いよいよ最終日である。
それにしてもこのホテルは実にいいホテルだった。向かいの部屋にいた部屋係が、荷物をまとめて部屋を出る私達に「グッバ~イ」と手を振る。その様子が本当に寂しそうで思わずしんみりする。
チェックアウトして、ホテルに荷物を預けて最後の観光に出かけることにする。日本行きの飛行機は深夜零時の出発。今夜出発するのだ、と言うと「ああ大阪行きか」という答え。ここでは常識らしい。
今日はパタンの街へ行く。パタンは古い都である。カトマンズから車で20分ほどの河を越えたところにあり、仏教寺院が多いという。タクシーに乗ると運ちゃんが「いくらでいく?」と聞いて来る。「100ルピー」などといっていると、「冗談じゃねぇぜ」というような応答である。最終日だしまあいいかと思って200ルピーにする。
車が広場につくと、いきなり物乞いが寄って来る。運ちゃんは帰りも乗ってもらいたいらしく、どの位待っていようかとしつこく聞いて来る。全てを無視し、物乞いが寄って来る反対側から車を降りた。ぶらぶらし始めるとたちまち小坊が日本語で話し掛けてきた。この街は観光客を自由にしてくれない所らしい。
「きんいろおてら(金色お寺:golden templeのことらしい)見ますか~」などと勝手にまくしたてている。うざったいので断ろうかとも思ったが、ここで断ってもガイドは次々とやってくるに違いない。それも面倒だ。パシュパティナートのガイドがよかったことを思い出して、値段の交渉に入る。
彼が言うには自分は学生で日本語を勉強したいから値段はいくらでもいい、とのことなので一緒に行くことにした。よく見ると肌もすべすべしてまだほんの坊やである。歩き始めるとすぐに、もっと日本語のうまい年嵩の小坊がやってきた。
「わたくしはですね、日本語の勉強のために、こうしてお話しさせていただいてますので、お金はいいんです。ええ。ほんとに」などと妙に如才ない。これでは日本人のサラリーマンのようである。
こちらは二人、ガイドも二人。何故かマンツーマンでマークされてしまい、変な取り合わせでお寺を見学する。すっかりお株を奪われてしまった小坊がご機嫌ななめになったり、同じ説明を2回ずつ聞くことになったり、結構気疲れする。
なんとかしてほしい。
途中で小坊の一人が、「僕のお兄さんが曼荼羅を描いている。その店に行こう」といい出した。夫は既にカトマンズで曼荼羅を買っているので要らないと言ったが結局店に行くことになった。曼荼羅屋でまた二回ずつ曼荼羅の説明をうける羽目になる。
買わなくてもいいからと言われて見せてもらうと、なるほど質がいい。しかもカトマンズよりずっと安いようだ。なんだかんだとやっているうちに再度曼荼羅を買ってしまう。
マンダラ屋を出たあと、如才ない小坊はそのうちどっかに行ってしまった。夜ネパールダンスの観光ツアーがあるので行かないか、と熱心に誘われたのだが断ったのを断ったのがいけなかったのだろうか。他にめぼしい客を探しに行くらしい。
残った小坊に午後も案内してもらうことにして、とりあえず昼食にする。この子はとかく決断が早い。さささっとオープンテラスの店に入る。話を聞くと、彼は今は英語学校に通っていて、そこを終えたら日本語学校にいくつもりだという。ネパールでも日本語は人気らしい。歳は16。道理でしぐさが可愛い。
お兄さんの歳はというと、知らない、という。さっきの曼荼羅屋は本当の兄ではないらしい。小坊は観光客を案内してはマージンをもらっているのだろう。まあご愛敬である。
空は澄み渡り、日差しは柔らかい。そよそよと風に吹かれ、気持のいい午後になった。