次の話は、日本語の先生と、一週間前に日本からアメリカに帰国したばかりのスミスさんと、来年の九月から日本で日本語を勉強しようと思っているテイラーさんの話です。
先生:スミスさんはいつ日本にいったんですか?
スミス:去年の六月です。六月二十日から東京でサマースクールが六週間あったものですから。その後一か月ぐらい日本を旅行して、九月から今日との大学で勉強しました。
テイラー:スミスさんは私と同じように二年大学で日本語を勉強してから日本にいったんですね?
スミス:そうです。
先生:日本で困ったことがありましたか?
スミス:そうですねえ、、、はじめは日本人の話し方がとても速いので、話がほとんどわかりませんでしたが、一か月ぐらいしたら、慣れてだんだんわかるようになってきました。
テイラー:授業で習う日本語と実際の日常会話で話される言葉とずいぶん違うと、日本にいった学生がよく言いますが本当ですか。
スミス:まあ、家のなかでは、くだけた話し方をしますね。でも、先生や知らない人と話をする時はいつも「です」、「ます」という丁寧な話し方をします。大学でいつも「です」、「ます」で話をする練習をしていたので私にはこの話し方の点では問題はありませんでした。
テイラー:くだけた話し方はすぐわかるようになりますか?
スミス:ええ、はじめは難しいですが、六か月ぐらいするとわかるようになりますから、全然心配しなくてもいいです。
先生:日本とアメリカでは、習慣や文化がいろいろ違い、スミスさんも困ったことがあったのではありませんか?
スミス:ええ、それはたくさんありました。大学で日本語を勉強した時、言葉のことについてはいろいろ習いましたが、習慣の違いについては全然習わなかったので、日本に着いてはじめの二、三か月は変な失敗ばかりしていました。
テイラー:たとえば、どんな失敗ですか?
スミス:一番困ったのは、人と話をする時どこに視線を置いたらいいか、ということでした。こちらでは、人と話をする時ふつう相手の目をじっと見ながら話をしますね。ところが、日本ではその習慣がないんです。長く相手の目を見続けるのは失礼だと考えられているんです。
先生:そうですね。ふつうは視線をずっと相手の目に注ぐ代わりに、相手の目を見たり、相手の首やネクタイのあたりを見たりします。
スミス:ふつう、日本人は「握手」をせずに「おじぎ」をしますが、「外人」と会った時「握手」をする人が多いですね。でも、日本人は「握手」をしても強く手を握らない場合が多いので、ちょっと変な感じがします。
テイラー:先日テレビで日本についての特集番組を見たんですが、そのなかで「握手」をしながら「おじぎ」をしていた人がいましたが、そうしたことはよくありますか?
スミス:ええ、半分以上の人がそうしますよ。それから立って話をする時の距離が少し違いますね。
テイラー:どういうふうに違うんですか?
スミス:日本人と話をする時は、アメリカ人と話をする時よりも少し離れてしたほうがいいですね。
スミス:「おじぎ」をしても頭がぶつからないくらいの距離を保とうとするからかもしれませんね。
先生:スミスさんはアパートに住んでいたんですか、それとも日本人の家族と一緒でしたか?
スミス:はじめはアメリカ人の友達と一緒にアパートに住んでいましたが、いつもアパートで英語ばかり使っていて日本語の勉強ができないので、すぐ日本人の家族を見つけて一緒に生活しました。
テイラー:一年間日本人の家族と一緒に生活した私の友達が、“Japanese hospitality is a charming torture″と言っていましたが本当ですか。
スミス:ええ、まあそうですね。特にお母さんが子供のめんどうをみるようにすべてのことをしてくれますからね。
先生:スミスさんの日本人のお母さんもそうだったんですか?
スミス:ええ、まるで私が赤ん坊であるかのようにいろいろ世話をしてくれました。でも、良かった点は、私が日本の習慣と違うことをすると、すぐ教えてくれたことです。例えば、誰かを訪問した時冬の寒い時でも家の前でコートを脱いでから玄関のドアをノックすることや、玄関で話をしていて「どうぞお入りになって下さい」とすすめられた時の靴の脱ぎ方や話が終わって家を出てから外でコートを着ることなどです。
テイラー:靴を脱ぐのに特別な方法があるんですか?
スミス:いいえ。そうではありません。靴をどの方向に向けて脱ぐかが問題なんです。
テイラー:どういう意味ですか?
