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白夜行8-5

时间: 2017-01-17    进入日语论坛
核心提示:『MUGEN』は、十二月三十一日まで店を開けることになっていた。その理由を桐原は二つ挙げた。一つは、年末ぎりぎりになって
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『MUGEN』は、十二月三十一日まで店を開けることになっていた。その理由を桐原は二つ挙げた。一つは、年末ぎりぎりになって年賀状を書こうとする連中が、ワープロなら楽ができるのではないかと期待して買いに来る可能性があるということで、もう一つは、年末になっていろいろと金の計算をしなければならない人間たちが、突然パソコンの調子がおかしくなって駆け込んでくることもあるだろうというものだった。
 しかし実際にはクリスマスが過ぎると、店には殆ど客が来なくなった。たまに来るといえば、ファミコン屋と間違えて入ってくる小学生や中学生ぐらいだ。暇な時間を友彦は、弘恵とトランプをして過ごした。机の上にカードを並べながら、これからの子供たちは、もしかすると七並べやババ抜きも知らなくなるかもしれないと二人で話したりした。
 客は来なかったが、桐原は連日忙しそうに出歩いていた。『スーパーマリオブラザーズ』の海賊版作りに動いていることは間違いなかった。桐原さんはいつもどこへ行くのかしらと疑問を口にする弘恵に対し、友彦はうまい言い訳を探すのに苦労した。
 松浦が顔を見せたのは、二十九日のことだった。弘恵は歯医者に出かけており、店には友彦しかいなかった。
 松浦の顔を見るのは、最初に会った時以来だった。相変わらず、顔色はくすみ、目は濁っていた。それをごまかすかのように、この日は色の薄いサングラスをかけていた。
 桐原は出かけているというと、例によって、「ほな、待たせてもらおか」といってパイプ椅子に腰を下ろした。
 松浦は、襟に毛のついた革のブルゾンを着ていた。それを脱ぎ、椅子の背もたれにかけながら店内を見渡した。
「年の瀬やというのに、しぶとう店を開けとるなあ。大晦日までか?」
 そうです、と友彦が答えると、松浦は肩を小さく揺すって笑った。
「遺伝やな。あいつの親父も、大晦日の夜遅うまで店を開けとく主義やった。年末は、掘り出し物を安う叩くチャンスやとかいうてな」
 桐原の父親についての話を、桐原以外の人間から聞くのはこれが初めてだった。
「桐原の親父さんが亡くなった時のこと、御存じですか」
 友彦が質問すると、松浦はぎょろりと目玉を動かして彼を見た。
「リョウから話を聞いてへんのか」
「詳しいことは何も。通り魔に刺されて死んだというようなことを、以前ちらっとだけ……」
 その話を聞かされたのは、数年前だ。親父は道端で刺されて死んだ――桐原が父親について語ったことのすべては、殆どこれだけだったといっていい。友彦は強烈に好奇心を刺激されたが、何一つ尋ねることはできなかった。この話題に触れることを許さない雰囲気が、桐原にはある。
「通り魔かどうかはわからんな。何しろ、犯人が最後まで捕まらんかった」
「そうなんですか」
「近所の廃ビルの中で殺されとったんや。胸をひと刺しやった」松浦は口元を歪めた。「金がとられとったから、強盗の仕業やろうと警察は踏んでいたようや。しかも、その日にかぎって大金を持ってたから、顔見知りやないかと疑ってたみたいやな」何がおかしいのか、途中でにやにや笑い始めた。
 その笑いの意味を友彦は察した。「松浦さんも疑われたんですか」
「まあな」といって松浦は声を出さぬまま、表情をさらに崩した。人相の悪い顔は、どんなに笑っても不気味にしか見えなかった。松浦はそんな笑いを浮かべて続けた。「リョウのおふくろさんはまだ三十代半ばで女っぷりもよかった。そんな店に、男の店員がおったわけやから、いろいろとあることないこと勘ぐられる」
 友彦は驚いて、目の前にいる男の顔を見返した。この男と桐原の母親の仲が怪しまれたということか。
「本当のところはどうやったんですか」と彼は訊いてみた。
「何がや? 俺が殺《や》ったわけやないぞ」
「そうじゃなくて、桐原のおふくろさんとの仲は……」
 ああ、と松浦は口を開けた。それからちょっと迷うように顎《あご》を撫《な》でた後、「何にもなかったで」と答えた。「何の関係もなかった」
「そうですか」
「そうや。信じられへんか」
「いえ」
 友彦は、この点についてこれ以上深く詮索するのはやめておくことにした。
