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黒猫亭事件--三(3)_本陣殺人事件(本阵杀人事件)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:「ところが、そうして手切れ金までとって別れながら、実際は、お繁と旦那の仲は、きれいになっていないらしいんです。最近まで、
(单词翻译:双击或拖选)

「ところが、そうして手切れ金までとって別れながら、実際は、お繁と旦那の仲は、きれ

いになっていないらしいんです。最近まで、ちょくちょく逢っていたということです、亭

主もそれを知っていて、よく、夫婦のあいだに悶もん着ちやくが起こったそうですが、な

にしろ、亭主にしてみれば、ここンところ女房に頭があがりませんや。女房の腕で、無一

文の引き揚げ者が、とにかく食っていけるんですからね。それに、この亭主のほうにも、

ほかに女があったというんです」

「ほほう。で、その女というのは?」

「それがね、やっぱり中国からの引き揚げ者なんです。さっきも申し上げましたが、亭主

の大伍は女房より、ひとあしおくれて引き揚げて来ましたが、そのとき、船でいっしょに

なった女なんだそうです。それで内地にかえってから、糸島がお繁を探し出すまで、しば

らく同棲していたらしい。それのみならず、糸島がお繁と元の鞘さやにおさまってから

も、ときどき、逢っていたらしいというんです」

「それも、やっぱりお君の話かね」

「ええ、そうです」

「お君は、しかし、どうしてそんな、詳しい話を知っているんだね」

「それはマダムからきいたんですね。マダムは彼女をスパイに使っていたらしく、一度お

君は、マダムの命令で亭主のあとを尾行して、糸島がその女と逢っているところを、突き

止めたことがあるそうです」

「すると、マダムもその女の存在を知っていたわけだね。ところで、お君が亭主を尾行し

たという話、それ、もうすこし詳しくわからないかね」

「ええ、その話を、お君も得意になってしゃべっていましたから、私もよく憶えています

が、だいたい、こんないきさつのようでした」

 ちかごろでは、酒も料理も不自由だから、「黒猫」でもよく休むことがあったが、そん

な時には、マダムはきまって一人で外出した。いうまでもなく、旦那とどこかで逢うため

だった。それを知っているから、あとに残った亭主の糸島は、いつもとても不機嫌だっ

た。日頃はめったにあらい言葉を使わぬ男だのに、そんな時にはしたたか酒を呷あおっ

て、お君に当たり散らしたりした。マダムがかえって来ると、いつもひと悶着起こるの

だった。ところが、そのうちに、糸島の様子が急に変わって来た。女房が出かけると、自

分もそわそわと出かけるようになった。お君はそれを妙に思ったのである。どうもちかご

ろのマスターの様子はおかしい。──と、そこでこっそり、マダムにそのことを耳打ちする

と、お繁ははっと思い当たるところがあったらしく、今度自分が出かけたあとで、マス

ターが外出したら、こっそりあとをつけておくれ。──

「と、そういうわけで、お君は糸島の尾行をしたんですね」

「そして、相手の女というのを見たんだね、いったい、どういう女なんだね。そいつは」

「なんでも、二十四、五の、とても印象の派手な女だそうです。断髪の、口紅の濃い、ひ

とめ見て、ダンサーかレヴィユーの踊り子と、いったかんじの女だったそうです。糸島は

その女と新宿駅であって、井いの頭がしらへいって、変な家へ入った。──と、そこまで見

届けて、マダムに報告すると、さあ、マダムが口惜しがってね。その女ならまえに日華ダ

ンスホールにいた、鮎子という女にちがいない。糸島といっしょに、中国からかえって来

た女だが、ちきしょう、それじゃまだ、手が切れていないんだね。──というようなわけ

で、その晩はなんでも亭主とのあいだに、大悶着が起きたそうです。いや、あの晩ばかり

じゃない。それ以来、常に雲行き険悪で、夫婦のあいだにいざこざが絶えなかったといい

ます。しかし、そのうちに、マダムのほうでしだいに反省して来たんですね。ちかごろ

じゃ、こんな生活、一日も早く清算したい。貧乏してもいいから、夫婦まともに暮らして

いきたいなんてことを、口癖のようにいっていたそうです。そして、それには東京にいて

は、いままでのひっかかりがあるから夫婦とも駄目だ。いっそどっか遠いところへ行って

しまいたい。──と、そんなことをいってた矢先ですから、マスターが突然、店の閉鎖を申

しわたしても、お君はそれほど、驚きはしなかったというんです」

 司法主任はしばらく無言で、いまの話をあたまの中で組み立てていた。こんな話、かく

べつ新しいことではない。この社会にはザラにある話であった。しかし、それにもかかわ

らず、司法主任は何かそこにえたいの知れぬ、うすら寒いものをかんじずにはいられな

かった。表面にういているその事実の底に、何かしら、一種異様なドス黒さが、よどんで

いるように思われてならないのだった。

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