ちぎりおきし させもが露を命にて あはれ今年の 秋もいぬめり
藤原基俊
【歌意】 あなたが約束してくださった、さしも草に置く恵みの露のようなお言葉を、命のように大切にしてきましたのに、ああ、今年の秋も願いかなわずむなしく過ぎ去っていくのですね。
【作者】 (ふじわらのもととし) 1060~1142年 詩歌集『新撰朗詠集』の撰者。
【説明】 作者は、興福寺にいた息子が栄えある維摩会(ゆいまえ)の講師(仏典の講師)になれるよう、その任命者である藤原忠通に願い出ていた。忠通は、清水観音の歌とされる「なほ頼めしめぢが原のさせも草わが世の中にあらむ限りは」(私を頼みにし続けよ。たとえあなたがしめじが原のさせも草のように胸を焦がして思い悩むことがあっても)の句を引いて「しめぢが原の」と答えた。その言葉を当てにして待っていたが、今年の秋も選にもれてしまった。それを恨んでこの歌を詠んだ。