ダルバールスクエアは旧王宮前の大きな広場で、周囲に寺院が建ち並んでいる。
ここも人がごったがえしている。さして用がある風でもないのにぞろぞろと人々が歩いている。われわれの鞄から笛が覗いているせいか、ここでも笛売りが声をかけてくるので、笛を隠す。ガイドブックを広げると、たちまちガイドはいらないか、と呼びかけられる。
王宮の裏手には寺院や塔が並ぶ。牛が平然と歩き回ったり、寝そべっている。猿もいる。
マンダラを売っている店に入る。
手頃なものがあったので、値段を聞くと75米ドルだという。それは高い。安くなるか、と聞いたらたくさん買えば安くしてやってもいい、という。高過ぎるのでやめるというと、70にしてきた。試しに60といってみると、あっさり了承した。値段はあってないようなものだ。いらないというととたんに安くなる。一枚買うと親兄弟にも買っていけ、という。家族を大切にするお国柄か…。
我々が買ったマンダラは小さいものだが、それでも製作に一カ月かかるという。1年かかったという品は確かに気が遠くなるような緻密さである。高い。同じ作者の手による、主のお気に入りの品を見せてくれた。これはいくら大金を積まれても売らないという。どちらの品が好きかと聞くので売りものの方を指さすと、これならば売ってやれる。マダム、あなたのためによい値段をつけよう。あなたに幸せを…。と、とたんに商売気を出してきた。
マンダラ屋を出てさらに奥にすすむと最古の寺だという廃屋のような建物があって山羊がつながれていた。ここでも牛はのんびりして野菜などを食べている。さらに奥のお堂では若い男が足早にお堂の回りを歩きながら、祈りを捧げている。少しでも気をぬくと、ガイドはいらないか、笛はいらないか、短剣はいらないか、仏像はいらないか、と声をかけてくる。
鐘つき堂のような塔があった。石段をあがって景色を見ていたら、下の段にいた男が、「お前の靴はかかとがすり減っている、直したほうがいい。」と言いながら靴の修理道具を開けて見せる。まさしく、人の足元を見る商売である。
反対側に行くと、今度は若い男が声をかけてきた。正面に見えるのがクマリ館で、生き神が住んでいる。是非いくべきだ、と教えてくれた。ありがとう、というと、ところでガイドはいらないか、といってきた。客寄せのサービスだったのか。ガイドはいらない、と断っているいるところへ、またさっきの靴屋が修理はどうだ?と聞いてくる。
うんざりである。