 だが彼なりの結論は出ていた。松浦と桐原の母親には、おそらく何らかの関係があったのだろう。もっとも、それが父親が殺された事件に関係しているかどうかはわからない。
「アリバイとかも調べられたんですか」
「もちろんや。刑事はしつこいからな。生半可なアリバイでは納得してくれへんかった。ただ俺がついてたのは、ちょうど親父さんが殺された頃、店に電話がかかってきたことや。事前に打ち合わせがでけへん電話やったから、警察もようやく俺から目を離してくれたというわけや」
「へえ……」
 まるで推理小説の世界だなと友彦は思った。
「その頃桐原はどうしてたんですか」
「リョウか。あいつは被害者の息子やからな、世間からしきりに同情されとったわ。事件が起きた時は、俺やおふくろさんと一緒におったことになってるしな」
「なってる?」その言い方が引っかかった。「それ、どういう意味です」
「いや、別に」松浦は黄色い歯を見せた。「なあ、リョウは俺のことを、あんたにはどんなふうにしゃべってるんや。昔の使用人やというてるだけか」
「どんなふうにって……恩人だというてましたよ。養ってもらってたと」
「そうか、恩人か」松浦は肩を揺すらせた。「それはええ。たしかに恩人やろな。せやからあいつは俺には頭が上がらん」
 意味がわからず友彦が質問をしようとした時だ。
「えらい古い話をしてるやないか」不意に桐原の声が聞こえた。入り口の前に彼が立っていた。
「あ、お帰り」
「昔話なんか聞かされても、退屈なだけやろ」そういいながら桐原はマフラーをほどいた。
「いや、初めて聞く話やから、かなり驚いている。正直なところ」
「あの日のアリバイの話をしとったんや」松浦がいった。「覚えてるか、ササガキという刑事。あいつ、しつこかったなあ。俺とリョウとリョウのおふくろさんの三人に、一体何回アリバイの確認をしよった? うんざりするほど、何遍もおんなじ話をさせられたで」
 桐原は店の隅に置いた電気温風ヒーターの前に座り、両手を暖めていた。その姿勢のまま、松浦のほうに顔を向けた。「今日は何か用があったんか?」
「いや、特に用はない。年越しの前にリョウの顔を見とこうと思うてな」
「それなら、そのへんまで送るわ。悪いけど、今日はいろいろとやらなあかんことがあるから」
「なんや、そうか」
「うん、マリオのこととかな」
「おう、それはあかん。しっかりやってもらわんとな。で、順調か」
「予定通り」
「それはよかった」松浦は満足そうに頷いた。
 桐原は立ち上がって、再びマフラーを首に巻き付けた。松浦も腰を上げた。
「さっきの話の続きは、また今度な」松浦は友彦に向かってそういった。
 二人が出ていってしばらくしてから、弘恵が戻ってきた。下で桐原と松浦を見たといった。松浦の乗ったタクシーが動きだすまで、桐原は道路脇に立っていたらしい。
「桐原さん、どうしてあんな人を慕うのかな。昔世話になったというけど、要するにお父さんが亡くなった後も、そのまま働いていたというだけのことやないのかなあ」
 不可解だといわんばかりに、弘恵はゆらゆらと頭を振った。
 友彦も全く同感だった。先程の話を聞いて、ますます解《げ》せなくなった。松浦と桐原の母親の間に何かあったのなら、あの勘の鋭い桐原が気づかないはずがない。そして気づいていたのなら、現在のような態度を松浦に対してとるとは思えなかった。
 松浦と桐原の母親との間には、何もなかったということか――ついさっき確信したばかりのことについて、友彦は早くも自信を失いかけていた。
「桐原さん、遅いね」事務机に向かっていた弘恵が、顔を上げていった。「何してるのかな」
「そういうたらそうやな」松浦がタクシーに乗って立ち去るのを見送っていたとしても、とっくに戻ってきているはずだった。
 気になって友彦は部屋を出た。そして階段を下りようとしたところで、その足を止めた。
 桐原が、一階と二階の中間にある踊り場に立っていた。二階にいる友彦からは、彼の背中を見下ろす形になる。
 踊り場には窓がついていた。そこから外を眺めることができる。すでに午後六時近くになっているので、通りを走る車のヘッドライトの光が、彼の身体をスキャンするように通過していく。
 友彦は声をかけられなかった。じっと外を見つめる桐原の背中に、ただならぬ気配を感じた。
 あの時と同じだ、と友彦は思った。桐原が松浦と再会した時のことだ。
 友彦は足音を殺し、部屋の前まで戻った。そして音をたてぬよう気をつけてドアを開き、身体を中に滑り込ませた。
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