ところで、あんた方もあっしの長話にはもうあきあきしてるでしょう。それに、こちらのジョーンズさんも、あっしを早いところ無事にぶた箱へ放りこみたがっていらっしゃる。できるだけかいつまんで話すことにしますよ。ショルトの悪党めはインドヘ行ったきり、戻ってこなかったんです。すぐ後になって、モースタン大尉が定期船の乗客のリストに奴の名前がのっているのを見せてくれました。おじが死んで遺産が手に入ったので、軍隊をやめたという話でした。だが、あいつはあっしら四人ばかりか五人の者でも平気で裏切れる男です。すぐ後からモースタンがアグラへ行ってみたら、案の定、宝はなくなっていました。秘密と引き換えに交わした約束は、一つも実行しないで、宝をまるまる失敬したわけです。それからというもの、あっしはただ復讐のためにだけ生きてきました。日夜、復讐のことだけを考えたのです。それは、あっしにとって他のどんなことにもまさる烈しい執念となりました。もう法律なんか問題じゃない……絞首台などくそくらえだった。脱走して、ショルトを探し出し、絞め殺してやる……このことしか眼中になかった。ショルトを殺すことにくらべたら、アグラの宝なんか、あっしの心の中ではちっぽけなものだった。
自分もこれまでいろんなことを思いついたが、やりとげられなかったことは一つもなかった。それにしても、時機がくるまでの年月は、うんざりするほど長かった。あっしは薬剤のことを少しかじったことがあると、さっきいいましたね。ある日、サマトン医師が熱病で倒れた時に、囚人達が森で見つけたといって、小さなアンダマン島の土人を連れてきました。死ぬほどの病気にかかって、人気のない所へ死ににきていたのでした。毒蛇みたいな奴だったが、そいつをあずかって、二、三力月もすると、治って歩けるようになりました。それで奴は、まあ、あっしのことが気に入って、森へ帰ろうともせずに、いつもあっしの小屋のあたりをうろつきまわっていたのです。奴の言葉を少し覚えてやったら、ますます気に入られる始末でした。
トンガという名前ですが……奴は舟をこぐのが得意で、自分でも大きなゆったりしたカヌーを持っていました。奴があっしにべったりで、こっちのいうことなら何でも聞くことがわかると、これでようやく脱走のチャンスがきたと思いました。そのことを奴と話しあったのです。奴はある晩、見張りのいない船着場へ舟を持ってきて、あっしを拾うことになりました。ひょうたん五、六個に水を入れ、やまいもヤムやココナツやじゃがいもをうんと持ってくるようにいいました。
この小男のトンガは、信用のおける堅い男でした。こんな忠実な仲間もいないでしょう。約束の晩に、奴は船着場へ舟を持ってきました。ところが、偶然にも、そこに囚人警備員が一人いたのです……いまいましいアフガニスタン人で、事あるごとにあっしを馬鹿にしたり、いびったりした奴です。いつも仕返ししてやろうと思っていましたが、ようやくチャンスがきたわけです。まるで、島を去る前に、お返しをしろといって、運命の神が、行く道筋にそいつをおいてくれたみたいでした。奴は肩からカービン銃を下げ、背中をこっちにむけて、土手に立っていました。脳天を叩き割ってやろうと思って石を探したが、あいにく石は見当りませんでした。
その時、不思議な考えが頭に浮かんで、武器がどこにあるのかを教えてくれたのです。あっしは暗闇に坐って、義足をとり外しました。片足とびで三歩とんで、奴に襲いかかったのです。奴はカービン銃を構えようとしましたが、あっしは思いきりなぐりかかり、額をまともに打ち砕くだいてやりました。この木に割れ目があるでしょう、ここでなぐったんですよ。こっちはうまく立っていられないから、二人は折り重なって倒れました。だが、起き上がってみると、相手は全く静かになってのびていたんです。あっしは舟のほうへいき、一時間後にはもう海へ出ていました。トンガは武器も神も、とにかくこの世の財産は一切持ってきていました。その中には、長い竹槍とかアンダマン土人がココナツで編んだむしろがありましたが、これを使って帆を作ったのです。十日間、あっしらは運を頼みにして風上に進みましたが、十一日目に、マレー人の巡礼たちを乗せて、シンガポールからジッダヘむかう貿易船に助けられました。変わった連中の寄り合いで、やがてトンガもあっしもその中に溶け込んでいったのです。連中はたった一つだけいい点があって、それは人におせっかいをせず、余計なことを聞かないことでした。
あっしと相棒の冒険談をやっても、あんた方は喜ばないでしょう。日が出る頃まで引きとめることになりますからね。
あっしらは世界中あちこち渡り歩いたが、いつも何かが起こって、ロンドンにはなかなかたどり着けませんでしたよ。しかし、あっしは一時として自分の目的は忘れなかったのです。夜はよくショルトの夢を見ました。夢の中で奴のことを何百回も殺してやりました。でも、三、四年前、ようやくのことで、英国にたどり着いたんです。ショルトの居場所は難なくわかり、そこで、奴が宝を金にかえたか、それともまだ持っているのか、調べることにしました。役に立ってくれそうな奴と近づきになり……名前はいわんでおきます、人を巻きぞえにしたくないからね……奴はまだ宝を持っていることを知ったんです。それから、あっしはいろいろな方法を使って、奴を捕えようとしました。だが、あいつはずる賢い男で、息子達や召使いの他に、いつも護衛役としてボクサーを二人雇っていました。
ところがある日、奴が死にかかっているという話を聞いたのです。ここで奴を捕えそこなうかと思うと、気も狂いそうになり、急いで庭へかけつけ、窓越しにのぞいてみると、奴が両わきに息子を立たせて、床に伏しているんです。入っていって、三人を相手にいちかばちかやってみようとしましたが、奴を見たちょうどその時に、顎ががくりと落ちて、これでお 陀仏だぶつだとわかったのです。だが、あっしはその晩、奴の部屋に入り込んで、宝の隠し場所を書いた紙切れでもないかと探してみました。でも、書いたものなど一行も見当らないので、あっしは怒り心頭に発する気持で、その場をはなれました。立ち去る前にこんなことを思いついたのです……シーク人の仲間たちにいつか会った時、自分らの怒りのしるしを残してきたといったら、連中も気を良くするのじゃないか、と。そこであっしは、地図に書いたとおりの四つの署名を書いて、奴の死体の胸に留めてきたのです。だまされて宝を取られながら、あっしらの方から何の挨拶もしないままで埋められてしまうなんて、とても我慢がならなかったのです。