物思いにふけっていました。唇がひきつれるのを見て、彼が内心迷っているのがわかりましたよ。