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探偵ガリレオ 第三章 壊死る 06

时间: 2017-12-28    进入日语论坛
核心提示:       6 『キュリアス』に行った翌日の午後四時過ぎ、草薙は一人で、埼玉県|新座《にいざ》市にある東西電機株式会社
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『キュリアス』に行った翌日の午後四時過ぎ、草薙は一人で、埼玉県|新座《にいざ》市にある東西電機株式会社埼玉工場を訪れた。内藤聡美の昼間の勤務地がここであることを、彼は突き止めていた。本当はもっと早くに行動したかったのだが、『キュリアス』のママが午後二時になるまで電話に出てくれなかったのだ。
 正門で来客簿に名前を書き、その場で社内電話を借りて、聡美の職場である試作部試作一課にかけてみた。身分を名乗り、そちらの職場について少し訊きたいことがあるので職場の人と話をさせてほしいというと、所属長である課長は、途端に緊張した声を出した。「うちの職場が何か?」
「いえいえ、何かの事件に関わっているとか、そういう意味ではないんですよ。むしろ、ちょっと御相談したいことがあるといったほうがいいんです。どなたか、時間を割《さ》いてくださる方はいらっしゃいませんか。もちろん、どなたもお忙しいでしょうが」
「はあ、そういうことですか。じゃあ、誰がいいかなあ。男の社員のほうがいいでしょうねえ」
「そうですね」と草薙は答えた。聡美のことを訊くには女のほうがよさそうだが、そういって聡美本人に来られたら困る。
 では誰か行かせます、といって課長は電話を切った。
 守衛室前で五分程待っていると、四十半ばぐらいの背の低い男が、とぼとぼと近づいてきて、班長の小野寺と名乗った。なるほどと草薙は合点した。現場で一番簡単に時間を割けるのは、班長ということになるらしい。
「ええと、それで、どんなことを話せばいいんでしょうか」小野寺は作業帽の上から頭を掻きながら訊いた。わけがわからぬまま刑事と会うことになり、戸惑っているのだろう。
「職場のことを話してほしいんですよ」草薙は和《なご》やかな顔を作っていった。「仕事の内容だとか、職場で働いている人たちのことです」
「ははあ、そうですか」班長は今度は首筋に手をやった。「じゃあとりあえず、うちの現場でも見てみますか」
「いいんですか」
「はあ、一応許可は貰ってますんで。そのかわり、これとこれを身につけてくれますか」そういって小野寺が差し出したのは、見学者と書かれた帽子と、レンズに度の入っていない眼鏡だった。
 職場は試作工場の中だと彼はいった。試作部というのは、その名のとおり、部品や製品の試作品を作る部署らしい。特に小野寺たちの試作一課では、電気部品の試作品を主に作っているという話だった。
「ああ、そうだ。これに見覚えはありませんか」
 工場に向かう途中、草薙は上着のポケットからビニール袋を取り出した。中に入っているのは、高崎紀之が洗面所で拾った軍手だ。
「この軍手ですか」小野寺はじろじろと眺めてから首を捻った。「さあ、うちの職場で使ってるのと同じに見えるけど、こんなの、そういくつも種類があるわけじゃないもんねえ」
「そうでしょうね」予想通りの答えだったし、最初からさほど期待していなかったので、草薙はすぐにビニール袋をポケットにしまった。
 試作工場は、ふつうの体育館なら二つか三つは楽に入りそうな大きさをしていた。その広大なフロアに、旋盤やボール盤をはじめとする工作機械が無数に並んでいる。それぞれの部署の間に間仕切りのようなものはなく、頭上に、『試作一課』などと書いたプレートが掲げられていた。オートメーション化された工場というより、巨大な町工場という印象を草薙は持った。
「生産ラインみたいなものはないんですね」草薙は小野寺にいった。
「そりゃあそうです。生産ラインというのは、きちんと設計も固まって、大量生産が決まってから作るもんです。ここでは、まだ設計者も自信がないようなものを、試しに作るわけです。いわば、一品ものを手仕事で作るんですよ」
「難しそうですね」
「そうですね。いろいろと無理なことも要求されます。だから、結構最新の設備を持ってますよ。鉄板の型抜き加工なんか、一品もののためにわざわざ型を作るわけにもいかないから、レーザー切断機を使ったりするんです」小野寺は鼻を少し膨らませ気味にしていった。仕事に誇りを持っている様子だった。
 工作機械を扱っている作業者は例外なく男子だったが、巻き線班と表示された部署で小さなコイルを作っているのは、全員が若い女性だった。そして男子にしろ女子にしろ、皆が帽子と安全眼鏡をつけていた。草薙は、内藤聡美の昼の職場を見抜いた湯川の慧眼《けいがん》に、改めて舌を巻いた。
「試作一課には事務所のようなものはないんですか」
「うちのというより、試作部全体の事務所が工場の奥にあります。御案内しましょうか」
「そうですね」少し考えてから草薙は頷いた。「ええ、お願いします」
