パタンからのタクシーは快適で、あっという間についてしまった。しかも料金は行きの半額ぐらいだ。どうやらボラれていたらしい。
タクシーがホテルに近づいてきた頃、すでに朝チェックアウトしていたことに気づいた。このままホテルに行っても意味がない。慌ててホテルに入る路地の手前で止めてもらい、運ちゃんに怪訝な顔をされる。
車を降りてからとりあえず通りの土産物店を見てみる。
カトマンズに来て以来欲しい思っていたネックレスだが、今見るとあまり欲しいとは思わない。ネックレスを買うのはよしにして、手作りの民芸品を扱う店に入り、木彫りの像の置物などを買う。現金が残り少なくなったのでカードで支払うことにすると、カード会社への手数料をこちらの支払に上乗せして請求されていた。ちゃっかりしている。
さて買い物も済んだが、特に行く当てはない。半日歩きまわったので足が疲れているが、おなかもいっぱいなのでお茶をする気も起こらない。結局ホテルの周辺をぶらぶら歩いてみて回ることにする。王宮には今使っている正面の門の他に雰囲気のある白い門があり、そのあたりで写真などを撮ってみる。しばらく歩いて行くと四角い池のある公園があり、子供たちが遊んでいる。ホテルの裏手に路地があり、そこにおおきなポインセチアの木が植わった家がある。このあたりは、ちゃんと門や庭のある家が多い。高級な部類に入るのだろう。
大きな建物があるのでそこに近づいて行ってみる。民族衣装を着たちょっと程度の高そうな人々が三々五々出てくる。思い切って、この建物は病院か学校ですか、と聞いてみると、声をかけられた彼女はちょっと胸を張るようにして一呼吸おいて「ここはカトマンズの3星ホテル、Yak&Yetiです。」と凛として答えてくれた。さらに「もし病院にいらっしゃりたいのなら」といって近くにある病院を教えてくれる。「大丈夫です。ただ何の建物か知りたいだけだったので」というとにっこり笑ってさっそうと去って行った。なーんだ、これは私たちが泊まったホテルの裏手だったのだ。それにしても彼女は自分の職場に自信を持っているんだな、と感心した。このホテルは本当にいいホテルだった。サーとマダムと呼ばれるの日々ももう終わりなのだった。
夜はこのホテルのベジタリアンレストランにした。ここはコンサートが開かれた場所でもある。ショーがあり、民族舞踊などを楽しみながら食事をするようになっている。椅子やテーブルがレストランとしてセッティングしてあり、コンサートの時とはまた違った趣がある。
ベジタリアンといってもかなりこってりしたものが出ることは予想していたが、メニューを見るとどれも辛そうである。料理の説明にやたらとSPICYという単語が出てくる。spicyという文字が入っていない料理を頼む。なにやらチキンの料理らしい。
ウェイターが「ナンかライスかどちらにしますか」と聞いてくる。
深く考えないままにナンをもらったが、料理のふたをあけてびっくり!カレーである。道理である。カレーだからナンが付くのだ…カレーだからあえてspicyとは書いていないのだ…道理で、うううう。
料理はよく味が染みていた。表面を削ってもチキンは奥の奥までカレーの味が染み込んでいる。はぁはぁため息をつきながら食事を済ませた。
レストランを出るとき、ウェイターに「よいフライトを」と声をかけられた。日曜日の深夜、多くの日本人が関空へ旅立つのを知っているのだ。こんな心遣いが憎いホテルである。フロントで荷物を受け取り、タクシーを呼んでもらう。タクシーを待つ間にドアマンにさよならをいう。
「このホテルに泊まって本当に楽しかった。ありがとう」