われわれの乗ったヴァージンアトランティック便は定刻をはるかに過ぎて、ロンドン、ヒースロー空港に到着した。
これというのもタイヤの交換で成田で3時間も待ちぼうけを食わされたためである。機内で繰り返される案内は「少々お時間がかか
る場合が予想されます」の一点張りで、この場合の「少々」がいったいどの程度の時間なのか、さっぱりわからない。マクドナルド
の「少々」とはレベルが違う。止まっている間にも機内ではじゃんじゃん飲み物や軽食が配られ、「少々」が「相当」であることを
覚悟させた。しかしそこはそこ、相手はイギリス人であるゆえ、不満げなそぶり一つ見せずに鷹揚に構える他はない。何といっても
イギリスである。大英帝国である。女王陛下の国である。君臨すれども統治せずである。我が家と同じである。あ、いや、それはと
もかく紳士の国である。テディベアとパディントンの国なのである。
前回のカトマンズ紀行とは打って変わった思い入れだが、これにはわけがある。今をさかのぼること10余年前、私が初めて本州を
出たとき、飛行機に乗って向かった場所が他ならぬロンドンだったのである。そう、その頃はロンドンまでの直行便はなかった。ヴ
ァージンアトランティック航空だってこの世に存在しなかった。心細い思いをしながら格安チケット屋で斡旋されたアエロフロート
便に一人乗ったのだった。あの頃はまだソ連が解体していなかった。ばりばりの共産圏の貫禄のあるスチュワーデスにびびりながら
、兵士が銃を構えるモスクワを経由してロンドンに着いたのは9時を回っていて、真冬のロンドンは夜の帳が下り、空から見える街
灯のオレンジ色の光を、窓ガラスに額をくっつけて飽きもせず見つめていたのである。
今回私がイギリスに来たのは、夫の在外研究にくっついてのことなのだが、何を隠そう私はイギリスが大好きなのである。私が頼ま
れもしないのに、ローラアシュレイの花柄のワンピースを着、紅茶には冷たいミルクを入れ、休日にはせっせとガーデニングに精を
出しているのはそういうわけなのである。私の日常を知っている人々は、私が無理矢理夫にイギリス行きを決めさせたと思っている
向きもあるようだが、それは誤解である。
ロンドン到着は午後9時。夏時間ゆえ、まだ日は落ちずあたりは明るい。一路ハイウェイをケンブリッジに向かう。牧草地帯に映え
る緑が美しい。自然と気分が高揚してくるのがわかる。
とにかく、こうしてわれわれのここでの生活が始まったのである。
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