 迷ったのは、内藤聡美と顔を合わせた場合を想像したからだが、その時はその時だと開き直ることにした。
 事務所に行くと、小野寺が課長に草薙のことを紹介した。草薙は素早く事務所内を見回したが、幸い内藤聡美の姿はなかった。
 伊勢という名字の課長は、草薙が何を調べているのかをしつこく尋ねてきた。仕方なく彼は、もう一度さっきの軍手を出し、ある事件の現場にこれが落ちていたのだといった。「どうしてこの軍手から、うちの職場を?」伊勢は当然の疑問を口にした。
「それはまあ捜査上の秘密です。でも、調べているのは、こちらだけではありませんからご心配なく」草薙は早々にビニール袋を片づけた。「ところで、おたくの課には女子社員の方はいらっしゃらないんですか」
「女子作業員という意味ですか」
「いえ、そうではなく……」
「事務員ですか。いますよ、一人。内藤という者です」伊勢はちらりと周りを見た。「今ちょっと、上の者に呼ばれて、ほかのところに行ってるんですが」
「どういう人ですか」
「どういうって、まあ、ふつうの女の子ですよ」
「周りが男性ばかりだから、さぞかし人気があるんでしょうね」
「それはまあ」伊勢は黄色い歯を見せた。
「同じ職場に付き合っている人がいるとか」
「さあ、そういう話は聞いてませんが……ええと、内藤が何か?」
「いや、単なる好奇心です」
 この中年男が内藤聡美の本性について何か知っているとは思えなかった。それより草薙は、先程から自分たちのほうを気にしている女子社員がいることに気づいていた。少し離れた席で何か書きものをしているショートヘアの娘だ。
 草薙は適当に礼をいい、腰を上げた。まだ残っていた小野寺が門まで送っていくといったが、丁重に辞退した。
 ショートヘアの女性の後ろを通る時、草薙は彼女のすぐ前に置いてある電話機に視線を走らせた。受話器に書かれている四桁の数字は、内線番号だと思われた。彼はそれをしっかりと記憶に刻み込んだ。
 事務所を出ると、彼は近くの電話で、早速覚えたばかりの番号にかけた。窓ガラスを通して、あのショートヘアの娘が受話器を取るのが見えた。
 草薙は彼女を驚かせないよう慎重に名乗り、事情があって伊勢課長たちには内緒で、内藤聡美さんについて尋ねたいのだといった。彼が直感したとおり、彼女は快く協力を約束してくれた。たぶん、先程からずっと好奇心を刺激され続けていたのだろう。
 工場の外にある休憩所で待っていてくれと彼女はいった。それで草薙がそこへ行き、自動販売機でコーヒーを買っていると、彼女は小走りに現れた。
 橋本妙子というのが彼女の名前だった。試作二課に所属しているという。草薙は、休憩所の中に並んだ長椅子の一つに、彼女と二人で並んで腰かけた。
「じつはある人物が変死してね。関係者について情報を集めているんだけど、その一人に内藤さんがいるんだ」この相手には、ある程度本当のことを話したほうがいいと判断して、草薙はいった。
「それ、男の人でしょう」橋本妙子は、細い目を光らせていった。
「どうしてそう思うわけ?」
「違うんですか」
「立場上、あまり情報を漏らすわけにはいかないんだが、まあ否定はしないでおこう」
「やっぱり」橋本は舌なめずりしそうな顔で頷いた。
「そんなふうにいうところを見ると、内藤さんはかなり男性関係が派手なのかな」
「そのはずです。彼女、会社ではおとなしそうな顔してるけど、盛り場で知らない男性と一緒にいたのを見たっていう人、結構いるんです」
「へえ」この口調から察すると、橋本妙子は聡美が水商売のアルバイトをしてることは知らないらしいと草薙は思った。「特定の恋人はいないのかな」
「さあ。でも、少なくとも職場にはいません。彼女、現場の人間には興味がないって、よくいってましたから」
「そうなの」
「結婚するなら東京出身のエリートだって。自分だって高卒で、新潟から出てきたくせにね」橋本妙子は口元を歪めた。
「プライドが高いんだ」
「それはもう」妙子は大きく頷いた。「試作部の別の課に、彼女の部屋に遊びに行ったっていう子がいるんです。部屋中ブランド品の山だっていってました。でもね」声をひそめた。「カード破産しそうになったらしいんですよ」
「本当かい」
「だってそれについて相談された子だっているんですから」
「で、なんとかなったのかな」
「なったみたいです。みんなで、どうやって切り抜けたんだろうって噂してたんですけどね。借金が何百万もあったはずなのにって」
「それはすごいな」
「でしょう?」妙子は目を大きく開いた。
 あの店での稼ぎだけで、そういう借金を返すのは無理だろうと、草薙は『キュリアス』の店内を思い浮かべた。
 草薙は妙子と一緒に休憩所を出た。礼をいって別れようとした時、彼女がある方向を指差して囁《ささや》いた。
「あそこに歩いている彼も、聡美に夢中なんですよ」
 草薙は指された方向を見た。作業服を着た若者が、台車を押しながら歩いているところだった。
『キュリアス』の外で聡美を待っていた若者に違いなかった。
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