スミス:靴の先端を家のなかの方に向けるのではなくて、玄関のドアの方に向けるようにするということです。
先生:女性だから、これをしてはいけない、というようなこともたくさんあったでしょうね。
スミス:ええ、たくさんありました。まず、笑い方です。私はアメリカでおかしいことがあると、大きな声で笑ったものですが、よくお母さんに、「メアリー、日本で女性はあなたのように大きい口をあけて大きな声で笑うべきではありません。もっとおしとやかにしなくてはいけませんよ」と言われました。
テイラー:そう言えば、日本の女性で手を口にあてて笑う人がよくいますね。
先生:女性が人前で大きな口をあけて大声で笑うのははしたないと考えられているんです。
スミス:座り方の問題も私が気に入らない点です。畳の敷いてある部屋でちょっとくつろぐと男性はすぐ「あぐら」をかきますが、女性はだめなんですね。それから洋間でイスに座る時女性は足を組むべきではないとか、、、、。
先生:でも、今の若い人はあんまりそういうことにこだわりませんよ。
スミス:ですが、先生、ほかにもいろいろありましたよ。女性は、人前でたくさん食べるべきではないとか、たばこを吸うべきではないとか、酒を飲む時はほどほどにとか、ドアを閉める時、開ける時にあんまり大きい音を立てないようにとか、男性と二人しかいない場合、部屋のドアを開けておくとか、いろいろ注意されました。
先生:それらはウーマンリブに賛成の人には許せないような問題ですね。ところで、私が日本にいた時私の家にもマイクというアメリカからの留学生が来ましたが、面白いことがたくさんありました。
テイラー:どんなことですか?
先生:まず一番困ったのはマイクが出かける時どこへ行き、何時に帰るかぜんぜん言わないことでした。
スミス:私もお母さんにいつもしつこく聞かれました。でも、それはプライバシーの問題でしょう。出かける度に言わなくてもいいと思うんですけど、、、。
先生:まあ、お母さんは、スミスさんを自分の子供と同じだと考えて心配したんでしょうね。簡単に自分の一日の予定を説明してあげると親切でしょうね。それから、マイクが電話で長話をするのには困ってしまいました。30分、長い時は1時間も長々とおしゃべりをするんですから、、、。
テイラー:アメリカ人の学生には普通のことですよ。週末に家にいる両親に電話をかけて、学校でどんなことをしているとか、今週どんなことをしたかなど、いろいろ話をしますよ。
先生:アメリカは電話代が安いからいいんですが、日本は高いし長く話をするとほかの人が電話を使えないでしょう?
テイラー:でも、電話は話をするためにあるんじゃないんですか?
先生:まあ、それはそうですが、、、。
スミス:ほかに、お母さんに服装についてずいぶん文句を言われました。
テイラー:どんなことですか?
スミス:日本の夏はむしあついでしょう。だから、私はよくショートパンツをはいて、袖のないシャツで出かけようとすると、お母さんが「メアリー、そんな体を露出するようなかっこうで外を歩かないほうがいいわ。もっと女らしい服装にしなさい」と言うんです。
テイラー:アメリカではよく見るかっこうですね。
スミス:ええ、でも女性の服装に関しては日本はアメリカよりずっと保守的ですね。テイラーさんも日本にいって見れば、よくわかりますよ。
先生:テイラーさんは日本でサマースクールでも勉強するんですか?
テイラー:いいえ。7月と8月は旅行をして、9月から一年間東京の大学で勉強するつもりです。
スミス:日本についていろいろ調べましたか?
テイラー:ええ、歴史や地理、文化などについて本を読みましたが、まだ十分ではありません。
先生:どんなにたくさん本を読んでも、実際に自分で経験してみなければだめでしょうね。
スミス:わたしも日本でいろいろ経験をして本当に良い一年でした。
先生:日本にいって、日本人と一緒に生活してはじめて日本人が少しずつわかってくるようになるでしょうね。
☆ 次の質問に答えなさい。
1 スミスさんが去年の六月に日本のいったのはどうしてですか。
2 日本ではいつくだけた話し方をし、いつ丁寧な話し方をしますか。
3 スミスさんによると、くだけた話し方は日本にいってどのくらいしたら、わかるようになるそうですか。
4 スミスさんは日本ではじめの2、3か月は変な失敗ばかりしたそうですが、それはどうしてですか。
5 人と話をする時、アメリカ人の視線と日本人の視線はどう違いますか。簡単に述べなさい。
6 日本人と話をする時とアメリカ人と話をする時の距離の違いについて簡単に述べなさい。
7 スミスさんが日本人と一緒に住んだのはどうしてですか。
8 スミスさんの日本人のお母さんの良い点、良くない点について簡単に書きなさい。
良い点:
良くない点:
9 スミスさんについてこの話からわかったことをまとめなさい。
10 日本で女性がすべきでないと考えられていることを簡単に書きなさい。
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13 マイクが先生のお宅で一緒に生活した時先生の家族が困ったことについて簡単に述べなさい。
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